12 そうだね。そうに決まってるよ。そうに違いない
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「ったく、なんでオレらがヌイの分までやらされんだよなあ」
「そうだね」
翌朝、僕とベルは並んで水汲み中。
ベルの手にはヌイ特性の大型の桶が二つ。
僕はいつも通りだから、負担が増えたベルが不満なのは仕方ない。
あの赤い閃光の後、大騒ぎになった。
真夜中にあんな光が発生したんだ。
そりゃあ、騒ぎにもなる。
村中の人が起き出して、明かりも点けられていった。
すぐに人がやってくるのは目に見えていた。
メカクレちゃんを傷つけてしまったとショックでフリーズしていた僕だけど、騒ぎになりかけているのに気付いて離脱。
闇に紛れて、誰にも見とがめられることなく家まで帰れた。
それはそれで既に起き出していた一家――というかベルに――どこに行っていたんだと詰められたわけだけど、そこはうまく誤魔化した。
光に気付いて様子を見に行っていた、と。
まあ、一人で行くな危ないだろとやっぱりベルに詰められたわけだけど。
零印なのが幸いしてか、あの光の原因が僕だとは誰も考えなかったのだろう。
何が起きたのか、村に害のある何者かが侵入したんじゃないかと厳戒態勢になったものの原因は不明のまま。
結局、村長から今日のところは不寝番をその場に残して、後は朝を迎えて調査という指示が出てやっと落ち着いた。
村の人たちはとても不安がっていて、心が痛んだけどどうしようもない。
ここで『実は僕が』と名乗り出たって信じてもらえないだろうし。
やってみせろと言われても、無理だ。
実際、どんなに念じても、力んでも、指先が赤く光ったりはしなかった。
あの時、僕から魔力は出ていた。
けど、僕はあれを操ったりはしていない。
あるいは、メカクレちゃんが僕の魔力のように見せかけて、自分自身の力を使ったんだと言われた方が納得できそうなぐらいだ。
それぐらい、他人事の感覚だった。
でも、もしも、あれが本当に僕の魔力なのだとしたら……。
「なんだったんだよな、あれ」
ひーこら言いながら桶を持ち上げる僕の横、ベルは平然とした顔で昨夜のことを口にしている。
どうやらヌイの桶でも全然問題ないらしい。
僕は一つで事故を起こしかけたのに、さすがは数印【Ⅸ】だ。
そんな事を頭の片隅で思いながら、僕が考えるのはメカクレちゃんの事。
昨日、あれからメカクレちゃんは戻ってこなかった。
大人たちが見回りしていたんだから、人目を避けているっぽい彼女が現われるとは思わないけど。
どうしても、僕のやらかした『事故』が原因だと思ってしまう。
いや、実際そうだろう。
あんな目に遭ったら人目がなかったとしても出てきてくれるとは思えない。
けど、どうしても僕は彼女にもう一度会いたい。
例の魔力の事もある。
それ以上にまずは傷つけたことを謝りたい。
ただでさえ、生まれで苦労しているらしい彼女に、これ以上の傷を残したくはない。
「魔獣じゃねえと思うんだよ」
「そうだね」
「バカアクタもそう思うだろ? 魔獣だったらもっとひでえ事になってるもんな」
「そうだね」
「なのに、ヌイまで見回りに行かせてよ。ビビりすぎだろ」
「そうだね」
「……アホアクタのバカ」
「そうだね」
「むきいいいいいっ!」
「うわあっ!?」
いきなりベルがいきり立って襲いかかってきた。
野良犬みたいに歯をむいて掴みかからんばかりに迫ってくる。
なんなの?
これが思春期特有の不安定さってやつ?
「んだよ。そんなに、オレと話すの嫌かよ」
目を白黒させていると、怒っていたのがすぐにしぼんでいって、わかりやすくほっぺをふくらませてすね始めた。
どうやら上の空で相手をしていたのがバレたらしい。
こういうところ、ベルも女の子だなあって思う。
「ゴメン。ちょっと考え事してた」
「考え事って、昨日の?」
なんか、すねているせいかしおらしいなあ。
「うん」
嘘じゃない。
本当でもないけど。
たとえ、ベルでもメカクレちゃんの事は話さない。
そう決めた。
彼女が知られたくないと思っているなら、僕は協力しよう。
「しばらく、ヌイも森に行かないんだってね」
「うん。開拓より見回りだって」
「まあ、魔獣が原因だったら男手はほしいもんね」
「オレ、魔獣じゃねえと思うけど」
「ああ。そう言っていたね。僕も同感かな」
「だよな!」
おっと、あっという間に元気になった。
しおらしいベルも可愛らしいけど、元気な彼女の方が僕は好きだね。
「じゃあ、アクタに――アクタは何だと思う?」
惜しい。
お兄ちゃん呼びしかけたのに、呼び捨てになってしまった。
悪口がつかないだけいい方か。
「そうだなあ。ここって元は大森林だったんだから、変な魔力が地面の下とかにあったんじゃないかな」
大森林はただ深いだけの森じゃない。
魔獣がたくさんいるし、精霊族や獣人族などの亜人族が住んでいる。
じゃあ、どうしてそんなの環境になるのかと言えば、この地域一帯は特別魔力が強いから、らしい。
いや、自分の魔力さえわからない僕に土地の魔力が強いか弱いかなんてわかるわけないでしょ。
そうだと村長から聞いただけ。
その村長も、昔に国の偉い人が出した調査団の報告書の受け売りだけど。
調査の結果、大森林は中心地に近づく程、魔力が強くなっていくと判明している。
そのせいか、魔力が強い地域になると強力な魔獣が生息しているそうで、結局調査団も森の中心地までは辿り着けなかったらしい。
「えー。そんなのつまんねえよ」
つまんないって。
まあ、ベルもこんな雑談で真実を言い当てる名探偵を目指したわけじゃないだろう。
本当かどうかよりも僕との会話を楽しみたい、だったらいいなあ。
「じゃあ、ベルはどうだと思うの?」
「あー。森にいる精霊族とかが出てきたとか!」
吹き出しかけた。
ベル、正解でーす。
正確にはハーフだけど、当たり判定でも問題ないでしょ。
動揺を表に出ないように微笑みを張り付ける。
「精霊族なんて見た事ないでしょ」
「んあー。じゃあ、アクタの秘められた力が目覚めた、とか?」
上目遣いで期待した感じで言わないで。
大正解だから。
やばいな。
数印【Ⅸ】ともなると直感も鋭くなるの?
「なんて。そんなわけないよなあ」
カラカラと笑うベル。
ガタガタと震える僕。
「そうだね。そうに決まってるよ。そうに違いない」
「そうそうバッカだな、さっきから」
「そうかな?」
メカクレちゃんの口癖が移ったか?
ベルが浮気を疑う嫁みたいな目で僕をジッと見つめながら距離を詰めてくる。
「零印! そんな所でなにしてんだ!」




