表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアクタ  作者: いくさや
第一章 零印
33/154

32 ラフル、もういいから! 逃げて!

 32


「クラリスちゃんとの模擬戦はいつ以来かなー?」


 変わらない口調だけど、ラフルの雰囲気が少し変わる。

 クラリスの歩みに合わせて位置取り。

 それでいて神父の事も視界に入るようにしていて、素人目には隙が全く見当たらない。


 静かな間合いの取り合いは数秒。

 唐突に戦いが始まる。


「氷刃」

「水刃」


 ほぼ同時。

 クラリスの放った氷の刃が、ラフルの放った水の刃と激突。

 互いの間合いの中央でぶつかって、一方的に後者が弾け飛んだ。


「あー、威力は相変わらずそっちが上だねー。水刃・閃」


 迫る氷の刃をギリギリでかわし、反撃の魔法を放つラフル。

 今度の水の刃はさっきよりも細い。

 まるで糸。

 けど、速さが段違い。

 気がついた時には水の糸がクラリスの間近まで鋭く迫っていた。


「制御は自分が上だとでもおっしゃいますの? それは何年前のお話ですの?」


 クラシスが何をしたのか、水刃はその体に到達する前に霧散する。

 よく目を凝らしてみると、彼女の体の周辺がキラキラと光っていて……ダイヤモンドダストというやつか?

 あれで攻撃を防いだらしい。

 いつの間にあんな魔法を使ったんだ?


「ひゃあー、腕を上げたんだね、クラリスちゃん」

「以前から何度もお話しましたけど、その『クラリスちゃん』という呼び方、やめていただけませんかしら? 知らない方から懇意と誤解されたらと想像するだけで……吐き気がしますわ」

「おっとー?」


 会話の中。

 いきなりラフルの足元から無数の氷の槍が飛び出した。

 驚いたような声を出しながら、ラフルはそれをゆるゆるとした動きでかわしていく。

 魔法がどこから来るかわかっているのか?

 今、魔法の詠唱? とかなかったのに。


「無詠唱で三節かー、本当に腕を――」

「その感知の鋭さは認めて差し上げますわ。ですけど、わかっていても避けられないならどうしますの?」


 氷の槍は延々と放たれ続けている。

 ラフルに当たる様子はないけど、そんなのはクラリスもわかっているみたいだ。

 動揺した様子もなく、淡々と、でも確かな殺意を込めて次の準備に入っていた。


 魔力がまるで分らない僕でも、空気が変わったのがわかる。

 クラリスが両手を掲げて、瞼を軽く伏せた瞬間。


氷の枝コオリノシ

 降る白雪にフルシラユキニ

 首折るコウベオル

 大樹の陰タイジュノカゲ

 咎人眠れトガビトネムレ


 詩、だろうか?

 物騒な内容に眉をひそめるだけの僕とは対照的に、激しく慌てるのは二人。


「シスタークラリス!? くっ、風壁・層!」

「唱歌!? おいおい、クラリスちゃんってば……ちっ」


 クラリスの次の手は相当すごいのはわかった。

 神父は自分の周辺を守るようにぶ厚い風の壁を張り、ラフルは苦々しい表情を浮かべて舌打ちする。

 そんな二人の反応に一切構わず、クラリスは手を振り下ろした。


「凍原の墓標」


 瞬間、視界が白に染まった。

 いきなり濃霧に包まれでもしたかのよう。

 次に感じたのは刺すような冷たさ。

 今の一瞬で辺りの気温が急激に落ちたのか、春だというのに吐く息が白く染まってしまう。

 地面は雪でも降ったように霜が積もっていた。


「これ、は……」


 発動の瞬間、見えた。

 空から白い煙が吹き注がれたような光景。

 あれはきっと上空から冷気が降り注いだんだ。

 ラフルを中心に数十メートルほどの空間に。

 あり得ない現象のはずだけど、大量の液体窒素が突如発生でもしたらこんなふうになるのだろうか?


 もちろん、槍衾なんてレベルじゃない空間制圧力。

 ラフルに逃げ場はなかった。

 神父が風の魔法で余波を防いでいなかったら、近くの僕たちも全滅していたかもしれない。


「ラフル……」


 勝負は決した。

 あの中で生きているはずがない。

 僕のために死なせてしまったという事実があまりに重くて吐きそうだ。


「つまらない小細工はなさらないで下さいな」


 そのはずなのに、クラリスの表情は厳しいまま。

 鋭い視線を冷気の向こうに飛ばしている。


「背信者ラフル。この程度で終わるなら十年近くも教会から逃げおおせるはずがありませんわ。唱歌であっても命を奪うには至らないでしょう」

「……俺の実力が基準じゃなくてー、教会の力が基準なんだー」


 クラリスの指摘に応えるように、白い冷気の向こう側から声がする。


「水嵐・霧舞」


 続けて放たれた魔法は水の霧?

 辺り一帯を渦巻きながら広がっていき、剥がれ落とすように冷気をさらっていく。

 その向こうからは髪や服に霜が付いたラフルがやってきた。


 生きていた。

 ホッとしたのも束の間。


「でも、ちょっときついかなー」


 唐突に膝をついた。

 よく見なくても顔色が悪い。

 無傷で切り抜けたわけじゃなかったんだ。

 その姿を無感情に見下ろしながらクラリスが呟く。


「……演技ではないようですわね」

「唱歌なんて思いもしなかったよー。クラリスちゃんが使えたのって四節までだったのに、五節を通り越して、伝説の唱歌が出てくるとはねー。それってー、そういうことだよねー? 騎士じゃなくてー、巡回神父付きのシスターなんてどうしたかと思ったけどー、まさかクラリスちゃんが選ばれるなんてねー。そこは計算外だー」

「あなたには関係ない事ですわ」


 魔法について何やらダラダラと話し続けるラフルは、きっと時間を稼ぎたいのか。

 それを切って捨てるクラリスに油断はない。

 緊張感は解けないまま。

 次の一手のタイミングを計っている。


「ラフル、もういいから! 逃げて!」

「うーん。今はそうしたいけど、ちょっとー無理かなー」

「逃がしませんわ。呪印持ちとの関係も教えて頂かないと……ええ。その間だけ生かしてあげてもよろしくてよ?」

「はははー。わあい、優しいー」


 クラリスの優勢は揺るがない。

 ラフルは態度こそ変えないままだけど、立ち上がるのも苦しそうな様子だ。

 対してクラリスは大技を放っていながら、まだ余裕がある。


「顔見知りの誼ですわ。今際の言葉があればどうぞおっしゃいなさい」

「へー。優しいねー、クラリスちゃんは。じゃあ、お言葉に甘えてー」


 ヘラヘラと笑うラフル。

 その目はまだ死んでいない?

 がばっと勢いよく立ち上がると、両手に巨大な水球を生み出した。

 最後の力を振り絞る気か。


「さあて、ここからがお楽しみの時間だー!」


 いきなり大声をあげた。

 それが合図だったのか。

 僕を含めた全員の注目がラフルに集中した瞬間、一陣の黒い風が吹き抜けていく。


「そう」


 どこからともなく突撃してきたメカクレちゃんが、強烈な回し蹴りをクラリスにぶちかました。

メカクレちゃん、不意打ち大好き

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おおっと、ここでメカクレちゃんの乱入だ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ