幕間 経営危機
(=ↀωↀ=)<今回の話も
(=ↀωↀ=)<やっておきたいクランと<超級>のその後の話です
□皇都ヴァンデルヘイム郊外・<叡智の三角>本拠地
「現在、我がクランの経営は危機的状況にあります」
<叡智の三角>本拠地の会議室。
戦争からそれなりに時間が経った頃、戦後最初の全体会議の場でサブオーナーのホールハイムが最初に述べたのがその一言だった。
それを聞いたクランメンバー達の顔に驚きはなく、『だろうなぁ……』という苦い理解を示している。
「まず、今回の戦争でコストが掛かりすぎました」
プロジェクターで資料を映しながらホールハイムが説明を続ける。
表示されたデータはとても赤かった。
<トライ・フラッグス>に際して皇国から資金援助はあったが、全て戦争に注ぎ込んだ。
というか、フランクリンを筆頭に自腹の持ち出しをした者が多い。
クランの上から下まで、この大舞台で全力を超える全力を出し切ってしまっている。
「実質的な属国化や復興のために軍事費も削られるらしいので、今後は補助金も些か以上に厳しくなります」
<LotJ>がそうであったように、<叡智の三角>も予算が削られている。
強いて言えば、フランクリン個人には予算が出ているがそれは<叡智の三角>の活動とは関係ないものだ。
具体的には開墾用や『放流した後も野生のモンスターだけ襲って食料アイテムを回収する改造モンスター』などの食糧事情改善モンスターの製作コストである。
かつては同じことをしても砂漠に水を撒くような無意味さだったが、最近は皇国の南西部では明確に効果が発揮されている。
死んだ皇王の遺した装置による土壌改善と【皇玉座】が消えたことによる自然界のリソースの循環の正常化。
もう一つの原因である【地竜王】から遠く離れた南西の地域ほどそれが顕著だった。
今の皇国は残った食糧や王国からの輸入でもたせつつ、新規開拓地域の食料生産に全振りしている状態である。
なお、そのプロジェクトの中でフランクリンは馬車馬状態だ。
彼女は戦争終了後にやらかしたために契約でガチガチに縛られた執行猶予状態であり、予算をちょろまかして自分用のモンスターに使うこともできていない状態である。
さらに秘匿事項として【リムーバー】の開発にも協力している。
そのように、今の彼女のログイン時間の大半は仕事で埋まっている。
要するに自分のやらかしのツケを払うのに精一杯でそちらまで手が回らないのである。
それでも『バージョンⅢで再挑戦』を目標に励んでいるのが彼女の現状だ。
◇
余談だが、戦争中に<叡智の三角>に参加していた<超級>のうち、ヒカル達<チーム・イゴーロナク>は既に脱退しているが、大佐こと【車騎王】マードック・マルチネスはまだ在籍している。
ただし、彼は今回の経営会議には参加していない。
今は環境変化に伴って流動したモンスターの討伐クエストに参加中だ。
彼も彼で戦争中に愛車の【トールハンマー】とオプションの【電波大隊】、そして蓄積した膨大な電力を失った。
なので、今は<戦車型マジンギア>の改造車でクエストをこなしている。
【トールハンマー】の修理も今は<叡智の三角>が進めているので、少なくともその修理が終わるまでは彼もここにいるだろう。
馴染み具合からすると、修理が終わっても在籍しているかもしれない。
なお、修理云々で言えば<チーム・イゴーロナク>も【紅水晶之破砕者】の修理が必要なのではないかと思われたが、どうやら彼女達は別口で修理ができる技術者と繋がりを得たらしい。
◇
「新型の販売で持ち直せないか?」
クランの厳しい経営状況に対し、古参のメンバーであるゼルバールから声が上がる。
彼が言う【マーシャルⅢ】は【マーシャルⅡ】よりも格段に強い高性能機だ。
特筆すべき特徴は、強固な魔法耐性を得たことで上級職カンストクラスの戦闘でもタンクが務まる点だろう。
超級職や<超級エンブリオ>が跋扈する地獄のような戦場では力不足だが、真っ当な範囲では大変有用な戦力であると、作った彼らも太鼓判を押したものだ。
【マーシャルⅡ改】からちょっと値段は高くなったがそれに見合う性能はしている。
「その新型も……売れるか怪しくなってきたもので……」
だが、ホールハイムの顔は暗かった。
「……何でだ?」
「今回の戦争、クランとしては新型のアピールも兼ねていました」
「だな」
実戦証明という言葉がある。
カタログスペックがどれだけ優れていようと、実戦の環境でどれだけ機能するか、どれだけ信頼が置けるかというのは兵器にとって非常に重要だ。
これまでも対モンスターでの戦闘では何度か使われていたが、【マーシャルⅢ】は対魔法戦闘も念頭に置いたタンク。
今回の戦争……対人戦はその有用性を証明するいい機会だった…………が。
「まず、<フルメタルウルヴス>に納入した機体が前哨戦で全て破壊されました」
「「「あっ……」」」
【光王】と【魔王】が暴れた結果である。
流石に準<超級>トップクラスと<超級>のコンビは相手が悪すぎた。
『しゃあない。切り替えよう』。そんな空気がメンバーに拡がる。
だが、これは序の口である。
「次に、一日目の会戦に参加した機体も黒三鬼くんや虎櫻さんのカスタム機も含めて全て壊れました」
「「がふっ……!」」
パイロット組が血反吐を吐いた。
彼らも頑張ったのだ。めちゃくちゃ頑張ったのだ。
だが最終的には全滅しているし、何なら『最初から大佐がソロで暴れても結果同じじゃねえの?』とか言われているのだ。
パイロット達は泣いた。
かわいそうなパイロット……!! ひとえに大佐が強ェせいだが……。
「そして……皇都の防衛大隊に回していた機体がテロリストにボコボコにされました。しかも、【アウトレイル】に完敗です……」
「「「ごふっ……!」」」
メカニックが全員倒れた。
戦争中に起きた出来事で一番ひどい結果がそれである。
最新鋭機が何世代も前の欠陥機に、数で勝っていながら全敗したのだ。
相手は<マジンギア>のフリした高性能ゴーレムだが、そんなことは些細な話である。
カタログ性能が高いわりに、全く活躍していない。
悪い意味での実戦証明が積み重なった機体。
それが現状の【マーシャルⅢ】である。
「皇国軍からも『これなら【マーシャルⅡ改】のままでいいかな……』、と」
ただでさえ軍事費を復興予算に回し始めた皇国である。
しかもテロでは乗ったパイロットに死傷者多数。
『これはちょっと……』となっても無理はない。
別に【マーシャルⅢ】が悪い訳ではないが、兵器は結果が大事である。
「し、新型を……更なる新型を作るしか……」
「その予算がありません」
というか、【マーシャルⅢ】にしてもメンバー達が予算も資材も好き放題に創りまくった数十の試作機の中から一般的に使えそうなものをブラッシュアップした機体なのだ。
後の機体は製品化に至らず、採算は取れない。
そして唯一採算が取れそうだった【マーシャルⅢ】があの有り様。
今の状態でもう一度同じことをやろうとしたら、倒産待ったなしである。
「という訳でしばらくは既存機体と新規オプションの生産と販売で資金を稼ぎます。幸いにも王国と皇国の間でジョブクリスタル仕様が緩和化され、操縦士系統の増加も見込めます。まずは新規顧客への販売とオーダーメイドによる塗装や装飾をセールスポイントに……」
「それだけ!? それだけしかできないの!?」
「救いはないんですか……!?」
ホールハイムの挙げた堅実なプランに、趣味人達が絶望の声を上げる。
「戦前の予算がほとんど残ってないので、まず貯金しなければ何もできません」
「畜生! 何で予算が残ってないんだ!」
「これまで好き放題に作りまくっていたからですよ」
むしろロボット兵器を何十種類も開発していたのによくもっていた方である。
皇国という財布は大きかった。
食料はないけど素材と資金はあったのだ、この国。
財布の紐を締められた今となってはかつてのようにはいかない。
<LotJ>と同様に<叡智の三角>も転換点を迎えたと言える。
「そして新規開発するオプションについてですが、土木作業や農作業用のものを優先します。現状の皇国では最もニーズに合った装備ですので」
「「「あー……」」」
技術者の反応が「それもアリだな」と「えー……」で二分された。
この辺り、ロボット好きでも趣味の違いが出ている。
「用途が明確で戦闘用ほど数値を要求しない分、実現性は高いと見ます。BFさんのシミュレーションがあれば納期も短縮できるでしょう」
「……モンスターもいるし、開拓と併用可能な戦闘機能も……」
「戦闘用ドリルとか……」
「欲張ると予算も時間も嵩んで開発失敗のリスクが跳ね上がります。モンスター対策は<フルメタルウルヴス>など討伐担当の<マスター>に任せましょう」
このクラン、戦闘用の開発だとどいつもこいつも上を目指しすぎてコケるのだ。
なまじ【インペリアル・グローリー】を作れてしまったばかりに、求める高性能の基準がアレ以上になっていた。
なお、主要メンバーかつリバースエンジニアリング能力で技術面の中心だったカリュートがいないので、当時より難易度は上がっている。
この問題について何人かは『帰ってきてカリュート』などと思っていたが、本人が聞けば中指を立てるだろう。
「改めて。クランの方針としては既存機体の生産及び開拓用オプションの開発を中心とします。戦闘用の新型を開発したい人達はまず資金集めから始めてください。先ほど述べたように王国の<マスター>にも販路を広げられるので、独自オプションや武装の販売で資金は獲得しやすいはずです」
自力での開発費獲得。
それこそ、【マーシャルⅡ】完成前はクエストや討伐で得た報酬を試作機の爆発で溶かしていたのだ。ホールハイムを筆頭に、その時代を知っている古参メンバー達は現状をまだマシだと思っていた。
かくして、今後の活動方針を述べて会議がまとまろうとしていたとき……。
「あのー……」
<叡智の三角>に属するティアンの一人であるルフィアが、恐る恐るという様子で会議室に入ってきた。
彼女は会議に参加せず、今日は他所からの連絡を受ける担当だったはずだ。
「どうかしましたか?」
「その、先ほどこちらに出資の申し出が届きまして……」
「「「出資!?」」」
その単語にメンバー達がざわつき、目の色が変わる。
資金が、莫大な資金があれば問題は解決する。
『また好き放題新型機を開発できるかもしれないぜヒャッホー!』と期待で目が輝いている。
「…………」
ホールハイムもまた思案する。
皇国がスポンサーとしての資金提供を減らしたのに乗じ、有力商人や大貴族からそうした申し出が来る可能性は考えていた。
開拓用オプションの開発を勧めるのも、開拓ムードの皇国でそうした出資を募りやすくするためだ。
だが、その発表前にどこの誰が出資を申し出たのか?
「どこからですか?」
ホールハイムは謎の出資者について問う。
それに対して、ルフィアの回答は……。
「アルター王国のトップクラン、<月世の会>からです」
誰もが予想しないものだった。
「「「…………は?」」」
多くのメンバーの心に浮かんだのは『何で?』という疑問だった。
ホールハイムもまた、『妙な話になってきましたね……』と表情を歪める。
戦争が終わり、二つの国が新たな道へと進み始めたとき……両国のトップクランも大きな変容を遂げようとしていた。
To be continued




