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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第一章 零印
31/154

30 やめろ! 皆は関係ないだろ!

 30


「お前、何を――」


 すぐ隣にいた村長が肩を掴むけど、乱暴に振り払われる。

 ジュニアは焼けるように熱い目で僕を睨み、続けた。


「そいつの数印は普通じゃない! 零印だ! 魔力も使えない落ちこぼれだ! なのに、どうしてマリアベルはそいつを――」

「ばっ! お前、なんで!」


 そこで座り込んでいたベルが飛び起きて、ジュニアを突き飛ばした。

 あまり手加減できていなかったようで、派手に吹っ飛んだジュニアは後ろの村人を巻き込んで倒れた。

 気を失ったのかそのまま起き上がらない。


 けど、止めるにはあまりに遅すぎた。

 ジュニアの言葉は全員に届いていて、その中にはクラリスも含まれている。


 不自然な静寂が辺りに落ちた。


「……零印? 零――ゼロ……〇?」


 振り返るまでもなく、クラリスがどこを見ているかわかった。

 体の下に隠していた右手。


「数印を無理に暴くのははしたない行いではありますが……見せていただきますわ」


 抵抗の余地はなかった。

 あっという間に体の下から右手が抜き取られ、微動だにできないように極められてしまう。

 痛みはない。

 けど、まるでコンクリートで固められたみたいに指先ひとつ動かせない。


「あら。包帯で隠すなんて……疚しい事でもあるのかしら?」

「それは! 昨日、アクタにいは怪我したから!」


 ベルが叫ぶけど無駄だ。

 本当だろうが、嘘だろうが関係ない。


「そうなのですね。それはおかわいそうに。でも、見せていただきますわ」


 ベルがグルグルに巻いた包帯が外されていく。

 途中でベルが、そしてヌイが近づいて来ようとしたのが目の端に映った。


「いけません。二人ともそこにいなさい」


 二人の前に真っ青な顔のままの巡回神父が立ち塞がる。


「うるせえ! アクタにいを放せ! ヌイ、行くぞ!」

「あい!」

「まったく。優秀な数印を持っていても子供ですね」


 巡回神父が上げた右手を振り下ろす。

 その手の甲には【Ⅹ】の文字と、剣のシンボル。


「風烈・圧」


 突破を図った二人はすぐに止められた。

 まるで突然の強風に煽られたかのように、上半身が泳いでしまう。

 数印の力でこらえようとするけど、数秒も耐えられない。

 すぐに地面に押さえつけられてしまった。

 口を開けるのも難しいのか、声も上げられないでいる。


 これは、風?

 巡回神父の頭上から強烈な風が吹いて、二人を拘束しているのか?

 とんでもない風の威力らしく、余波だけで辺りの木々が激しく揺れて、村の人たちは今にも吹き飛ばされてしまいそうだ。

 転んだ叔母さんをおじさんが庇うのを見て、一瞬で頭に血がのぼる。


「やめろ! 皆は関係ないだろ!」

「ええ。あなたが何者でもなければ、当然。非礼無礼の数々も謝罪も致しますわ。全力で償うとお約束いたしましょう」


 心の底から苦悩しているのか。

 クラリスは悲しそうに顔を俯ける。

 けど、すぐに上がった顔には冷酷な微笑みが浮かんでいた。


「ただ、もしもあなたの右手に呪印があるとすれば、それは別ですわ。知っていた者は許しがたき大罪ですので、神罰を代行しなくては。知らなかった者も無知を嘆いて自死するべきですわね」


 メチャクチャだ!

 村の人は数印のシンボルの事も、僕の魔力の事も知らなかったんだぞ。

 それなのに、ただ居合わせたからってだけで殺すなんて馬鹿げている!


「安心ください。呪印さえなければ関係のないお話ですわ」


 耳元で囁く声に心臓を掴まれた気がした。

 確かな殺意。

 何か、確信めいたものがあるのか。

 先程よりもクラリスの圧が強い!


 なんとかしないと!

 必死に考えるけど……ダメだ。

 情報が足りない。

 考える時間が足りない。

 抵抗する力がまるでない。


 何もできないうちに包帯が外されていく。

 するすると目の前に積まれていく包帯。

 僕の命のカウントダウンに思えてしまうのは考え過ぎなのか。


 そして、右手が空気に触れた感触。


「まあ……」


 もう祈るしかない。

 さっきみたいに。

 言ってくれ。

 ありませんわ、って。


 一秒が何時間にも感じられる。

 永遠の様な沈黙の間。


「ありましたわ」


 無情なクラリスの声。


「が、あっ!?」


 拘束されていた右手がゴキッと嫌な音を上げた。

 無理矢理に持ち上げられて、今にも肩が外されそうだ。

 僕の悲鳴なんて聞こえていないのか。

 クラリスの高揚した声が大森林に響く。


「赤の真円。位置こそ背ではありませんが、確かにこれこそ伝承に残る魔王と覇王が持ったとされる呪印に他なり――」

「いやいやいやー、それは早計ってものじゃないかなー、クラリスちゃん」


 ヒートアップしかけたクラリスに冷や水を浴びせるようなのんびりした声。


 いつからそこにいたのか。

 近くの木に寄りかかっている。

 緊迫した状況が見えてないかのように、散歩の中で知り合いに挨拶するような気安さで語りかけてくる男は、ポケットに手を突っ込んだまま俺たちを眺めていた。


「……ラフル?」

「やあやあ、さっきぶりだねー、少年。正義の味方の手は必要かなー?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 呪印と決めつけられかかってますが… ラフルさんは何を言い出すのか楽しみです。
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