怪物2
もう、不定期で良いや!
って、開き直りました。
なんだか、ごめんなさい。
話は変わりますが、今日の台風、凄いですね〜
台風のおかげで早く帰れましたが、その代償として服が水浸しになっちゃいましたよ。
バイクで職場行くべきじゃなかった…。って、今頃後悔しても意味ないですよねー。
ってなわけで、皆様も風邪ひかないようにしてくださいねっ!
その日、この世界に住む人達は恐怖した。
何に恐怖を覚えたかなど定かではない。けれど、確かに何かに恐れたのだ。
背筋に寒気を覚え、まるで、背後に死神が鎌首をもたげて立っているような気がした。
赤ん坊が、子供が、老人が、誰もが怯えを含んだ視線を北へと向けた。
ちなみに、リョーガ達には何ら効果はなかった。
いつもの如く、暴走車に乗ってヒャッハーしていた。
ーーー
一寸先すら見通す事のできない暗闇。
グチャグチャと何かを咀嚼する音が嫌に反響する。
「ゲプッ…クキッ、クキャキャキャキャキャッ」
食事を終えた怪物は自意識があるのか、邪悪に嗤う。
力が増した事に喜びを感じ、食べても食べても訴えてくる空腹に苛立ちを覚える。
カチカチと爪を鳴らして立ち上がる怪物。
封印されていた大悪魔を彼は喰らったのだ。
わざわざ封印を解いてから、神に一番近いとまで言われた大悪魔を喰らった。
存在感が大きく、怪物である彼でさえも怯えさせた大悪魔だった。
だが、どれだけ攻撃をしても彼が死ぬ事はなく、永遠にも思えるほどの特攻を繰り返された大悪魔は、一瞬の隙を突かれて喰われてしまったのだ。
そうなると、今は、この怪物が神に一番近い存在と言う事になってしまう。
それは、この世界に存在する生き物からすれば、非常にマズイ状態である。
なにせ、その怪物は食べる事しか考えていない。いや、考えているかなど定かではない。
ただ、彼は喰らうのだ。
何もかもを喰らい尽くすまで、喰らい続ける。
まるで、それは、星々を喰らうブラックホールのようである。
誰も彼を止める事など出来やしない。
例え、この世界最強と名高い魔王や龍王や大悪魔でさえも、彼には敵わない。
もし、この事態を見兼ねた神が出たとしても、一体でも彼に喰われるなどのヘマをすれば、この世界は一巻の終わりだ。
彼に話は通じない。
彼に道徳は通じない。
彼に心は通じない。
彼に物事は通じない。
彼に常識は通じない。
ただの捕食者である。
触れてはいけない。会ってはいけない存在である。いや、そもそも、存在すらしてはいけない存在なのだ。
「ク、ククク、クククククク、ク…ウ…?」
何が言いたいのか、怪物は暗闇の中で狂言を吐き続ける。
「クキッ、ゥウク…。ラカチ、ウクッ。ベタ。イタベタ。ラハ、タッへ。ラカチ、ラカチ、あ”あ”あ”あ”あ”ぁ」
怪物の中のユートは消え去りつつある。
その証拠に、怪物は言葉を吐く。ユートの記憶までも喰らって、知識を得ている証だ。
しかし、まだ知識としては成り立っていないようである。
普通に聞く限りは、訳の分からない言葉を吐いて叫んでいるだけに聴こえる。
だが、良く聞くと、彼は欲望を口に出して曝け出しているのだ。
これを化け物や怪物と言わず、何と言えるだろう。
そんな怪物を止めれる者なんて、ユートを含めて存在しないーー。
『ーー聴け。人の子よ』
「ガガッ?」
どこからか声が聴こえた。
とても人が出せるような声ではない、とても重みのある声音だ。
怪物は声の主を捜すが、周囲は暗闇一色だ。
彼の目をもってすれば暗闇でも見つけれない事はないが、周囲を見渡す彼を見れば一目で分かる。
どこにも声の主たる姿を見つけられないのだ。
『む?貴様……人か…?』
彼の姿に困惑を覚えたのか、声の主は僅かな戸惑いを声に表したが、すぐに本題へと入った。
『まぁいいだろう。よくぞ大悪魔”ルシファー”を倒してくれた。感謝しよう。これで、我は安心して逝ける……』
彼は大悪魔”ルシファー”が倒された事で、これまで封印によって縛られていた魂が解放され、ようやく天へと登れる日が来たのだ。
しかし、そんな展開になっても怪物には通じない。
ひたすら声の主の存在を視線を走らせて探し出そうとしている。
『…ああっと、そうだ。あの大悪魔を倒したのだ。一つ褒美をくれてやるのが道理だろうな。だと言っても、貴様は強い。力は必要ないだろう。そう…だな…』
暫し考える空白の時間。
その間に、怪物は声の主を喰らおうと暗闇の中を駆け回り始めていた。
地を獣のように這い回り、壁を蜘蛛のように駆け回り、宙を滑空する。
『貴様の今の悩みを我が何とかしてやろう。それが我にできる最大の感謝の証だろう』
そう言った途端、声の主が姿を現した。
灯など一切ない場所なのにも関わらず、彼の姿はハッキリとしており、誰しもが恐怖を抱き、畏怖する姿を表せた。
身長は三メートル程あり、頭に二本の角があるが、片方は半ばからポッキリと折れている。
肌は浅黒く、人間に近いような骨格だが、細長い尻尾があり、筋肉隆々だ。
そして、表情は優し気に笑っているつもりなのだろうが、とても笑っているようには見えない。リョーガに引けを取らない程の兇悪な笑みだ。
しかし、怪物には関係ない。
喰らう為だけに生きている怪物は、彼の姿を見つけた途端に一直線に駆け出し、大口を開けて彼に噛み付ーーけなかった。
スカッとすり抜けたのだ。
『フハハハハハッ、我の身は既に朽ち果てておる。そこまで喰らいたくば、我の亡骸を喰らうがいい』
またもや暗闇にも関わらず、朽ちた遺体が露わとなった。
刹那、怪物は遺体の元へと駆け出し、地面も含めてゴッソリと喰らった。
『フハハハハッ、成る程、成る程。貴様の悩みは、尽きぬ飢餓と極度な魔力汚染だな』
怪物の行動を見ただけで、瞬時に悩みを見抜いた彼は瞬時に怪物でも捉えきれない速度で、いや、怪物の背後に瞬間移動して怪物の胸を貫いた。
怪物の胸を貫いた腕の先。手に握られているのは、ドス黒く淀んだ拳大の魔石。
魔石は未だに魔力らしき物をユートの身体へと送り続けている。
『これでお前の悩みは消し去った。我は逝く。貴様は安心して人間として生きるが良い』
腕を引き抜くと同時に、魔石は砕け、ユートの身体を変化させていた魔物の肉体はボロボロと崩れて行く。
それを横目に、彼は満足気な視線を空へと向けて小さな声で呟きながら消えて行った。
『ーーー我が愛しき娘よ。このまま逝く事を許してくれ……』
魔石を抜かれた事で意識を失ったユートは、地面へと堕ちる。
そして、ユートは見た。
彼の名は人間ならば知らぬ者もいないと言われる程に有名であった事を。
しかし、ある日、ある時、人族が勇者を召喚し、その勇者に倒されて、歴史に悪名だけを残して姿を眩ませた。
彼の名は”オークター・リブ・マグナ”。
人は知らない。彼の偉業を、彼の優しさを。
誰も知らない。彼が世界を守り続けたのを。
幼き日に父を、そして母を失った娘に悔いたいと願う彼は一途に愛しき娘を想い、その想い故に身を挺してでも世界を守り続けた。
誰も知らない彼の想い。
ただ、娘を護りたい。それだけの為にーー。
そんな、マグナの過去を描いたような夢をユートは見た。
いや、マグナに見せられたと言っても過言ではないだろう。
しかし、所詮は夢。
目を覚ました時には既に夢の中の記憶など僅かにしか残っていなかった。
〜〜〜
「元に戻ったのはええけど、これはちょっと…」
身体に思考までも支配されていた記憶は僅かばかり残っている。
その為、あの幽霊のような魔族に助けられた事も記憶にある。
しかし、彼は素直に感謝できないでいた。
その理由は単純だ。
「身体が動かへんようになってもうたやん」
詳しく言うと、右半分が動かない。
機械で作られた右半分は、魔力によって稼働していた。その魔力の源は、ユートの魔力ではなく、魔石であった。
しかし、今はない。
あの幽霊に破壊されてしまい、身体を支配される事はなくなったが、動かせないでいたのだ。
そんな彼は、必死に片手片足だけで壁をよじ登る。
今の彼の力は普通の人間よりも遥かに低い。しかし、これまでに得た経験や知識を利用し、スキルを利用しない”技”を駆使して壁をよじ登る。
魔石がない為、魔物の力は使えず、身体を変質させる事も叶わない。
その為、手を血だらけにしながらも彼は壁を、天井をロッククライミング擬きでカサカサと移動する。
そうして、ようやく大悪魔が封印されていた”穴”から脱出でき、ホッと一息。
残り少ないタバコを吸い始める。
空になったタバコの箱をポイッと穴に捨てて、視線を彷徨わせる。
始めに向けたのは天井だ。
ここにも灯などないが、天井が仄かに灯を発しているのか、部屋全体を白く魅せている。
その次は、この部屋の唯一の出入り口である洞窟の入り口のような場所。
そこに向けた理由は、未だに火のついている松明が掛けてあったからだ。
何もない。真っ白な部屋だ。
いや、あった。
視線を下へと向けると、そこには倒れ伏した女の子の姿が。
「あっ…」
そう言えば、と言う風に何かを思い出したユート。
完全に彼女の存在を記憶の彼方へと忘れ去っていたようだ。
すぐさま彼女の元へーーと、したい所だが、右足は当然ながらに動かない。
右腕なんて、形も残っていない。
そうなると、左足と左手で動くしかないのだが、それは身体を引き摺って移動する事に他ならない。
それでも、殴り飛ばしたのはユートではないとしても、彼の身体が行った事。
考えるまでもなく、彼は身体を引き摺って彼女の元へと向かう。
無限収納が使えない為、介抱も何も出来ないが、元々持っている知識と残った左手だけで、彼女の傷を塞いだり、包帯代わりに、ボロボロになってしまっている服を破いて巻いてやったりする。
そうして、ようやく一段落付いてから、新たなタバコの箱を取り出して、トントンッと箱の裏を叩いてから開けて、一本取り出して吸い始める。
彼は天井を見上げて呆然とする。
右眼は相変わらず見えない。いや、初めは見えていたのだろうが、魔石が抜き取られて見えない。
体内の機能も半分が機能停止しており、片方の肺は稼働しておらず、心臓ですらも弱々しく脈打っている。
それでも、ユートは気にした様子もなく、身体に害しか及ばさないタバコを吸う。
とは言っても、彼にとってのタバコは精神安定剤のようなものであり、一度止めればリョーガのようになりかねないから仕方がないのだろう。
この世に二人もリョーガが居れば、それはそれで大問題だ。




