13 ベルの服がほしいんだ。僕にくれないかな?
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「ジュニア……」
まさかジュニアに救われるとは思わなかった。
冷や汗が出そうになったところで声がして、振り返れば村長ジュニアが見回りの人を子分みたいに引き連れてやってくるところだった。
あ、ヌイもいる。
どうやら村長命令で村内を見回っているらしい。
「んだよ。お前は関係ねえだろ」
ベルは見るからに不機嫌。
ジュニアの事、嫌いだっけ?
あんまり接点はなかったと思うから意外だ。
女の子にしては粗暴なふるまいのベルだけど、親しみやすい性格だからケンカなんて滅多にしないのに。
「今は警戒中だぞ。意味もなく出歩くなと言われてないのか」
「見りゃわかるだろ! 水汲みだよ! そっちにヌイを取られたから、その分まで働いてんの? わかる? そっちのせいで! 仕事してんの!」
ガチで噛みつかんばかりの剣幕。
今にもジュニアに襲いかかりかねない雰囲気まである。
こわっ!
ベル、こわっ!
年下の女の子とはいえ、ベルは数印【Ⅸ】の持ち主。
この中で暴れた彼女を止められるのはヌイだけだ。
それがわかっているのだろう。
ジュニアは見るからに怯んで、矛先を僕の方に向けてきた。
「おい、零印! 何かあったらお前が一番危ないとわかっているのか! そんなお前が出歩くだけで周りが迷惑を――」
「おい」
低い、声。
そして、ズンと沈む重い音。
いつのまにか、ヌイがジュニアの肩に手を置いていた。
静かな雰囲気はそのままなのに、ジュニアを見下ろす目はメチャクチャ厳しくて僕まで唾をのんでしまう。
ヌイからこんな目で見られるジュニアは僕以上のプレッシャーだろう。
膝が震えているけど、見なかった事にしてあげよう。
「アクタもベルも家の手伝いを代わりにしてくれてる。それがダメか?」
おお。ヌイの長台詞。珍しい。
「いや、けど……」
なおも言い返そうとしたジュニアだけど、ヌイは黙って見下ろすだけ。
それだけで言葉が続かなくなる。
まあ、怖いだろうね。
数印【Ⅹ】のヌイの力は半端じゃないから。
あのまま握力だけで肩を砕いても不思議じゃない。
「い、いくぞ! お前らもさっさと家に帰れ!」
最後の意地なのか、ジュニアはヌイの手を乱暴に払って早足で行ってしまう。
他の見回りたちは小さく溜息を吐いて、ヌイも僕らに手を振ってからその一番後ろについていった。
「なんだったんだろう?」
「さあな! あの野郎、いつまでもネチネチとしつけえな。オレはそんな気はねえって言ってんのに……」
肩を怒らせて地面を蹴るベル。
何か呟いたようだけど、声が小さくて聞き取れなかった。
「はあ。まあ、ジュニアの言う通り家に帰ろ?」
「あ? ああ……うん」
昨夜の真相を知っている身としては警戒に意味がないとわかっているけど、村中が対策している中でのほほんとしているのは印象が悪い。
ただでさえ、零印で爪はじきされているのにさらに評価を下げるのは嫌だ。
僕はともかく、ベルたちが不当な扱いをされるのはたまらない。
けど、不機嫌なベルは立ったまま。
小さいベルは感情のコントロールがヘタッピだから、このまま家に帰ったら粗暴な態度をしてしまって、叔母さんに叱られるのが目に見えている。
自分でもわかっているのか、すぐに帰るのが嫌なんだな。
ここは僕がご機嫌を取ってあげようじゃないか。
僕のために怒ってくれたベルが嫌な思いをするのは見ていられないからね。
とりあえず……。
「そういえば、ベル。今日の服は初めて見るね」
「あ、うん。隣のリリねえのお下がり」
辺境の村の服なんてお下がりが当たり前。
家族間は当然で、隣近所の歳の近い同性にも直されながら受け継がれていく。
リリは僕より三つ上の女の子。
女の子らしいデザインのワンピースなんてベルが着るのは初めてじゃないか?
今まで僕のお下がりのシャツとかショートパンツばかり着ていたから、ふわりと広がったスカートとか新鮮だった。
ベルは僕の視線を気にしたようにスカートを握りしめて、チラチラと見つめてくる。
鈍感な僕でも何を言いたいかわかるよ。
「うん。似合ってる。かわいいよ」
お世辞抜きで。
ちょっと言動に元気が溢れるベルだけど、見た目は掛け値なしの美少女だ。
この格好で大きな街を歩いたら、年頃の男の子の視線を独り占めしてもおかしくない。
「へ、へえ。ふーん。そっか。ひひひ」
ベルさんはまんざらでもないご様子。
機嫌は回復したみたいだな。
僕が声を掛けるまでもなくベルは桶を手に歩き始めた。
軽い足取りを追いかけながら僕は再び考える。
メカクレちゃんとも仲直りしたい。
ベルの機嫌を直せたように、不快な思いをさせてしまった彼女のケアをしたい。
そのためにはどうやって接触するかが問題だけど、周辺警戒中の今はどうせ満足に家を出られないだろう。
なら、先に関係の修繕方法を考えておこう。
家族のベルなら付き合いの長さでどうすればいいか思いつけるけど、出会ったばかりでしかも割とディスコミュニケーションなメカクレちゃんは難易度が高い。
難易度が高いけど、そんなのは今世ではいつもの事。
色々とアイディアを出していこう。
「言い訳はしたくないな」
事故ではある。
いや、避けられた事故かもしれないけど、誓ってわざとではない。
だとしても、女子の服を外で破って、下着姿をさらし、凝視してしまったという事実もまた揺るがない。
ならば、男らしく謝罪しよう。
求められない限り、言いつくろったりはしない。
「でも、謝るのは当然として何かお詫びもしたい」
何がいいだろう?
物で釣るみたいだけど、何かプレゼントできたらいいな。
食べ物?
精霊族って何を食べるんだ?
アレルギーとかあったらまずいな。
好み以前に生態がわからないのに食料はリスキーか。
ってか、冷静になってみたら夜食は大丈夫だったのかな?
今頃、お腹を壊してたりしなければいいんだけど。
ううむ。精霊族にも。彼女自身の事も知らないと難しい……いや。
「服。服がいいな」
なんせ、僕が破いてしまった。
おそらく、精霊族の中でも苦しい生活を強いられている彼女が、破れたからと簡単に用意できるとは思えない。
なら、破いてしまった服を贈るというのは理に適っている。QED。
思いついたらそれしかない気がしてきた。
問題は村の中で服を用意するのもなかなか難易度が高いというところか。
さっきも言ったけど前世と違ってこの世界の服はお下がりが基本。
行商人から買う事もあるけど、それだって古着。
僕が新品の服を用意するというのは不可能。
だが、僕には頼れる家族がいる。
しかも、新しい服を手に入れて、替えの服に余裕のある女の子。
「ベル!」
「あん? なんだ、急に真剣な目をしてよ」
ちょっと意気込みが溢れてしまったか、ベルは不思議そうに首を傾げる。
ここは真剣に、誤解のないようにまっすぐに、誠意を込めてお願いしよう。
「ベルの服がほしいんだ。僕にくれないかな?」




