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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第一章 零印
36/154

35 さ、さんびゃくろくじゅうきゅうまん?

説明回②

 35


「いやいやいやー、俺はクラリスちゃんに決めつけるなって言っただけでしょー? そうかもしれないしー、そうじゃないかもしれないのー。そんな前代未聞の代物、誰にもわかんないよー」


 わりと本気の敵意に気付いたのか、ラフルはブンブンと手を振る。

 そして、その主張はその通り。

 ラフルが何でも知っているわけじゃない。

 知っているとしたら、それこそ神様ぐらい。

 知らないと責めるのは言いがかりだ。


「ごめん。甘えた」

「いいよー。ほら、正義の味方っぽいだろー?」


 冗談っぽく笑うラフル。

 その気遣いに乗って笑い返す。


「うん。ま、いいや」


 呪印。

 赤い真円。

 魔王と覇王。


 気になる事ばかりだけど、それに飲まれるところだった。

 僕は右手を握りしめて、零印を見下ろす。

 本当に今、重要なのはこいつの正体じゃない。


「これ、どんな力があるの?」


 メカクレちゃんと、家族を助けられるかどうかだ。

 その役に立つのか、立たないのか。

 それだけでいい。


「いい顔だねー」


 ヘラヘラとしながら好戦的な目をしたラフル。

 だけど、すぐに首を振る。


「けど、呪印ってあんまりわかってないんだよー。魔王と覇王はどっちもすげー魔力を持っていたのとー、シンボルなしでもどの属性の魔法も使えたーとか。そんぐらいなんだよなあ」


 属性の方は当てにならない。

 なにせ、そもそも魔法自体が使えないんだから。


「魔力量」

「そうそれー。少年の最大の武器はそれだー」


 メカクレちゃんを始め、ラフルもクラリスも巡回神父も。

 外の魔力がわかる人たちは僕を見て、誰もが驚愕していた。

 いや、メカクレちゃんはリアクションがわかりづらかったけど、あれはかなり驚いていたんだと思う。


「ま、呪印のせいでそうなったとは思わないんけどなー」


 そうだった。

 ラフルは僕を誘った時にも魔力量の事を教えられると言っていた。


「……ラフルは、何かわかるの?」

「推測だけどなー。少年は魔力、使えないんだろ?」


 それはそうだ。

 そもそも誰でも無意識に使える身体強化の魔法も使えないから、魔力がないんだと思っていたんだから。


「そもそも魔力がわからない」


 ベルやヌイ、他の村の人から聞いてもわからなかった。

 ポカポカしてるとか、グルングルン回っているとか、ギュッと固められるとか。

 抽象的な表現で言われたのもあるけど、そんな力が自分の中にあるのがちっとも感じ取れない。

 僕の返事がわかっていたのか、ラフルは頷いて続けた。


「つまりー、少年は魔力を集める力はあるけど、それを感じ取る事も、操る事もできないんだよなー?」


 確信したとばかりにラフルは何度も頷いて、乾いた声で笑い始める。


「はははー。少年、魔力量ってどうやって増えると思うー?」

「知らないよ。そんなの。数印が増えるから? つまり、才能?」

「ぶっぶー。才能ってのはその通りなんだけどー、そいつは逆だよ。逆。魔力量が多いからー、数印は増えるんだー」


 だから、数印が多くなれば魔力も多くなるって同じ意味……じゃないのか。

 数印の多寡は魔力量を示しているだけの数値、と。

 才能で数印は増えない、と。

 別の要因が左右する?


「余剰魔力だよ」


 あっさりと正解が口にされる。


「余剰魔力?」

「そ。教会とか王国の偉い人しかしない事なんだけどなー。どうやったら魔力量が多くなるのかってのはー、昔から調べられていたんだー」


 それは不思議じゃない。

 高いレベルの数印を持つ人は貴重。

 さっきのラフルやクラリスの戦いを見ればわかる。

 あんな人をたくさん揃えられる国は強力な軍隊を持っているのと同じだ。

 なら、戦力を増やす方法を考えるだろう。


「氷」


 ラフルは右手に氷のお椀を作り出す。


「こいつが数印【Ⅰ】の魔力の器だとするだろー。んでー、水」


 言いながらも左手から今度は水を注いでいく。

 すぐに水は器一杯になろうとするけど、溢れようとした分が器の淵で凍りだした。


「水が魔力だと思ってなー。使い切れずに余った魔力はー、器になって受け皿を大きくするんだよー。これが数印【Ⅱ】ってとこなー」


 器用に氷の器には「Ⅱ」と刻まれる。

 数印は器の大きさを示す基準って事か。


「でも、その理屈だと誰でも大量の魔力を持っているんじゃ?」

「ん。だからー、条件が二つあるんだー」


 唐突に氷の器の底に穴が空いた。

 そこから水がスッと流れ出す。


「この流れ落ちるのが使用した魔力、と」

「……ああ。なるほど」


 当たり前だけど、魔力は使われただけ減る。

 でも、それだけヒントをもらえれば色々と想像できた。


「赤ん坊のうちは生きるだけだから魔力が溜まりやすい。小さいうちも家の手伝いも仕事もない。だから、どの人も【Ⅴ】ぐらいはなれる。でも、そこから働きだすと強化魔法を使う頻度が上がるから、魔力の消費量も増えて余剰がなくなる。数印が成長できなくなる」


 ラフルは僕の理解に合わせるように氷と水を操作している。

 注がれる水の量は器に合わせて多くなっている様だけど、それ以上に底から落ちていく水の量が増えていた。

 数印が【Ⅴ】になったところで余剰はなくなり成長も止まってしまった。


 これがほとんどの人の魔力量。

 きっと魔力の使い方がうまい人だけが器を大きくできる。

 あるいは、魔力消費の少ない生活をしてもいいのか?

 ああ。なら、この事を知っている貴族とかは子供に大切に育てて数印を成長させるのかもしれないな。

 いや、それってどうなんだろう?


「魔力が多いだけって役に立つ?」

「ま、それは少年の思う通りだろうなー」


 だよね。

 魔力が多いだけの箱入りじゃ戦力としては意味がない。

 まして魔力量が互角の相手なら、使い方がうまい人の方が戦力になる。


「……ん?」


 待て。

 魔力の使用量が減ると成長しやすい?

 それって、何も手伝いとか仕事とか運動に関わる事だけじゃないよな。


 例えば、生活習慣。

 この世界の人は身体強化をするから生水を飲んでも、傷んだ食材を食べても、衛生状態が悪くても、病気にならない。

 とはいえ、そのために魔力の消費が増えるはずで、それを別の手段で解決すれば魔力消費が減る。


 だとすると、僕に合わせて健康的な生活習慣をしていたベルとヌイの数印が高くなったのって、そういう事!?

 いや、それなら二人だけじゃなくておじさんと叔母さんの数印も高くならないと理屈が……。

 そうか。


「数印の成長は一年に一度だけ……それが、もう一つの条件?」

「少年は頭が良くて説明いらずだなー。正解ー。数印一つにつきー、二百ずつっていうのが主流だなー」


 器の成長が続くか止まるかは誕生日のタイミング。

 これを逃してしまうともう成長できない。


 【Ⅰ】なら200

 【Ⅱ】なら400

 【Ⅲ】なら600……って感じなのか。


「なんだ、これ。誰かが作ったみたいな……」


 システマチックすぎるだろ。

 自然にできあがったとは思えない。

 本当に神様っているのか?

 ……ああ。

 だから、教会は数印を神聖視しているのか。

 神様から人類への贈り物だ、と。


「少年ー?」

「ああ。うん。なんでもない。大丈夫。主題はそっちじゃない」


 いけないな。

 何度も脱線しそうになる。


 ともあれ、魔力量のロジックはわかった。

 そして、僕の魔力量の謎もわかった。


「生まれてから一度も魔力を使っていない僕って、どうなってると思う?」

「それなー。俺も推測立ててから気になってさー。計算してみた。すっげー単純な計算だけどー……」


 ラフルが掘っ立て小屋の別の壁を指さした。

 そこには計算式が書かれている。

 たくさん刻まれた黒炭の数字の中、大きく丸をつけられた部分。

 3690000と書かれて……。


「さ、さんびゃくろくじゅうきゅうまん?」

「はははー。ちなみにー、俺の【Ⅻ】で二万四千なー」


 ラフルの約百五十倍。


「もうひとつおまけにー、数印の過去最高記録って13だからなー」


 それでも僕の方が百倍以上多い。

 そりゃあ、クラリスも巡回神父も驚く。

 というか、神父のリアクションの方が自然だろう。

 他の三人が図太すぎる。


 ただ、それがわかっても問題の解決にはならない。

 さっきラフルにも確認したけど、魔力量が多いだけでは戦力にならない。


「役に立たない……」

「いーや、そこは使いようって奴だなー。俺の提案、聞くー?」


 いかにも悪だくみしてますという顔でラフルは笑った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔王も覇王も異世界人だったのかな?
[一言] 悪巧みの内容、楽しみ
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