喧嘩と疑問
そう言えば、なんだか久々に投稿する感じ…いや、実際に久々なのか…。
魔国の最北端にある街、タン。
そこに、ユート。もとい、イクスは辿り着いた。城で出会ったミーシャと共に。
「……まずは、お前のその見すぼらしい格好をどうにかせねばな」
街に入ってすぐミーシャに言われた事だ。
それは、彼の姿が余りにもズタボロで、見るも無残な格好をしているからだ。
それで周囲からの注目も集めている。
勿論、悪い意味でだ。
「あいよ〜」
自分の事だと言うのに、適当極まる返事を返してミーシャに付いて行くイクス。
服屋に着くと、店員が一瞬嫌そうな表情を見せてから駆け寄ってきた。
しかし、ミーシャは店員の事を無視して、服選びを開始する。
「これなんてどうだ?」
などと言って、楽しげにイクスの服を選ぶミーシャ。言葉遣いはアレだが、女の子らしさと子供らしさが滲み出てきている。
そんなこんなで、ミーシャが選び抜いた服装は、全身真っ白になる服であった。
ここは街で少しは温かみがあったとしても、寒いのは変わらない。その為か、長袖長ズボンの他に、ズボンの上から履くような防寒着や、モフモフの付いたジャッケットなど、温かさと清潔感を重視した服である。
彼女がわざわざ選んでくれたものを断るのも忍びなく思えたイクスは、その服装の白さに若干引き攣り顔になったものの、受け入れる事にした。
そして、街に出ると、またもや視線が突き刺さる。
今度は、服装が白すぎ、そして、服の裾から覗く機械の身体を奇異の目で見られているのだ。
だが、ミーシャは満足気で、何とも言えないイクス。
視線の嵐に苛まれながらも、彼女に付いて行く。
それから、あちこちの店を周り、イクスの買い物や、これからの旅に必要な物資などを買い足し、全てをイクスに持たせながら休憩の為に立ち寄った喫茶店のような店で。
「次で最後だ。次は貴様を傭兵に登録するつもりだ。貴様ならば心配ないだろう」
何か含みのある発言にイクスは首を傾げる。
しかし、彼女はそれに答える事なく、ズズズッと”コーフィ”を飲む。
コーフィは苦く、人族には嫌われているが、魔族は好んで飲むらしい。
ちなみに、”ソラの瞬き”で販売されているコーヒーは甘くて美味しく、老若男女関わらず人族には大人気だ。
「それとは別に、貴様の事を我はまだ詳しく知らぬ。何でもいい、話せ」
「何でもって…えーっと、俺の名前は、イクスで、年齢は20…2?3?で、えーーっと……」
無茶振りに、困惑しながら自己紹介するイクス。しかし、何を言えばいいのか分からず、言葉が詰まる。
仕方なく、と言った感じで、ミーシャが問いを発する。
「種族はなんだ?」
「人?」
「出身は?」
「東方かな?」
「使える魔法は?」
「ない」
「それじゃあ、スキルは?」
「スキルもない」
「それじゃあ……」
うーん、と唸り、
「特技はなんだ?」
「……特にない、かな?」
「………」
もしも、ここに紙があって、それにイクスが答えた事を記載したとなれば、余りにも酷いステータスになっているだろう。
そう言える程に彼には”何もない”。
「もう良い。我が決める。貴様は、魔国のラン出身で、種族はバンパイア。魔法は風で、スキルは身体強化だ。覚えておけ」
「良く分からんけど、分かった」
彼女が何の為に生まれなどを決めたのか理解できないイクスだが、覚えておけと言われたからには、何か意味があるのだろう。そう思って、頭の片隅に言われた事を留めておく。
「それじゃあ、行くぞ」
「あいさ」
ミーシャの後に続いてイクスは喫茶店を出る。
その際の支払いは、やはりミーシャだ。
それから、良く分からないままミーシャに連れられて、とある建物の前までやってきたーーのだが。
「お前が俺の肩にぶつかったんだろうが!」
「あ”ぁ?何を寝言言ってやがる!テメェがぶつかってきたんじゃねぇかよ!!」
その建物の前で今にも喧嘩が始まりそうな、一触即発な雰囲気を撒き散らした男二人が言い争いをしていた。
ミーシャは彼等の奥にある建物に入りたいようだが、二人が邪魔で先に進めないようだ。
「ちっ、面倒な。全員まとめて燃やし尽くしてやろうか…」
ミーシャは何か良からぬ事を口走っている。
可愛らしい外見に似合わない発言だ。
今にもミーシャが魔法を使って二人を丸焦げにしてしまいそうな感じだったのを察したイクスは、トントンッとミーシャの頭を軽く叩いて一歩踏み出す。
「あ?」
「あ”ぁ?」
二人揃って、突然間に割って入ってきたイクスへと睨むような目を向ける。
しかし、イクスは笑顔だ。ニッコリと笑いながら、
「邪魔やわ。喧嘩は他所でやってや。あっ、それと、金属の類は置いてってや」
優しい声で、ハッキリと彼等に物を言った。しかも、サラッと自分の欲望までも漏らした。
そんなポッと出てきたばかりのイクスに、当然ながら二人は激怒。
お互いの喧嘩の理由など忘れて、イクスに殴り掛かった。
しかし、次の瞬間には二人は宙を舞っていた。
誰もが何が起きたか理解できない光景だ。
イクスが殴られる瞬間、忽然と姿を消したと思えば、二人は宙を舞ったのだ。
野次馬が呆然とするのも頷ける。
だが、これには仕掛けがある。
単純な仕掛けだ。
相手の拳が当たる瞬間を見切り、咄嗟にしゃがんで、二人の鳩尾に右足の強烈な蹴りを瞬時に入れたに過ぎない。
ドサッと音を立てて地面に落ちた二人。
鳩尾に走る痛みに二人は呻き声を上げて転がる。
それを横目で確認したイクスはクルッとミーシャの方へと方向転換し、笑顔のまま話す。
「行こや」
何事もなかったかのように、先に進む事を施すイクス。
そんな彼を見て、ミーシャは思った。
「(コイツは一体、何なんだ…)」
全く彼の正体が掴めない。
本人曰く、人間だと言っているが、全く信憑性がない。
もし人間ならば、あの極寒の地に立ち入る事すら出来ない筈なのだ。
どれだけ着込んだとしても、止まない吹雪と全てを凍らせる寒さからは逃れられない。
基礎能力が高い魔族だからこそ、極寒の地でも生き抜く事ができる。魔族だからこそ、寒さにも強く、襲い来る魔物にも対処できる。
しかし、それでも僅かに限られた魔族しか彼処では生き抜けない。
だからこそ、イクスの正体が全く分からない。
あの地に居た時点で、彼は人間ではない、他の何かであると結論付けれる。
だが、彼は魔族ではないのは確かだ。
魔族は総じて魔法が使える。それも、人間の使うような魔法擬きなどではなく、列記とした魔法だ。
では何か。そう問われても、答えようがない。
獣人のような毛もない。天人のような羽もない。ドワーフのように小さくもないし、エルフのように耳も長くない。
ただ、体の半分が古代技術によって作られた、何かである。としか答えようがないのだ。
色々な疑問を抱えながら、ミーシャはイクスに施されるがまま、建物の中へと入って行く。




