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飯とリョーガ達の故郷

やっぱり、今月は不幸な月です…。


色々とあったんですよ…色々と……はぁ…。

リョーガが海を渡っている途中、肝心のユートと言えば、


「だから、そうじゃないって。こうやんねん」


そう言って向かいに居る既にボロボロなマリンの足を払って華麗に背負い投げを決める。


ドサッと背中から地面に叩きつけられたマリンは一瞬の事で混乱し、すぐに立ち上がれずに咳き込む。

「ほら、立ってやってみーや。今、俺の体重はマリンより軽くしてるから、やりやすいで」

ユートの優しそうな声がマリンの耳に聴こえるが、立ち上がろうとしても上手く脚に力が入らない。


そんなマリンに手を貸し、引っ張り上げるようにして立たせて、もう何度も行わせた無手による武術を教える。

「人を投げる時は、力やなくて、相手のバランスを根っこから崩して、腰の捻りを効かせて、相手の動きを利用すんねん」

ほら、やってみ。と後に付けたし、再度マリンを指導する。

言われた通りマリンは行動するが、足を払おうにもユートのバランスは崩れない。投げようにも、バランス感覚に優れたユートを投げる事なんて夢のまた夢。

そして、また指導としてユートに投げられ、転かされ、宙を一回転をせられ、気が付いたら空を見ていると言った状態になる。

それを何度も繰り返し、約二時間程経った時。


「そろそろ体力の限界みたいやな。ちょっと休憩しよか。んで、その後は身体学と魔導学の勉強な」

「は、はい…」

ユートが休憩と、その後のハードなスケジュールを言い渡す。

それを聞き届けたマリンは、疲れで身体が思い通りに動かなくなった身体をドサッとその場に背中から倒れ込ませて荒い息を整えようとする。

その側にユートは座って、満身創痍なマリンに話し掛ける。


「ホンマ、情けないなぁ。って言いたい所やけど、まぁ、良く出来てる方やで。ヤル気もあるし、覚えんのも早いしで、教え甲斐があってエエ感じやで」


「…はぃ」


ユートがマリンに色々と教えている理由は、マリンに本人がユートに頼んだからだ。「虐められないようにして下さいっ!」と。

そして、ユートは易々と承諾し、今に至る。

ユートの人を育てる際の方針は『褒めて人を育てる』と『飴と鞭』である。

ニコニコと笑いながらポケットからゲロ不味(マズ)の活力剤を取り出して、マリンの顔の隣に置く。


「動けるようになったら、これでも飲んどき。ものゴッツイ不味いけど、元気でるわ」


「はぃ…」

マリンは、返事するのも億劫な程に疲れているようだ。

なにせ、これまでずっと平和で動く事の少ない暮らしをしていたから。それが今になって悔やまれる。

汗を滝のように流し、心臓が激しく鳴り響く。肺は新鮮な酸素を求めて過剰に空気を吸い続け、喉の奥からは鉄の味がする。

関節の節々は痛みを訴えかけ、投げられたり転かされたりした際に出来た傷口は風が当たる度にヒリヒリとする。


そんな状態に陥っているのを知りながらも、ユートは陽気な笑みで励ましの言葉を送る。

「まっ、言い出しっぺはアンタやねんから、諦めんと最後まで頑張りや」


優しそうな口調ながらも厳しい励ましの言葉を残してユートは屋敷へと戻って行く。


そして、最後に一言。


「そう言えば、ネモに俺の居場所伝えんの忘れてたな……まっ、いっか」


物凄く適当な事を呟いて空を見上げるユート。

この広い空の下の何処かにリョーガは居る。そう思って。


ーーー


場所は移り、航海途中のセンカン一号の甲板にて。

「で、後何日で着くん?」


「到着予定は13日後なのっ!」


「早く…早く着いて欲しいです…」


「情けねぇなユース。早く慣れろよ。おっ、この肉美味ぇな」


「ねぇ、そこのショウユ取ってくれない?」


「ほらよ」

「ありがと」


気持ちの良い陽の当たる場所で豪勢な食事をしていた。

料理は、全てリョーガとエリオスが海から釣り上げた魔物魚で、それを調理したのはクリムだ。


そして、その魚料理をリリィやエリオスはナイフとフォークを使って、リョーガとクリムは箸を使って食事をしている。

ユースは料理に手を付けていない。


そんな時、ユースを見ていてある事を思い出したクリム。

「そう言えば、ソラさんから”酔い止め”って言う薬貰ってたのっ!」


どうぞっ!とクリムは錠剤の入った袋をユースに渡す。

それを受け取ったユースは、袋から錠剤を取り出し、


「…これはなんですか?」


一粒摘んで目の前まで持って行き、不思議そうにする。

固形の薬を見た事のないユースには馴染みのない物だ。

だが、リョーガならば良く知っている。

「とりま、水と一緒に飲んどけよ。少しは体調マシになると思うで」


「そうですか…リョーガさんがそう言うなら…」


リョーガに言われた通り、錠剤を一粒口に放り込んで、水で流し込む。

これで、船酔いは少しでも良くなるかと、そう思われた刹那ーー思わぬ発言があった。


「あっ、言い忘れてたのっ。薬飲んだら、丸一日はお腹痛くなるのっ」


「ーーーっ!?」


言われるや否や、ユースは青い顔を青白く変えてトイレへと駆けて行った。

どうやら、薬の効果は抜群のようだ。


「哀れな奴だな。こんな美味い飯を食べれないなんてよ」


「このサシミって言う料理美味しいわね。特に、ショウユにワサビを混ぜて、それに漬けると…んぅーーっ」


「寿司食いてぇ…」


ユースが悲惨な目に遭っているのにも関わらず、非情にも彼等は気持ちの良いぐらいの平常運転だ。


リリィは魚料理に頬を抑えて味に感動しているし、リョーガは懐かしきお寿司に想いを馳せてる。

心配したのはエリオスぐらいだ。いや、実際に心配してるのかさえ怪しい。


ユースが居なくなった食卓だが、食事は進む。

だが、リョーガには不満があった。

純日本人として外せない主食となる料理がない事だ。

「なぁクリム。米ないん?」


「コメです?」

「そう。お米や。白米や」


「コメ?ハクマイ?……マイ?ジマイです?」

「ジマイ?それって白いやつ?」

「うんっ。白いくて小っさいの。見せるのっ」

そう言って、クリムは席を立って船内へパタパタと駆けて行った。

それを見送るリョーガに、話の内容が気になったリリィが話し掛ける。


「ねぇ、ジマイを使って何をするの?アレ、硬いわよ」

「俺が思ってる通りのもんやったら、俺が食べたいやつ作れそうやなぁ~って思ったんよ」

「食べたい物?」


それは何?と言いたそうな表情でリョーガを見つめるリリィ。

可愛らしい女の子に見つめられるのに慣れていないリョーガは照れて視線を空へと向けながら返答する。

「お寿司。確かユートが言ってたっけ…米酢と砂糖と塩があったら作れるとか何とか…」


「美味しいの?」


「そりゃな。俺の故郷の味やしな」

「楽しみね」

リョーガの言う料理を想像したリリィは、言葉通り、その料理を心底楽しみにする。まるで、今にもヨダレが垂れてきそうな程に口元を緩めて。

それから数分待つとクリムがパタパタと足音を鳴らして帰ってきた。ーー米俵を背負って。

「見た目によらず力持ちなんだな…嬢ちゃん…」


米俵の大きさからするに60㌕程はありそうだ。それを幼女と言っても過言ではない小さな女の子が担いで持ってきたのだ。

エリオスが驚くのも無理はない。

だが、リョーガの驚きは別の所にあった。


「おぉー!米やんけ!クリム、褒めてつかわすぞ!」


なぜか偉そうな口調に変化したが、リョーガが喜んでいる事には違いなさそうだ。

ドスンッと置かれた米俵(こめだわら)を抱き上げてクルクルと下手くそなダンスを踊っている。

暫くの間、クルクルと回っていたが唐突にピタッとダンスを止めて、クリムに視線を向ける。


「とりま、これですし飯作ってや。確か、炊いた米に米酢と砂糖と塩を混ぜたら作れた筈や」


「分かったのっ!作ってみるのっ」


リョーガの頼みを容易く了承するクリム。

良く出来た子だ。

教えて貰ったうろ覚えの知識をメモ帳に書き記してから、米俵を置いたままスタタタタッと船内へと駆けて行った。

元気な子だ。


クリムが去って行った後、黙々とした食事が再開されたが、沈黙をいち早く破った輩がいた。

「一つ気になったんだけどよ、リョーガの住んでた所ってどこなんだ?」


エリオスだ。

言い終えた後、こんな美味い飯のある国なんて聞いた事ないぞ。と小さな声で呟いた。


「東の方?」


「東だったら、獣国か?それとも、エルフの奴らが住んでる森か?」


「さぁ?ユートが言ってたから詳しい事は知らん」


「またユートかよ…」


どう言うわけか、何かしらにユートが関係してくる。ソラの時もそうだった。

まるで、リョーガの友人ーー頭のおかしいユートの手のひらで弄ばれているように感じる。


「じゃあよ、街の名前とかは?今度、機会があれば行ってみたいんだが」


「大阪」


「それは地名…か?」


「それしかないやんけ」


それ以外に何があんねん。と言いたげな視線を向けるリョーガ。

だけど、エリオスは聞いた事がない。地名かどうかも疑わしい言葉だ。だが、エリオスは諦めずに考えて疑問を発する。


「じゃ、じゃあよ、国は?国の名前は?」


「日本」


「………」


お手上げだ。

リョーガが嘘を言っているようには見えない。だけど、その名前は一度も耳にした事がない。


これ以上リョーガに話を聴いても答えは出ないと思ったエリオスはリリィに助けを求めるような視線を向ける。


「残念だけど、私も知らないわよ」


リョーガと一番仲良く見えるリリィですらも知らないらしく、完全に手詰まりかと思えた。だけど、エリオスは諦めない。

この機会を逃すと、もう二度と知る事が出来なくなるような気がしたから新たな情報を求める。


「なんでも良いんだ。近くの街とかの名前からでも判断できるから、教えてくれよ」


「リョーガ達と初めて会った所は、ラ・ドルミィから少し離れた『消失の遺跡』近く。それ以上の事は知らないわ」


リリィの話の中に出てきた『消失の遺跡』。曰く付きで誰も近寄りたがらない過去の遺物だ。

その名前が彼女の口から出てくるのが不思議に思われたが、今は別の話をしている。


その”過去の遺物”がリョーガの故郷に関連してるのかもしれないと考えた。


「消失の遺跡…か。確か、あの遺跡って…」


「まだ解明されてない所が多いけど、大賢者”エクスワイヤ”の墓がある場所よ」


「だけど、噂じゃ初代魔王の産まれた遺跡だとか、勇者を消す遺跡だとか、冥界に繋がる遺跡だとか言われてたな」


エリオスの発言に、リリィは僅かだが不機嫌そうに表情を顰めた。


「そんなの、ただの噂よ。調査しても、魔導時代の兵器しか出て来なかったし、あの辺りの魔素は薄い。そんなのがあるとは到底思えないわ」


「やけに詳しいな…」


リリィの言っている事は正しい。ただ、普通の人が知っている情報よりも彼女の知る情報の方が多く、エリオスは軽く疑問を抱いた。

「ラ・ドルミィに住んでる殆どの人は知ってるわよ。それに、調査員として派遣されたのはラ・ドルミィの冒険者よ」


「なるほど…」


確かにリリィの言う通りかもしれない。

冒険者は調査員として派遣される事も多々ある。特に、ランクの低い者が良く派遣される。


もしかすると、リリィも遺跡調査隊に派遣された中にいたのかもしれない。


そう結論付けて納得して、話題を元に戻す。

「じゃあよ、誰もリョーガの出身は知らねぇのか?」


「だから、大阪や言っとるやんけ」


「いや、リョーガに聴いても分かんねぇんだよ…」


「もしかすると、ユートなら知ってるかもしれないわね。会えたら聴いてみたら良いんじゃない?」


「そうか。それじゃあ、そうするよ」


どんな質問をした所で、リョーガの答えは分からない事ばかり。リリィに聴いたとしても、知らないと言われる。

もうエリオスには知る術がなく、最終手段になる『ユートに尋ねる』を選んだ。


だが、本当の事を知れる日は遠い。

それは、ユートに会ったとしても情報を提供してくれるかどうか分からない。と言った点があるが、今のエリオスはそんな簡単な事ですら忘れていた。

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