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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第三章 故郷
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95 クロエ、魔獣を狩ろう

 95


「クロエ、魔獣を狩ろう」

「そう」


 村から帰っての僕の第一声に、クロエは即答で頷いてくれた。

 この辺りを信頼感というべきか、盲信というべきか、少し自信がない。

 前よりはよくなっているとは思う。

 実際、前は言われたままに動いていたクロエだけど、考えて話すようになっているし。


「ここで?」


 辺りを見回しているのは、村の近くは危ないという事だ。


「いや、少し森の奥に行ってから」

「そう」


 この五年の間、魔獣狩りは僕たちの生業のひとつだった。

 開拓していたら襲ってくるし、倒したら素材として買い取ってもらえたし、倒さない理由がない。

 一財産と呼ぶにも莫大な金額を稼いだのだから、その腕前は自信がある。


「なんだなんだ? 思ったより早く帰ってきたらいきなり」

「ジル。そういうわけだから、行ってくるよ」

「どういうわけだよ。待て待て待て。落ち着け。大胸筋を膨らませろ」


 腕を掴まれて、危なく引きずっていくところだった。

 確かに慌てるところじゃない。

 やる気が空回りしそうだったと気づいて、深呼吸する。


「ちょっと村の手助けをする」

「ちょっとって……」


 顔をしかめるジル。

 言いたい事はわかる。

 定住するならともかく、村の現状をどうにかするなんて立ち寄った人間には無理だ。

 もしも、ここに居着くというなら雇われたジルたちはお役御免になってしまう。


 その辺りを僕がわかっているのか不安になったんだろう。

 さっきの暴走気味の姿を見せたんだから当然だった。


「大丈夫。ちょっとだけで、明日にはここから出発するから」

「まあ、それで気が済むならあたいはいいけどよ」

「帰るのは夜になると思うから野営の場所で合流しよう」


 場所はクロエに魔力探知してもらえばわかる。

 ジルとデイジーの数印は見せてもらっていないけど、魔力量から考えて【Ⅹ】以上は確定。

 この辺りで二人と誤認するような相手もいないから間違える心配もない。


「まあ、護衛は仕事じゃねえからいいけどよ。気をつけて行けよ」


 まだ納得はしてない様子のジルに見送られて僕たちは駆け出す。

 本来は危険な大森林も、最奥の魔王城付近と比べれば庭先のような感覚だ。

 軽い足取りで来た道を戻れば、多少の騒動を起こしても村に影響がない辺りまですぐだった。


「アクタ、あっち」

「うん。見えた」


 クロエが手を引いた先。

 目を向ければ大型の鹿に見える魔獣が二匹。

 巨大な角は刃物のように鋭くて、強靭な四肢による突進が驚異の剣角鹿だ。


 悪い。村のために死んでもらう。


 突進する僕たちに途中で気付いたのか、二匹は好戦的に襲いかかろうとして、びくりと体を震わせて硬直する。

 そんな隙をさらされれば、もうただの作業に過ぎない。


 僕の右の二爪が一匹に首を断ち切り、クロエの回し蹴りが首を圧し折った。


「なんか、変な反応だったね」

「そう」


 魔獣は人を見れば無条件に襲ってくる。

 今までもそうだったのに、何故か硬直していた。

 まるで恐ろしい何かに迫られて、恐怖に凍りついたように……。


「もしかして、これ?」

「そうかも」


 お互いの外套。

 銀の刺繍に使われているのは魔王様の髪。

 魔獣は本能でこれを感じ取ったのだろうか?

 魔王が来たぞ、と。


 元々、戦力的に一方的な展開になるのはわかっていたけど、少し申し訳ない気分にもなる。

 とはいえ、こいつらが人類の大敵であるのは事実。

 そして、僕たちにとって弱くても村人からすれば危険というのは見逃せない。

 容赦する理由はなかった。


「近くの魔獣を狩れば狩る程、村は安全になる」

「そう」


 おまけに有用な素材は高値で売れる。

 村の共有財産にすればおじさん、叔母さんがお金を出す必要もなくなる。

 資金に余裕ができれば、村長も何かしらの対策を練れるだろう。

 一時しのぎかもしれないけど、それでいい。

 その間に他の手を考える。


「手伝ってもらってごめん」

「いい。アクタのため」


 本当に気にしていないのかクロエは次の作業に入っている。

 僕が遅れては目も当てられない。

 木に絡みついている頑丈そうな蔓を切り取って、僕が狩った剣角鹿を逆さにして吊るし上げる。

 切断された首の断面から血が流れて、辺りが血なまぐさくなった。


「クロエ」

「そう」


 無詠唱の風の魔法が辺りに広がっていく。

 剣角鹿の血の臭いを乗せて、同時に探知の力を広げて、森の奥へと。


「来た」


 魔獣だらけの大森林。

 すぐに反応があった。

 クロエが見据えた先には猿の魔獣。

 弱いこいつらは身軽な分だけ素早くやってきて、強者が来る前に獲物を攫おうとする習性があったっけ。


「一指」


 左の一指を五連射。

 昔のように大威力で放ったりはしない。

 収束させて、鋭く、遠くまで届くように放つ。


 狙い過たず猿の胸に風穴を開けた。

 放置していたらやってくる魔獣に持っていかれる。

 素早く回収して戻ってくれば、クロエは別の方角を指さしていた。


「次。すぐ」

「多いな」


 ここらの森に入る人が減ったから魔獣が増えているのかもしれない。

 前は狩人の人が弱い魔獣を狩っていたけど、今の村だとそれも難しそうだ。


 やってきた狼の魔獣が八頭。

 こちらも一指の射撃を見舞い、素早く回収。

 血の臭いが濃くなれば撒き餌の効果もどんどん高くなる。


「いっそ狩り尽くす勢いでいこう」

「そう」


 狩人がいないなら縄張りを荒らす心配もない。

 中途半端にして強い魔獣を呼び込むなんて笑い話にもならない。

 徹底的に狩ってしまおう。


 そうして僕たちは近隣の魔獣の反応がなくなるまで狩りにいそしむのだった。




「戻りましたー」

「おう。遅かったな。わりいが先にメシ食っちまったぞ?」

「大丈夫ですよ。あ、これお土産です」

「お、剣角鹿のモモ肉だろ、これ。いいねえ。このまま一晩寝かせて、明日の朝のメシにすっか?」

「角はどうしたっすか? あれ、高く売れるっすよ?」

「あー、素材は置いてきたんで」

「ええー。うち、今から解体に行っちゃダメっすか?」

「ダメですよ。あれに手を出しちゃ」

「そう」

「おい。人の狩り残しに手を出すなって」

「うっす。でも、もったいないなあ」


 デイジーは未練ありげに呟いているが、ジルに窘められれば諦めるのだった。




 次の日、もう村に立ち寄らないまま出発した彼女たちは、元開拓地に氷漬けになった大量の魔獣の死骸が置かれている事を彼女は知らないままだった。


 そのわきに書かれた大きな『〇』の意味を察する事ができた三人は、何事か騒ぎ出している村人たちを落ち着かせるのだった。


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