23 あなた、何者ですか?
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ラフルが生きていた。
それ自体は喜ばしい。
あんな酷い有様で、死亡確認していないから、なんて言い聞かせるように判断していたけど、内心では助からないだろうと思っていただけに良かったと思う。
けど、こんな狙ったようなタイミングで、何事もなかったように出てくれば警戒しないわけがない。
実際、ラフルには怪我どころか服も汚れていない。
あんな地面に突き刺さったのに、どうやったら無事でいられるのか。
両手をポケットに突っ込んで、ヘラヘラと笑いながら近づいてくるのを厳しく見据えていた。
「あなた、何者ですか?」
「あー、ごめんごめん。大見得切ってあんなんじゃ怒っちゃうよなー」
ちっとも悪いと思っていなさそうだ。
出会った時は信用してもいいかなんて思ったけど、今となったらどうしてそんな判断をしたのか自分でもわからない。
僕の警戒をまるで気にせずに、ラフルは歩いてくる。
「あいつ――って、もう跡形もないけど、棘蔓熊の事なー? あれって、その子の獲物だったわけよー。精霊族の里に近づいてたからやっつけるってさー言って聞かないのなー」
僕の疑問に答える気があるのか、ないのか。
その子……メカクレちゃんの事か。
メカクレちゃんは無反応。
否定も肯定もしない。
ただ、心なしかラフルの事を憮然というか、ちょっと嫌そうな雰囲気があるような。
「……本当?」
「そう」
「あいつ、ラフルは知り合い?」
「そう」
そうなのか。
その割に態度がきつめに見える。
というか、僕もメカクレちゃんの『そう』から色々読み取れるようになってきたな。
ラフルはメカクレちゃんの知り合いで、一応は危ない奴じゃない、可能性があるぐらいの認識でいいだろうか。
メカクレちゃんを疑わないのかって?
当たり前じゃないか。
彼女の敵じゃないなら、今は信じよう。
というか、正直今は深く考えている余裕がない。
しかし、なんなんだ。
メカクレちゃんを探して森に入ってから、色々起きすぎて頭の中がグチャグチャだ。
崖を滑り落ちたら魔獣の縄張りで、逃げようとしたら胡散臭いラフルに会って、棘蔓熊にラフルがやられて、囮になったけど失敗して僕も殺されそうになって、そしたらメカクレちゃんが助けてくれて、でもピンチのままで、二人の力を合わせた魔法でとんでもない爆発が起きて、終わったと思ったらラフルがさらっと復活して。
おなかいっぱいだよ。
「近くにその子が来たのがわかったからさー、俺はやられた振りをしてー、任せてみたわけだけどー」
ラフルは辺りをもう一度見回した。
「これは予想外」
だろうね。
こんな大自然破壊、誰も予想しないよ。
隕石でも落ちたみたいになっているし。
「え、本気でどうしてこうなったの? いや、確かにその子の身体強化だけじゃ勝てないから工夫しろとは言ったよー? 言ったけどさー。それって強化の仕方とか、技を考えるとか、そんなつもりだったんだけど?」
「そう」
あ、メカクレちゃん今のは適当にあしらったな。
あと、彼女が僕だけじゃなくて誰に対してもこんな感じなんだってわかってちょっと安心したり。
「どうしよ? もう風は消えてるっぽいけどー。これって目立つよなー」
でしょうね。
子供の足で村から来れるぐらいなんだから、轟音はしっかり届いただろう。
今頃、狩人を中心にした探索チームが組まれているんじゃないかな。
「ま、いっかー」
嘆いていたわりにあっさりと投げ出すラフル。
「いいの?」
「まーね。大森林の外の方で爆発が起きたからって、奥の方を刺激したわけじゃないからねー。うん。届いてないよなー、これー」
奥の方。
魔獣の事か、それとも精霊族たち亜人の事か。
普通、あんな派手な事が起きたら魔獣の興味を引いてしまうところだけど、今のところそんな様子はない。
棘蔓熊が暴れ回ったせいで魔獣が近くにいなかったのかな?
……魔獣が近くにいない?
最近、村に来る魔獣が多かったのに。
棘蔓熊と戦っていたらしいラフルとメカクレちゃん。
これって繋がってる?
「おーおー、考えてるなー。アクタ少年はなかなか頭いいねえ」
からかうようなラフルに答えないまま見つめる。
くそう。頭がうまく回ってくれない。
それでも考えろ。
今まで棘蔓熊なんて凶悪な魔獣は村の近くにいなかった。
それが縄張りを村の近くに移動した理由は、ラフルとメカクレちゃんが戦っていたからじゃないのか?
精霊族の里に近づいていたって話だけど、それをメカクレちゃんが倒そうとしたのは……。
なんとなく、想像できた。
だって、それは村で仕事を探していた時の自分と重なるから。
「話してくれるんですか?」
「もう気づいてるっぽいじゃんー。ま、ちゃんと話してやりたいんだけど、それは後回しなー」
ポンと肩に手を置かれた。
「……え?」
ラフルがいつの間にか僕たちの目の前にいて、気安く肩を叩いてくる。
ずっと警戒して見つめていたはずなのに、接近にまるで気づけなかった。
しかも、何をされたのか腕に力が入らなくて、支え合っていたメカクレちゃんから引き離される。
「何を!」
「何ってー治療だよー」
前のめりになりそうなところを、鼻先を突かれて止められる。
それにしても治療?
……そうだった!
メカクレちゃんは腕の骨が折れているかもしれなかったんだ!
気がつけばメカクレちゃんは気力だけで立っている状態。
フラフラして今にも倒れてしまいそう。
隣にいて気づかないなんて!
ラフルはそんなメカクレちゃんを片手で抱えると、じっと見下ろしている。
「へえ。骨、もう繋がってる。この子の魔力だけじゃこんな早くは治らないなー。って事はアクタ少年のおかげか。でも、魔力を借りたのはさっきの一回だけだろー? じゃあ、あの時の余りだけで治ったってわけー? しかも、無意識の強化の範囲なのに? 魔力量のごり押しで? ははは、すっごいな。お前の魔力量。わかっちゃいたが、冗談みたいだわー。いやー、相性もよかったのかなー。人の魔力を使うとか、俺でも無理だしー」
「そう……」
うつらうつらとし始めたメカクレちゃんはとうとう目をつぶってしまった。
すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。
「平気な顔してたけどー、結構、緊張してたみたいだねー。青春だねー」
ラフルはメカクレちゃんを抱えなおして、僕の前に座って目線を合わせてくる。
「ま、治ってるなら良かった良かったー。んで、次はアクタ少年だ」
ツンツンとおでこをつつかれた瞬間、膝から力が抜けた。
「え?」
何をされた?
魔法!?
「魔法じゃないよー。興奮して気づいてないー? この子よりもアクタ少年の方がよっぽどボロボロだからなー? まあ、こっちの事情に巻き込んだのは悪いと思ってるからー、ちゃんと村まで運んでやるからなー」
言われてみると、体中が痛いし、だるいし、頭がぼうっとするし、色々とありすぎて混乱しているしでダメージは甚大。
道理で頭がまわらないわけだ。
睡魔に逆らえない。
抵抗できないまま片手でラフルに持ち上げられた。
飄々とした雰囲気から想像できない力強い腕に、悔しいけど安心してしまった。
「あ、待って」
「んあー? どしたー?」
ずっと背負っていた包みを外して、眠っているメカクレちゃんの方に差し出す。
ぼんやりしてもうよく見えないけど。
あんなに激しく地面を転がったせいで、無事かどうかも自信がないけど。
直接渡せないのも悔しいし、まだ謝れていないけど。
森に来た最初の目的。
お詫びの服を渡さないと。
「これ、その子に」
「なにこれ? 服? あ、あぁー……そういうわけね。アクタはいい子だな。了解。任されたよ」
ラフルは僕たちを抱えたまま、器用に包みを手首に通したらしい。
指先から重みが消えた。
「ありがとう」
閉じていく瞼の隙間から、赤い【Ⅻ】の数字と盃のマークが見えた気がした。




