25 いいんですって。家族の方が大事だから
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「……え?」
「うん。驚かせちゃったかなー。でも、あんまり時間もないから考えてー。村を捨てて、俺らと一緒に来るかどうかさー」
何を言われたか、わからない。
言われたのは難しい内容じゃないけど、今まで考えもしなかった事に頭がまともに動いてくれない。
なんだ?
村を、捨てる?
村って僕の家がある開拓村の事、だよな?
時間がないって何が?
頭の整理が追いつかない。
それに気づいているはずなのに、ラフルは我関せずと話を進めていく。
「ま、わかっちゃいるんだろうけどー、俺らって普通じゃないんだよなーこれが」
それは、察していた。
人と精霊族のハーフのメカクレちゃん。
自称探検家で、正義の味方で、おそらく【Ⅻ】の数印を持つラフル。
どういう縁で同道しているか知らないけど、どっちも普通の出自じゃない。
それは零印の僕もなんだけど。
「ぶっちゃけー、俺はお尋ね者って奴でねー」
なんでもない事のように告げられて、思わず足が下がりかけた。
お尋ね者?
そうか。そうだな。そういう可能性はあった。
数印【Ⅻ】なんて超貴重な人材が大森林で探検なんてしているわけがない。
詳しくは知らないけど国や冒険者ギルドなんかで大事にされるもんだろう。
なのに、そうなっていないなら理由があるはずで、それが犯罪者だからというのは十分に考えられる理由だ。
それでも目をジッと見つめながら尋ねる。
「ラフルさんは何をしたんですか?」
「はっはー。そこで俺を犯罪者扱いしないのは嬉しいなー」
軽薄な声で笑って、でもすぐに真剣な目を返してくる。
「詳しくは秘密。けど、正義の味方に恥じない事は誓えるよ」
判断がつかない。
無表情で無口なメカクレちゃんよりもよっぽど何を考えているのか。何が目的なのか見えてこない。
考えている間にラフルはにへらと緩く笑う。
「ま、そんな身の上だからさー、あんまり同じとこにいられないんだよねー」
「だから、時間がない?」
「そ。この大森林の中なら隠れていられたんだけどねー」
あ。
思わずメカクレちゃんを見る。
最初に彼女を見た時は大森林の中だった。
それが森を出てうちに来たきっかけは僕だ。
彼女の興味を僕が引いてしまって、森を出る事になって、隠れていられなくなったってことか?
大森林の中なら見つからない、という理屈はよくわからないけど、ちょっと僕にも関係のある話だった。
「その子から聞いた話、だとあんまりわからなかったけどー、少年は自分に魔力がないって思ってるんだってねー。少年のその悩みは村にいても解決しないよー。俺らについてきたら別だけどー」
メカクレちゃんから聞いた、という驚きは置いておいて。
魔力がないと思っていた僕に魔力があるという話。
村で見た赤い光と、棘蔓熊と森を薙ぎ払った風の玉。
確かにそれを教えてもらえるのは大きい。
けど、それと村の生活を天秤にかけるのは、即答できる事じゃないだろう。
「ま、ここまでが前提なー。で、今から俺がわかる事を教えてあげるからー、その上で村を捨ててついてくるかどうか決めて――」
「あ、ならいいです」
「あへ?」
途中で止める。
考えるまでもないから。
村を捨てる?
それはないって。
零印の僕をここまで育ててくれた大恩ある家族を捨てるって選択はない。
魔力のことは気になるけど、家族を代償にしてまで知らなくてはいけない事じゃないだろう。
少なくともここまで零印でも生きてこられたんだから。
「あ、あれー? いいのー? 一生に一度の機会だと思うんだよなー? 気にならない? 俺らの事とかもさー」
「はい。いいんです」
正直に言うとラフルは首を傾げてしまった。
この悩みが解決しないのなら、いっそ理由も聞かない方が諦めもつきそうだからね。
「あれー? 村で孤立してるとかじゃないのー? 魔力が使えない体で? 辺境の、開拓村で? 嘘でしょー?」
ああ。
僕が村でひどい扱いを受けていると思っていたのか。
なら、驚くのも無理はない。
確かに村中の人から認められているわけじゃない。
特にジュニアなんかからはやたらと目の敵にされているし、目に入っていないような態度もよくある。
けど、零印の僕を追い出さずにいてくれているだけでも立派だろう。
家族については言葉にするまでもない。
「で、でも、いいのー? その魔力。放っておくのはもったいないよー? それにそれにー、巡回神父とか――」
「いいんですって。家族の方が大事だから」
「そう」
なんだかやたらと焦るラフル。
ばっさりと切り捨てると、黙っていたメカクレちゃんが短く、小さく、呟いたのが聞こえた。
ちょっとだけ嬉しそうで、寂しそうな複雑な『そう』だった。
それもほんの少しだけ。
いつもの無表情でスタスタとやってくると、ラフルの服を摘まんで引っ張り出す。
「ラフル、行く」
「ええ!? いやいやー、交渉はここからでしょー! ええっと、うん。今なら特別に無条件で君の魔力の事を――!」
「そう」
「あいたぁっ!」
会話が成り立っていないなあ。
っていうかメカクレちゃん、ラフルの服ごと腕のお肉を摘まんでいるでしょ、それ。
二人は騒がしく森の奥に向かって歩き出した。
このまま行ってしまうのだろう。
それを見送ろうとして思い出す。
「メカクレちゃん!」
「……わたし?」
足を止めたメカクレちゃん。
今の今になって名前を知らない事にちょっとおかしさを感じつつ、忘れていた事をしっかりと伝える。
「服、破ってごめん! それ、お詫びだからよかったら使って! それから昨日は助けてくれてありがとう!」
「そう」
淡々と。
いつも通りの声。
彼女の胸に宿る青い数印に似て非なる何か。
僕と同じ、世界から外れた人。
魔力の事とかよりも、彼女の事情は心残りだ。
だけど、立ち入らないと決めた僕が聞く資格はない。
「また会えたらいいな」
「そう」
ひとつだけ頷いて、メカクレちゃんとラフルは森の奥に消えていったのだった。




