船?…船
今日、書いている途中の小説が消えるかも…
けれど、それも致し方ない。
なぜなら、小説は携帯の中。書いてるのも小説の中。
そして、今日、携帯を新しいのに変えるから…。
もう、バッテリーの持ちが不安で仕方ないのだよ!奥様!!
イカダにリョーガとユースを先に載せてから、乗り込んだエリオスとリリィ。
「出発なのっ」
全員が乗り込んだ事を確認して、クリムが一言発する。そして、ポケットからサイコロサイズの箱を取り出し、イカダの最後部に置いた。
クリムが取り出したサイコロ。何度かリョーガ達がお世話になったアレだ。
ただ、仕様が少し違うのか、箱は一度バラバラになってから新たな物を構築し始めーー機械を一つポンッと出現させた。
リョーガならば見た事のあるこの世界には存在しない科学によって造られた物。エンジン。船などに使われる動力源の船外機だ。
まぁ、肝心のリョーガは爆睡中なのだが。
船外機を起動させるには、俗に言うリコイル・スターターの紐を引っ張って人力でエンジンを掛ける必要がある。
そんな、この世界の人は知らない事をしなければならない。なのに、クリムは慣れた手付きでエンジンを起動させてイカダを沖へと進めた。
海は青く、透き通った空色をしている。ゴミなども浮いてなく、とても綺麗だ。
そんな海の中には、凶悪な魔物が優雅に泳いでいる。
浅瀬だからか、陸近くだからなのかは分からないが、大きな物は居なく、数は少ない。小魚型の魔物がイカダの真下を泳いでいるぐらいだ。
だが、魔物が真下に居ると言う事には恐怖を隠しきれないエリオス。落ち着きなく不安気に海中を覗き込み、いつ戦闘になってもいいように愛用の槍に手を掛けている。
そんな用心深いエリオスが居るからか、リョーガは寝返りを打って不用心に海に片手を突っ込み、ユースは座ったまま呆け、リリィは遠い目をして海と空の境界線を眺めている。
長閑なものだ。だが、エリオスが居ても居なくても、この様な状態になっていただろう。
「後少しで着くのっ」
「着くって…」
クリムの声に、エリオスだけが警戒しながら視線を周囲に巡らす。だが、ここは岸はおろか、陸地すらない海の真っ只中だ。
「どこにだ?」
何も見つけられず、クリムに詳しい事を聴こうとする。だが、その前にクリムはイカダを動かすエンジンを止めて、最前部へと移動を開始していた。
「ここなのっ」
最前部へと辿り着いたクリムは、大きく手を広げて目の前の何もない空間を示す。
だが、そこは何もない。ただの海の上だ。
疑問を発そうと口を開けるエリオス。だが、目の前で起きた事によって、その口は別の意味で開かれる事となった。
クリムが片手を前に突き出し、まるでそこに何かあるかのように”触れる”。刹那、クリムの手を中心に、水に水滴を垂らしたように波打ち、鉄の壁が少しづつ現れ始めた。
「な…んだよ…コレ…」
これまで幾多もの有り得ない現象を目の当たりにしてきたエリオスだったが、これには驚きは隠せない。
出現した当初は壁だった筈だ。なのに、数秒で壁は巨大な鉄の船と早変わりしたのだ。ただ、船だとは近くからだと判断できない。
何しろ、大きすぎるのだ。
ドラゴンさえも余裕で凌駕する巨大すぎる鉄の船だ。優に300mは超えているだろう。
そんなバカでかい船が完全に出現すると、クリムはクルッと無駄に一回転。そして、エリオス達の方へと向いて質問に答える。
「ユート様が考案した『センカン一号』なのっ!」
エッヘンと腰に手をやり無い胸を張るクリム。
その背後でセンカン一号と呼ばれた船の側面の一部が静かに開かれて、イカダの出入り口を作った。
その光景を目に、エリオスは感嘆と呆れを混じえた声で呟いた。
「またユートかよ…」
〜〜〜
イカダから要塞並みの兵器が積まれたセンカン一号に乗り換えたリョーガ一行とクリム。
そして現在、エリオスは迷路のように入り組んだ船内で迷子になっており、ユースは船の側面でグロッキー状態。
クリムは船の舵を取り、リリィはそこで暇潰しをしている。
そして、リョーガはと言うと、最上甲板で大の字に寝転がって陽の光を全身に浴びて気持ち良さげに日光浴に励んでいた。
「っにしても、良くこんなん作ったなぁ〜」
ダラけきったリョーガは、ゴロゴロと転がりながらセンカン一号の感想を呟く。
「センカン一号とか巫山戯た名前つけとるけど、マジもんの軍艦やんけ。アイツ、何がしたいんや?」
ゴロゴロ、ゴロゴロとユックリ転がり、激しく転がり、甲板に設置された何かにゴンッと背中が当たった。
体を少し起こして、当たったものに視線を向ければ、そこには砲台がある。どこからどう見ても後付けされた重機銃の類だ。
「あの装甲車もそうやけど、アイツの作るもんの行き先がサッパリ分からへん」
まぁ、使い勝手はええからエエんやけどな。と後に付けたし、再度ゴロゴロタイムを再開する。
ーーー
場所は変わり、船の中枢部。艦橋の下にある操縦室。
部屋の中は半球状で、床や壁と言った全てがモニターの役割を果たす変わった一室にリリィとクリムは居る。
モニターの一部にはソナーで探知された周辺地図や海上の景色の他に、海中や、空までもが映されており、リリィは海中を映している床に設置されたモニターを眺めている。
「変な魔物ね」
「海の魔物は変わってるの!ソラさんが言ってたの。海の底にはもっと変な生き物が居るって!」
リリィの呟きに、モニターを見渡しながら操縦桿だろう球に手をかざして操作しているクリムが元気に応えた。
「そう。……そう言えば、どうしてあなたは私達に付いて来たいの?」
「ユート様に会ってみたいのっ!」
「様って……」
あのユートに『様』を付けるのはオカシイでしょ。と言いたい所だが、それで彼女を傷付けてしまう事を考慮して少しだけ話を逸らす。
「会ってどうするの?」
「教えてもらうの」
「…何を?」
「知識なの…。ユート様は何でも知ってるの。だから、闘いのない幸せな世界にする為の知識を教えてもらうの!」
彼女の過去に何かあったのだろう。話している途中に悲しそうに表情に影を落とした。だけど、それはすぐに消え去り、最後にはヘラッと笑みを作って話し終えた。
「そう」
深くは追求せず、返事を一つ返してモニターを眺めるリリィ。
そこには、サメのような魔物もいれば、小魚の魔物やタコやイカのような魔物もいる。
そんな生物に馴染み深いリョーガが見れば、すぐに分かるだろうが、リリィには珍しく思える生き物ばかりだ。
ーーー
迷路のように入り組んだ船内で、エリオスは迷っている。
鉄の扉を開ければ、こじんまりとした部屋に折り畳み式の二段ベットがある部屋や、物置のような部屋があったり、何かの操作パネルが存在する部屋もあれば、盛大なパーティーが開ける程の巨大な食堂だってある。
分岐には丁寧に看板が設置されており、文字は読めるがエリオスには全く意味の理解できない事が書かれている。
だから、エリオスは甲板まで戻れないでいる。
時たまに見かける小さな丸い窓から外の風景は伺えるが、それだけだ。
窓を開けても小さすぎて出れない。
もし出れたとしても海にボチャンし、魔物に食われてお陀仏だ。
「だぁーーっ、クソッ、何だってこんなもん作ってんだよ!何だよボイラー室って!どこだよ!ここ!!」
訳のわからない事ばかり書かれた看板に悪態を吐いて壁を殴る。
そして、鋼鉄の壁の硬さに拳が負けて痛みに悶える。
廊下を歩き続け、約一時間。
これまで何度も開けた扉。探した甲板への道。だが、出口は見つからないまま。
同じような景色ばかりで、まるで同じ場所をグルグルと回っているような気分に陥る。
「さすがリョーガの友人だよ!ったく」
怒りが混じった呆れの言葉を口にしてから、一時休憩と言わんばかりに、その場にドスッと座り込んで深い溜息を吐くエリオス。
廊下の幅は2m程あり、誰かが通りかかっても邪魔にはならないだろう。まぁ、誰も通らないだろうが。
「リョーガは滅茶苦茶な奴だが、ユートって奴も相当だな。こんなバカデカイ物を作るなんて、頭どうかしてるぜ」
ハハハッと乾いた笑みを浮かべて、無事に生きて外に出れるかと不安に思うエリオス。
だが、彼は一つ思い違いをしている。
彼は甲板に出ようと思えば出れるのだ。キチンと看板には最上甲板への道も書かれている。いや、それだけじゃない。船中の所々には迷った時用に地図も貼り付けられているのだ。
なのだが、エリオスは文字は読めても言葉の意味が理解できない。
甲板と言われても、彼には理解できないのだ。
ちなみに、エリオスの現在地は船の前部、主砲下の中甲板付近だ。
リョーガの居る最上甲板を一階と例えるならば、エリオスの場所は地下二階に当たる。
彼の近くにある部屋の名前が『主砲制御室1』と書かれているのが何よりの証拠だ。
だが、エリオスは知らないままだ。一体、彼はいつまで戻れないでいるのだろうか。
ーーー
船に乗って早々に船酔いでグロッキーになったユースは立っているのもやっとなのか、両腕で手摺りに捕まり、震える足を何とか立たせている。
「うぅぅ……オエェェェ…うぅ…」
彼は船の上から青い海に向かって吐瀉物を流した。だが、出てきたのは薄い黄緑色の胃液だけだ。
なにせ、今回に限らず、船に乗ってから何度も吐いているのだから。
だけど、未だにスッキリはしない。まだ胸の中にムカムカとした物が残り、頭はグラグラとしている。
「うぅ…船は嫌いです…」
腕の力が抜け、立つ力も残っていなくて足元から崩れ落ちる。
波はあるが余り揺れない船。が、それがユースにはダメだったようだ。
小さく揺れるからこそ、彼は船酔いしてしまったのだ。
脱力した身体を鉄の床に委ねるユース。もう一層の事、海に身投げして楽になりたい。と言う欲求が湧いてくる程に気持ち悪い。
「水…水…」
少しでも気分を良くする為に、そして口の中のイガイガとした物を取り払う為に水を求めて移動を開始するユース。
両手両足を使わず、身体だけで床を這って船内に向かう。その姿はまるで芋虫だ。
頻繁に吐き気を催して口元を抑える。
そして、吐き気が収まれば移動を再開する。
チラッと海の水を見たが、リリィに言われた『海の水は飲めないわよ』の言葉を思い出して海水を求めずに、船内へと芋虫状態で向かって行った。
そこは、案外物知りなエリオスでさえも迷う迷宮だと知らずに。




