26 異端審問とかになったらシャレにならないもんな
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「あー、色々あったけど何も変わらなかったなー」
そんな事を呟きながら森を歩く。
もっと警戒しないと危ない場所なはずだけど、近くに魔獣どころかただの動物の気配も感じない。
昨日の暴風の影響だろう。
あの後、村の狩人が探索もしただろうし……って、今回は調査とかしてないんだな。
前の時は数日見回りとかしていたのに、森に立ち入り禁止ってだけ。
前は村の中で、今回は森だからかな?
知らないとはいえ、棘蔓熊なんて魔獣がいたんだ。
気軽に調査はできないという判断は間違っていない。
まあ、あいつがやってきたのもメカクレちゃんたちが原因っぽいけど、あの様子だと悪意はなかったみたいだし、そう何度も災害級の魔獣なんて来ないだろう。
あれこれ考えていても、最後に戻るのはさっきの選択。
「後悔しないなんて……ウソだよなあ」
魔力の秘密は知りたい。
メカクレちゃんの事も気になる。
零印とか、彼女の胸にあった青いマークについても。
でも、比べるのが家族なら別だ。
選択自体に後悔は全くしていない。
「ま、あるってわかったんだから、後は自分で色々と試してみよう」
メカクレちゃんは僕の魔力を使って魔法を使った。
なら、ベルやヌイだって同じことができるかもしれない。
二人に協力してもらえば、いつかは僕自身で魔法だって使えるようになるかもしれないじゃないか。
「となると、まずはベルのご機嫌を取らないと」
何故か落ち込んでいたし。
ここ最近は心配させてばかりなのに、あまりかまってあげられなかったし、思いっきり甘やかしてあげるのもいいかも。
「ベルは嫌がりそうだけど」
顔を赤くするベルの顔が浮かんでくるようだ。
「アクタにい!?」
って、あれ?
想像していたらベルの声がしたような?
顔を上げると森と開拓地の境目にベルがいた。
驚いた顔で僕を見つめている。
「ベル? 待ってくれていたの?」
「ばっ! ばかアクタ! はええよ! なんでもう帰ってきてんだ!」
ええ。
ちょっとへこむ。
わりと重大な決断をして帰ってきたのに……。
いや、そんなの知らないベルには関係ない事だけどさ。
「いや、用事が終わったから帰ってきたんだけど」
想像していたより早かったのはその通り。
僕も一日で見つけられるとは思わなかったし、話を聞かなかったせいでまだ日が沈むまでだいぶ時間があるぐらい。
心配も迷惑もいっぱいかけてしまったし、ここはひとつ夕食を僕が作ろうか。
「帰ろうか」
「ちょ、待てって!」
押し戻された。
なんでだよ。
っていうか、痛い!
ベル、力加減がうまくできてないよ!
あ、目がグルグル回ってる。こういう時のベルはちょっとまずい。最近はあんまりなかったのにな。
「何かあったの?」
「あったというか、来たというか、とにかく! あほアクタは村に戻るの早いの!」
……?
わからないけど、この必死な様子はただ事じゃない。
まずはベルを落ち着かせて、話を聞いた方がいいな。
「ベル、わかったから。村に戻るのはちょっと待つから。何があったか教えてくれる?」
僕が足を止めて、安心させるためにも地面に座ってみせる。
ついでに腕を引っ張れば抵抗もなく、ストンと僕の膝の上に着地した。
おっと、一気に落ち着いてくれたぞ。
ちょうどいい位置にある頭を撫でて落ち着くようにしながら、ゆっくりを心掛けながら話しかける。
「で、ベル。村で何かあったわけじゃないんだよね? 来たとか言っていたけど、誰が来ているの?」
辺境村のお客さんなんて行商の人ぐらいで、後は年に数回の役人だろうか。
行商は天候次第でずれもあるけど、特に予定はなかった。
役人の予定はまだ遠いはず。
それ以外の来客は……なんか、ジュニアが言っていたような?
零印の僕には関係ないとかで、詳しくは教えてくれなかったな。
「巡回、神父っていうの? そんなのと、あと女が一人来てる」
巡回神父とシスターか。
たしか国中の町や村を回って、神様の教えを広める人たちだ。
その時に、数印が【Ⅹ】を超えた子供をスカウトするんだったか?
大きな街や普通の村なら一年に一回来るけど、最辺境の開拓村になると数年に一度のペースだったはず。
前に来たのを僕も覚えていないもんな。
その巡回神父が来た、と。
なるほど、それなら零印の僕には関係ない……ってわけじゃないよな!?
「え? 僕の零印ってまずいんじゃない?」
「だから、そう言ってるんだよ! 村に戻ってくるのは夜にしないとって母ちゃんがさ!」
言ってないとは指摘しないであげよう。
それにしても、叔母さんの計らいで助けられたな。
こうなると、大森林に行きを認めてくれたのも、巡回神父が来る間は村から遠ざけようとしてくれていたのかもしれない。
ヌイとベルは確実に巡回神父に声を掛けられるから、その親のおじさんと叔母さんが来訪予定を聞いていても不思議じゃない。
僕はここ最近ずっとメカクレちゃんの事しか考えてなかったからなあ。
家族の様子をしっかり把握できていなかった。
「異端審問とかになったらシャレにならないもんな」
僕の零印が教会からどんなふうに思われているか不明過ぎて、知られたらどんな扱いをされるかわからない。
少なくともいい扱いはされないんじゃないだろうか。
こうなるとラフルから魔力とか印の話を聞いておくべきだったなとますます思ってしまうけど、後悔しても仕方ない。
「夜まで待つとして、せめて隠した方がいいよね」
「だよな! ほら、手を出せよ! 包帯持ってきてんだ!」
得意げなベル。
きっと叔母さんに持たされたんだろうなあ。
いそいそと僕の右手を掴んで、ぶきっちょに包帯を巻いてくれようとしたところで気付いた。
「あ、ベルは? ベルは数印を見てもらわなくていいの?」
「あん。そんなのもう終わったよ。最初に見てもらった。ヌイも終わって、シスター?ってのが他の子供はいないかーって探してたけど。神父は今頃ヌイと話してんじゃね?」
ちょっと不機嫌そう。
なんでだろう。
黙って包帯を巻き続けるベルのつむじを見下ろしながら考える。
ヌイが話すのはわかる。
数印【Ⅹ】のヌイはきっと王都に行って、魔法の勉強とかをするんだろう。
今後の事とかいくらでも話す事はあるだろうから。
「そっか。ヌイ、村を出るんだね」
「……だろうな」
おっと、もっと声が沈んでしまった。
ヌイと離れ離れになるのが嫌なんだな。
このお兄ちゃんっ子め。
「まあ、一生の別れじゃないんだし。ヌイだって魔法の勉強が終わったら戻ってくるよ」
安請け合いとは思いつつもグルグル巻きにされた右手で頭を撫でる。
「ちげえよ!」
ブンブンと頭を振るベルに払われてしまった。
振り向きながら見上げてくるベルは、少し目が潤んでいる。
「ヌイだけじゃねえんだよ! オレも! オレもついて来いって言われて!」
「そっか」
……そうか。
ベルも王都に行ってしまうのか。
確かに数印【Ⅸ】のベルは来年きっと【Ⅹ】になる可能性が高いのに、そこから数年に一度しかやってこない巡回神父を待つのは効率が悪い。
それなら一年早く巣立つという話になってもおかしくない。
一人だけならともかく、兄のヌイもいるんだから抵抗も少ないだろう。
「そうか……」
言葉が出てこないな。
ヌイはそうなるとわかっていたから心の準備ができていた。
けど、ベルはまだ決まってないと考えないようにしたんだろう。
ベルとヌイが二人ともいない家というのは想像できなくて、気の利いたセリフの一つも出てこない。
「なんだよ。何かねえのかよ。オレ、いなくなってもいいのかよ!」
「いいかどうかなら悪い。悪いに決まってるよ」
「なら! オレは――」
「でも、ベルが成長できる機会は大切にしたい」
寂しくないわけがない。
本当の兄妹と思って生きてきたんだから。
それでも、僕の寂しさに彼女を巻き込んでいいわけがない。
家族であってもだ。
ベルは俯いてしまって、肩を震わせている。
言葉は出てこないようだ。
止めてほしかったのかもしれない。
けど、ベルの事を思えばこそ背中を押してあげるのが、兄の役目だろう。
「ベル。ベルは嫌かと思うかもしれないけど――」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
語りかけようとしたところで、絶叫に遮られた。
なんだよ。
人が大切な話をしようとしているところに邪魔をして。
女の人っぽい高音だったけど、聞き覚えのない声だった。
見れば開拓地の真ん中ぐらい。
そこにシスターの服を着た誰かがいる。
遠くてわかりづらいけど、こっちを凝視しているのだけはわかった。
声の主で違いなさそう。
シスター服。
巡回神父の連れの人?
「あ、見つかった」




