表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアクタ  作者: いくさや
第一章 零印
25/154

24 それでも、行かないと

 24


「おい。ばかアクタ」

「うん」

「なんでだ? お前、森に行くなって言ったのに、なんでまた森に入ってんだよ? なあ、あほアクタ」

「ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃなくて、なんでって聞いてんの? わかる? 理由を聞いてんの? 行くなって言われてなんで行くんだよ?」


 ベル、激おこ。


 座り切った目で僕を睨みあげてくる。

 いつもならフォローしてくれる家族たちもノータッチ。

 いくらおおらかな皆さんでもここ最近の僕の無軌道っぷりを見ていられなくなったようだ。

 事件の翌朝。

 朝食後の一室、後ろで真剣な顔をしていた。


 無理もない。

 だって、村からも見えるような大森林の浅い位置で大爆発とか起きたその日に、村で唯一行方不明になっていた僕なのだ。

 散々、一家を中心に村中が探し回ってくれて、発見されたのが立ち入り禁止の大森林のすぐそば。

 しかも、わりと怪我だらけで。

 普通に心配してくれて、何をしていたんだと疑問に思って、総じて怒ってくれる。

 ベルが一番感情を表に出しているだけで、ヌイやおじさん叔母さんも同じ気持ちなんだって見ればわかった。

 さて、どうしようか。


 ここまで心配させてしまった以上、正直に話すのが誠意だとは思うんだけど、正直に話して信じてもらえるかちょっと怪しい。

 だって、自分でもちょっと信じられないぐらいなんだから。

 メカクレちゃん。ラフル。棘蔓熊。膨大だっていう僕の魔力。二人で放った魔法。

 何度思い返しても、どれもこれもが現実離れしている。


「森に行ったのは、会いたい人がいたから」


 考え考え話す。

 嘘はつかずに、話せる部分だけ。


「え、会いたいひと!?」


 ベルはなんでショックを受けた顔をするの?

 ちょっと今まで見た事ないぐらい傷ついた表情なんだけど、いったいどうして?


「オレ……もう、いい……」


 しかも、片言で呟いてフラフラと部屋から出ていってしまった。

 あんなに怒っていたのに僕の今の一言にどんな言霊が宿っていたというのか。


 残った『あーあ』といわんばかりの顔のおじさんと叔母さんに目で問いかけても答えは返ってこない。

 いつもよりも困った顔をしたヌイが一歩前に出てきた。


「アクタ、会いたい人って?」

「前に村の外で会った人でね。その時に迷惑を掛けちゃったからずっとお詫びしたくって探していたんだ。昨日やっと会えたんだけど、そこで爆発が起きて気を失っちゃって。村まで僕を運んでくれたのもその人、かな?」


 メカクレちゃんとラフルをあいまいにした伝え方。

 嘘じゃないけど、本当の事でもない。

 お世話になっている人たちに対して心苦しいけど、これが僕の精一杯だった。


 ヌイたちは皆、そっくりな困り顔になってしまう。

 そんな中で言い出しづらいけど、続ける。


「それで、またその人を探しに行きたいんだ。昨日はちゃんと話せなかったし、改めてここまで運んでくれたこともお礼を言いたいし」

「森に?」

「うん。きっとあそこにいると思うから」

「爆発があったから、近づいちゃダメって」

「それでも、行かないと」


 ヌイが手を伸ばしかけて、グッと拳を握りしめた。

 止めたいのだとわかる。

 こんな怪我をして帰ってきたんだから当然だ。

 僕がそちらの立場だったらそう思う。

 でも、こんなわけがわからないまま日常に戻るなんてありえない。


「村の迷惑になる事はしないよ」


 精々、付け加えられるのはこれぐらい。

 それだって、棘蔓熊の件があるから嘘っぽいけど。

 いや、あれも僕らが遭遇していなかったら村までやってきていたかもしれないんだから、村に貢献したかもしれない。

 誰も信じてくれないだろうけどね。


「……もう、そんな顔しちゃったら何も言えないじゃないのぉ」


 沈黙を破ったのはおばさん。

 困り顔に少しだけ微笑みを浮かべて、僕と目の高さを合わせてから話し始める。


「ついて行っちゃダメなのよね?」


 それは、困るかな。

 魔獣のいる大森林に行くのに、ついてきてもらえるなら安全だ。

 棘蔓熊みたいな災害級は無理だとしても、たまに村に近づいてくる程度の魔獣なら倒してくれる。

 けど、そうしたらメカクレちゃんは隠れてしまうだろう。


「ごめん」

「困ったわねえ」


 とはいいつつも、ため息ひとつで困り顔を決して続けてくれる。


「危ない事、しちゃダメよ?」

「うん。頑張る」

「約束はしてくれないのねぇ」


 何せ、出会って三回目であの騒ぎだ。

 次も何もない保証はない。

 できない約束はしちゃダメだろう。


「母さん」

「本当はお家にいてほしいけどぉ、勝手に行っちゃいそうだもの」

「森、危ないのに」

「うーん、アクタならきっと平気よ。ね?」


 ヌイが口を出すけど、叔母さんは首を横に振る。

 僕の事をわかっているなあ。

 ちょっとその信頼が重すぎて、無茶をしないよう釘を刺された気もするけど。


「それに、危ないのは村の外だけじゃないものね」


 ……?

 まあ、零印の僕にはこの世界の全てが危険地帯だけど。

 その経験を生かして動けって事かな?

 僕が内心で首を傾げていると、鼻の先をつつかれた。

 いたずら気に微笑む叔母さんだけど、その目は真剣だ。


「ちゃんと夜までに帰ってくる事、いーい?」

「はい」


 よろしいと叔母さん。

 この家の最高意思決定者は叔母さんだ。

 この人がそうと決めたらおじさんは従うのみ。

 おっとりした叔母さんが怖いとかじゃなくて、単純に惚れた弱みなんだよな。

 中年になっても夫婦仲がよろしくて結構な事です。


 ヌイは心配そうだった。

 ともすれば、今にもついていくと言い出しそうなぐらい。


「じゃあ、いってきます!」


 だから、素早く出立。


「え! 今から!?」


 もちろんだ。

 メカクレちゃんは飄々としているから、このままサヨナラバイバイもあり得る。

 ラフル曰く、骨折はもう治りかけていたそうだけど、それでも一日ぐらいは様子を見るだろう。

 今ならまだ近くにいる可能性が高い。

 それだって、気休め。

 棘蔓熊を蹴っ飛ばした時のメカクレちゃんの動きを考えると、一日の出遅れだって手遅れになりかねないのだ。

 一度引き離されたら僕じゃもう距離を詰められない。


 僕はこうなると見越して、森に行くための服を着ていたし、朝食を作る時に水筒も用意しておいた。


「あ、アクタ!?」

「ヌイはぁ、支度しといてぇ。あの子の分もねぇ」


 そんな家族の会話を背中に聞きながら、僕は大森林に向けて家を飛び出したのだった。

 絶対に見つけ出してやる!






「お、来たねー」


 決意を胸に大森林に突入して一時間。

 僕はすぐに二人と再会していた。


 僕の運が良かったとかじゃない。

 二人は僕を待っていた。

 だって、昨日僕が通った時につけた木の目印に、これ見よがしに傷が付け加えられていたのだ。

 それを辿っていって、途中から別のルートに誘導されて、行き着いた先。


 枝葉の天井が開けたスペース。

 森の広場となったそこにメカクレちゃんとラフルはいた。


 木の下にいるメカクレちゃんは僕をチラッと見て、そのまま足元に視線を戻す。

 昨日ラフルに頼んだお詫びの服を着てくれているのが嬉しい。

 ベルの服をベースに僕の男物を混ぜたせいでちょっと大きめでダボッとした雰囲気だけど、なかなか似合っているんじゃないか?


「体の調子はー、よくないけど動けるって感じかなー?」


 よっと立ち上がり、パンパンと服についた土を払ったラフルは何事もなかったように話しかけてくる。

 右手はポケットに入れたままで数印は見えない。

 思い出してみるとラフルは最初からずっと数印を隠していた。

 村ではそんな考えがなかったけど、数印はその人の力を示すパラメータだ。

 人に見られないようするのが癖になっている。そんな自然な様子に見える。


「昨日の今日ですぐとはすごいなー。もう三日は待ちぼうけだと思ったんだけどなー。少年はなかなか根性あるねー。いやー、これは良い方の誤算だー」


 短いやり取りだったけど、覚えのある間延びした口調。

 ラフルだ。


「ねえ、聞きたい事があるんだけど」

「あー。だろうねー。でも、その前にこっちから一つ聞かせてよー。そうしたらちゃんと知りたい事、教えてあげるからさー」


 何から聞こう。

 そんな事を考えていた僕を遮って、ラフルは笑顔のままで、変わらない調子で問いかけてきた。


「少年、村を捨てる覚悟はあるー?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 唐突に駆け落ちの誘い。真意は?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ