96 ねえ、ジル。この辺りで冒険者が集まる街ってどこかな?
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開拓村を迂回して出発して三日。
最初の目的地は隣町。
というか、ここ以外に街がないからそもそも選択肢はない。
普通の人の足で七日は掛かる道のりだけど、僕たちなら五日も掛からないだろうというのがジルの見込みだ。
今は三度目の野営準備を終えて、保存食で簡単に作った料理を食べている。
当初は交替で役割分担するはずだったんだけど、僕の番から後はずっと僕のターンが続いている。
いいんだけどね。
料理、好きだし。
おいしく食べてくれるし。
そのぶん、他の雑用はしてくれるし。
ガツガツと食べる三人を見ていると、作った甲斐があるというものだ。
大量の荷物を抱える羽目になっても我慢できる。
「ねえ、ジル。この辺りで冒険者が集まる街ってどこかな?」
「うん? なんだ、冒険者になりたいのか?」
「二人は無理っすよ。ギルドに登録する時に数印を調べられるっすから」
そうなんだ。
基本、手の内を隠したがる冒険者もギルドには隠し立てできないのか。
当然だ。
仕事を振る相手の実力がわからなければどうしようもないのだから。
まあ、僕は冒険者に興味はない。
「違うよ。村の外に出た人たち、きっと冒険者をやっていると思うんだ」
ジュニアたち、村の若い衆。
外に憧れて村を出たとは聞いたけど、余所者が紹介もなしに仕事にありつけるわけがない。
その点、冒険者は敷居が低い。
体一つあれば知識も技術もなしでも少しは働ける。
「そうだな。まあ、よく聞く話だ」
ジルは頷きつつもうんざりした顔をしている。
説明するのも嫌そうで、デイジーが引き継いでくれた。
「あー、多いんすよ。数印【Ⅵ】とか【Ⅶ】ぐらいで冒険者になる子供って。でも、大抵はすぐに諦めて辞めていくか、いなくなるんっすよね」
冒険者は過酷な仕事だ。
主な仕事が魔獣退治。
それも素人では対処できない強い魔獣の、だ。
なにせこの全ての人が数印を持つ世界では、弱い魔獣なんて自己解決できるのだから、依頼されるのはただの魔獣じゃない。
数印が少し強い程度では大成せず、諦めるか、いなくなる――死んでしまうのだろう。
「成功する冒険者はみーんな数印【Ⅹ】以上っすよ」
「成功したって言っても、学院の一年目で落第した連中だけどな」
自嘲気味なジル。
二人もそうなのかもしれないけど、隠している事に言及する必要もない。
ベルとヌイはどうだったんだろう?
僕の生活習慣に付き合ってくれていたせいか、数印の成長は別れた時も止まっていなかった。
実家に仕送りできるぐらいの稼ぎがあるのは偶然知れたけど、何をしているんだろうか。
「で、村の奴らを見つけてどうするんだ?」
兄妹に思いを馳せていたところに聞かれて、頭を切り替える。
「成功しているなら別にいいけど、うまくいってないなら助けようかなって」
村には若い人手がいる。
一度出ていった連中が頼りになるかは疑問だけど、外で失敗した後なら今度は投げ出さないんじゃないかな。
故郷の大切さが身に染みているだろうし、今頃は戻りたいって思っているかも。
とはいえ、最底辺の生活をしているなら村に戻るのも簡単じゃない。
借金なんてしていたら生活基盤を立て直すのも一苦労。
そんな理由なら僕が資金援助してもいい。
「碌な結果にならねえと思うぞ」
ジルは大雑把に見えて気遣いの人だ。
村に行く時も僕がショックを受けないように忠告してくれた。
実際、その通りだったし、今回も同じ結果になるかもしれない。
けど、傷を恐れて躊躇うつもりもない。
「それでも行きたい」
「はあ。お前、被虐趣味でもあるのか?」
「ないわ!」
否定しても疑いの目をやめないジル。
いらない苦労を背負い込もうとしている自覚はあるけどね。
「もしかして、村に戻るように説得するつもりっすか?」
話の流れを察したデイジーも確認してくる。
その表情は苦い薬を舌に載せたみたいに渋い。
「アネゴの言う通りっす。救ってあげるなんて考えているなら、酷い失敗するっすよ」
「だろうねえ」
本当にね。
心の底からそう思う。
特にジュニア。
やたらと僕に絡んできたし、ケンカ腰だったんだ。
今、どういう状況になっているか知らないけど、困っているところを助けたとしても喜びはしないだろうなあ。
でも、知らん。
「いいよ。逆恨み上等。僕も助けてあげたいなんて思ってないし」
「そうなんすか?」
「うん。ただ村に戻らせたいだけだし」
受け入れてもらえるかは五分だけど。
村の人にとっては家族だ。
見捨てないといいな。
ぶん殴られるぐらいは覚悟して頭を下げてもらおう。
「いいぜ。依頼主の希望だからな」
「どうせ通り道っすもんね」
デイジーが折りたたんだ地図を開いて見せてくれる。
簡単な地形が描かれただけのものだけど、二人の経験と知識で描かれたそれは希少な情報だ。
僕に見せていいのかと思ったけど、本当に大切な部分は頭の中にあるんだろう。
上――北は黒く塗りつぶされていて、これが大森林。
王国は大森林の南側のほとんどを支配する大国だった。
南は海にまで接しているのだとか。
デイジーが地図に指を当てる。
上の方からゆっくりと下に進んで、いくつかの丸を経由して大きな四角で止まった。
「ここは?」
「領都っすね。この辺りを治める貴族様のいる街っす。この領で一番大きな街っすね」
なるほど。
言われてみるとここが色んな街の中心地だとわかる。
「ちなみに、王都に行くにはこの領都からさらにもう一つ別の領を縦断するっすからね」
なかなかの距離だ。
普通の人なら一ヶ月以上は掛かるんだろうな。
いっそ身体強化して走ればすぐに着きそうだけど、そんな派手に動いては注目してくれと言っているようなものだ。
「ちなみに、聖都ってどこにあるの?」
「聖都って別の国っすよ?」
デイジーが指さした先は地図の外。
東の方向だ。
そりゃあ、王国の地図に載っているわけがない。
いずれ聖都にも行かないとな。
僕やクロエ、ラフルやクラリスの人生に大きな影響を与えた教皇がいる場所だ。
「まさか、そっちまで案内しろって言わねえよな?」
「してくれるなら助かるけど」
ガイドがいてくれると旅は助かる。
そんな期待の目を向けたけど、ジルもデイジーも首を横に振った。
「ダメだ。あたいらは王国から出た事ないから」
「そっすね。そもそも、聖国って簡単に入れないって話っすよ? よく知らないっすけど」
入国制限があるのかな?
まあ、あったとしても国境を抜けるぐらいなんとかできる。
最悪、大森林を経由すれば大回りになっても入れるはずだ。
「まあ、まずは王都に行ってからだし、それも領都に着いてからだな」




