11 とてもきれいな体してるね!
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綺麗、綺麗と褒めたつもりだったんだけどなあ。
そもそも男の子だったら誉め言葉じゃないか?
あるいは精霊族にとって外見の良さを指摘されるのは屈辱だったりするとか?
「むがぐぐ」
なんというか、すごい力だ。
まったく抵抗できない、っていうか息もできないんだけど!?
必死に肩をタップするけど気づいてくれないから、袖を引っ張ってみてもまるで反応しない。
かなり強く引っ張ってるんだけどなあ!
ダメだ! 気付いてもらう前にこれ以上は服が破れそう!
段々息が苦しくなってきたぞ!?
「んん! んんんんっ!?」
「そう」
何が!?
何がそうなの!?
意思疎通、何もできてないと思うよ!?
この柔らかい手の感触から想像もつかない剛力。
ベルと一緒だなあ。
小さい頃のベルに絞め殺されかけた記憶が蘇って……って、これってもしかしなくても走馬灯ってやつ?
「魔力、ある」
魔力。
魔力ね。
いいよね。
あったらね。
よかったよね。
「はひょふ?」
あれ?
なんの話?
あ、最初はそんな話をしていたような……。
ちょっと朦朧としだした頭で思い出す。
僕にすごい魔力があるとか、なんとか。
メカクレちゃんは僕の腕を持ち上げる。
零印の赤い光が空に向けられるのをぼんやりと見上げた。
そして、目を見開いた。
「そう」
赤い。
そう、赤かった。
月と星のわずかな明かりしかなかった真夜中。
その中に煌々と輝く真紅の輝き。
それは僕の手の中にある。
感覚は、ない。
熱くも、冷たくもない。
圧力も感じない。
感じるのは冷たい春の夜の空気と、メカクレちゃんの柔らかくも温かい手の感触だけ。
ただ、確かに真紅の光が僕の手の中で輝きを増していく。
最初は松明程度だった。
だけど、それは次第に焚火を超えて、火山口のようになって、ついには太陽にも迫る輝きへと至る。
もう、直視さえも難しい。
「これが、僕の、魔力?」
「そう」
いつの間にか、メカクレちゃんは僕の口を解放してくれていた。
それでも、衝撃にフラフラとして、一人で立っていられない。
情けないけど、掴んだままだったメカクレちゃんの服にすがるような恰好になってしまう。
魔力。
数印が操る不思議な力。
皆にはあって、僕にはないはずのもの。
それが、僕にあった?
本当に、あったんだ。
あった、のか……。
「指、一本、立てて」
「えっと、こう?」
言われたまま人差し指を空に向ける。
世界のてっぺんを取ってやるぜとばかりの威勢のいいポーズだけど、心臓はばっくんばっくんと高鳴っていて、頭の中は真っ白だ。
「そう」
そして、メカクレちゃんが呟いた瞬間。
赤い光が世界を埋めた。
僕の指先で赤い光――魔力が一気に輝きが増したから。
太陽が目の前に現れでもすればこうなるだろうか?
真夜中の村中から闇が追い出されて、まるで夕方の景色みたいだった。
「うわあっ!?」
直視するのも厳しい光量。
相変わらずの無音・無反動。
驚きすぎて、その場で転んでしまった。
びりぃっ!
そして、妙な手ごたえと、音を手に入れた。
「え、あ……」
尻もちをついたまま見上げると、消えゆく光の中に浮かぶ白い裸体があった。
左の胸元が薄っすらと青白く見えるのは痣か何かか?
左手に目を落とせば布の切れ端。
そういえば、メカクレちゃんの服を掴んだままだったっけ。
お世辞にも上等とは言えない古びたローブ。
僕が転んだ拍子に破いてしまった、と?
我ながらどんくさいにも程があるだろう!
転ぶなら服を放してあげろよ!
メカクレちゃんはしっかり右手を解放してくれていたじゃないか!
けど、どんなに後悔してももう遅い。
破いた服は元に戻ったりしない。
「あ、あのー」
状況を理解して、もう一度見上げる。
飛び込んでくる白い裸体。
いや、違う!
肌着。肌着がある!
メカクレちゃん、ローブの下はさらしみたいなのを胸に巻いていて、当然ながらパンツだって履いている!
やはり凹凸の少ない体つきだけど、さらしを巻いているという事は女の子だったって事でいいのかな?
表情は、うん。
呆然。
さっき褒め倒した時よりも衝撃は大きかったみたいだね。
そりゃそうだ。
いきなり服を破かれたらショックだろう。
ともかく、だ。
何か言わなくちゃいけない。
けど、なんて言えばいい?
こんな時、相応しい言葉なんてまったく思いつかない。
くそう!
前世の知識が全く役に立たないじゃないか!?
当たり前か!
どこの世界に美少女の服を破いて、屋外で下着姿をさらしてしまうなんて経験をした人間がいるというのか。
そんな奴は塀の中に入ってやがれ!
つまり、今の僕だ。
「うん。そう、そうだね」
さっきとは別の理由で頭はまっしろ。
メカクレちゃんの肌も白、じゃねえ!
あー。
ダメだダメだダメだ!
沈黙が辛すぎる。
なんか言え! 何でもいいからなんか!
「とてもきれいな体してるね!」
「そう」
そして、メカクレちゃんは破れたローブで体を隠しながら、全力疾走で走り去っていってしまうのだった。
「やっちまった……」




