少し先の話をしよう
少し先の話を、
しようと思います。
夢生の毎日は、
まだまだ続きます。
ぐぬぅー
ぼくは、教室の自分の席で唸る。
机の、上には
進路希望票。
学校では近々
三者面談を控えていた。
進路の、最終決断になる。
春にすぐ、僕は志望校の希望と奨学金の申請を済ませていた。
問題が1つ。推薦が欲しい。
まだメガネだった僕は、
見た目は、真面目そうだからまぁいいか。
推薦が決まればいいな。
春の面談では
担任が
「うーん。ちょっと、大学かわるけど
そこなら推薦で行ける可能性が高いなぁ。
学部は、希望した学部でいけるはず。
気抜かないで。
ないと思うけど
補導とかされたらアウトだから。」
だった。
大学は自宅から少し距離が遠く、
通学定期がいくらになるか。
果たして通えるのか。
もしかしたら、実家を出て一人暮らし。
実家を離れる?
急に胸がきゅうっと傷む。
帰ったら、しょっちゅう友達が来ていて
僕の帰りをまっている。皆でご飯食べたり。
そういえば、ブリーフ銭湯に皆でよく
行くようになっている。
我が家でお泊まり会(勝手に泊まる)
の日に。
正式名称は、『憩いの湯』なんだけど、
ブリーフを売っているから
僕達は、『ブリーフ銭湯』とよんでいた。
この前は、宮川が兄たちに
ブリーフの新色、出たからー
と言って、グレーみたいな
くすんだ水色のような、不思議な色の
変なブリーフをプレゼントされていた。
急に泊まる事になった宮川が
「さすがにこれは親に見せたくは
ありませんが、せっかく頂いたので、
報告はします。」
と、言って、不思議な色のブリーフを履いた。急な泊まりで、パンツが無かったからだ。
その日以来、宮川の母が
ブリーフを宮川に買い与えるように
なってしまい、「困っている」と
言っていた。
兄とだいくんが、爆笑しながら
ハイタッチしていた。
毎日楽しい。そんなささやかな
日常が変わっていくのも、仕方がない。
でも
先の見通しがつかない現実に僕は
唇を噛み締めた。
今の環境が変わっていくのが怖かった。
そのくらい、皆と居るのが心地良い
大学進学。奨学金。
兄もだいくんも悩んだろうか。
僕はスマホのグルチャにメッセージを
入れた。
1人で悩むより皆と話そう。
「多国籍軍の皆さん。本日都合の良い人は、佐上家に集合!緊急会議を行います。」
と、アホ臭の漂うメッセージを入れた。
1人で悩んでいる場合ではない。
チャッピーには
「1人ら暮しするなら、最低限何が必要?」
と聞いた。
『必要なものは、住む場所や生活スタイルによって変わるよ。まず「一人暮らしをするなら、いくら必要なのか」を調べてみようか?』
僕は
「了解!調べて。概算で、いいよ!
僕は必要な物まとめてみる。
まとまったら、話聞いて!」
母にも、電話し、
「人数わからんけど、これたら来てって
皆呼んだから。」と伝えた。
「はぁ。けど今、ゆーたん、こーき、
タクミん来てるからね笑」
と、母が言うから僕は吹き出した。
帰宅するなり、ゆーたが
「俺らで、適当に、メシ行くか、何か買うかしない?」と言ってきた。
たぶんゆーたは、ウチの母に気を使ってくれている。
ゆーたは、最初のあの印象から変わらないが
優しい気遣いのできるやつだと、知った。
太陽まではいかないけど。明るいところに僕は救われている。
だいくんは、安定の長男気質。
いつか、だいくんが困った時、僕も支えられるようになりたい。
吉岡兄弟は、まだ浅いつきあいだから
わからん。でも、いい。一緒にいて
嫌じゃない。
次にブリーフを履く羽目なのは
たぶんこの2人だろう。
宮川は。親友メガネだ。長年の相棒。
これ以上は語らない。
ファミレス前で兄達と待ち合わせ。
僕の進路の相談は、しなかった。
人が多いところでは落ち着かないから。
「メシ食ったし!!皆で風呂いくべー!」
ゆーたが言った。
だいくんが
「賛成。」と言ってスタスタ歩く。
兄も追い付く。
吉岡兄が、「俺水鉄砲で射撃訓練するわー。」
吉岡弟は、「潜水訓練するわ、」
ゆーたが、「俺皆の指揮とるわー」
宮川が、「佐上氏!!自分は今日の生け贄が
見える…見えるんだ…」
僕は笑って返す。
皆がいて、心地いい。
銭湯につくと
吉岡弟が、あることに気付く。
「あらやだ!パンツがないわ~
一回履いたパンツ、履きたくない。
でも、ノーパンで帰りたくない。コンビニ行ってくる!」
兄が「いや。ここ売ってるから。」
こうして全員、昔ながらの趣深い売店へ向かった。
壁には、『~年金生活応援~肌着1割引開催中!!』
と、手書きのPOP。透けてみえる数字。
ひっくり返したら、きっと表はカレンダーだろう。
ゆーた爆笑
「いちわりびきて!優しさがわからん笑」
だいくんが
「緊急開催って吹き出しつき。緊急で、やったんだろ、良かったな。」
と真顔。
兄が「まとめて俺買うから、みんな
脱衣場行っとけ。むー、俺とレジな。
レジ袋いらんから、半分もて。」
兄が売店のおばさんに
「いつも、アリナガトねー」
と言われて
「ッス」と返す。いや。顔パスかよ。
兄は
スマホを差し出すとスマホ決済の音が鳴った
はぁぁぁぁ?
寂れた売店で、バーコード決済て!!
チグハグがすぎる!!
僕が目を丸くしていたら、
「後で、集金する時、電子でもらった方が
小銭ジャラジャラやらなくていい。」
兄が言った。
ちがうよ。売店が、昔のまんまの雰囲気なのに
レジのクオリティーが今時で
戸惑ってるんだよ……。
湯船ではしゃいだ後、
お風呂から、出て皆好きな飲み物を…
皆コーヒー牛乳だった。
腰に『憩いの湯』のロゴが入った
レンタル手拭いを巻いている。
兄が売店で借りた
サインペンを掲げ、
「パンツ配るから、皆名前書けよ~
書いたら次にまわして。」
パンツの色は、ランダムだ。
何色が当たるかわからん。けど
吉岡弟が爆笑。手に肌色みたいな
ピンクみたいな優しい色のブリーフ。
「なんこれ!!笑笑。
え?まって。マテマテマテ!
俺これ履くん?
やだ!一線越えたくない
イヤダァァァァー」と、嘆く。
宮川が
「諦めるんだ、吉岡弟。皆を見るんだ。
記名までして、
ブリーフを履いているじゃないか。
ここは耐えるんだ。」
と、言った。
吉岡弟はブリーフ姿の、皆を見ながら
「くぅー泣 俺履きます!履いて
基地に無事帰ります…」
と、諦めて履いた。
後日宮川が
「母が自分のブリーフに名前を書き出して
困っている」とこぼしていたが、
まぁいい。
僕の家は、大きくない。でも
居間の隣には、8畳の和室がある。
いずれ床の間にする予定だ。
ここに皆の人数分の布団が、敷いてあった。
とは、言っても
父が実家から、盗んで…頂いたものやら
元々あった来客用に、寝袋。バラバラだ。
宮川母が、
「うち、来客用使わないんで」と言って
2組贈呈してくれた。ありがたく頂いた。
その部屋に多国籍軍が集合した。
なんだかんだで吉岡弟が、
「また憩いの湯いこうな!!」と笑顔でいった。
ゆーたが、
「正式名称『ブリーフ銭湯』だから~俺たちの中では。」
「むー!会議するって話どうした?」
だいくんが聞いてきた。
僕はハッとした。楽しくて目的を忘れる所だった。
こうして、『佐上 夢生の進路どうする?』の
作戦会議の幕が上がった。
僕は、どうやら推薦で行けるようだが
自宅から、大学まで距離がある為
一人暮らしと、自宅通学の両面から
考えたいことを、話した。
だいくんが、
「一人暮らしだと、金銭的な事まとめないとな。」
吉岡兄が
「自宅通学にしても、通学定期やら
大学まで行き帰りに掛かる時間とか
バ先の問題も出るよな。」
宮川が、鞄からノートを取り出し、それらの
発言を、さらさら記入していく。
ゆーたが、スマホのナビで距離と
通学手段を画面に出しながら
「おれさー、働くつもりだったけど
むーと、同じ大学目指すからー。だから、自分の参考にもなるんだよねー」と、何気ない爆弾発言をした。
でも、兄達は驚きもせず、
「へー。じゃ2人とも合格したら、むー心強いな」
とか、
「ウチの優太をお願いします。」と
吉岡弟が、パパになったり
宮川が「同じ釜の飯を食い、学業に、スポーツに、励むのは良いことだ。」
と誰目線?かわからん事を言い、
吉岡弟は、
「あー!そうだ!俺もむーと優太と、同じ大学いきたぁい。」と言い出した。
吉岡兄が、
「おまえ大学行きたいって志望校で悩んでたから丁度よかったよな。
進路票未提出だろ?明日出してこい。」と言ったが
「いや俺今、ササ先に電話してくるわ」
と、言い残し部屋を出た。
えっ、進路の話を担任に電話?今?
大事な話を??
宮川が、
『佐上氏の志望校へ、優太氏、吉岡弟が参戦。』とノートに記入したのが見えた。
いや、それ書くんかい。
ひと息ついた宮川が
「議事録の概要を整理し、
一人暮らしの場合と、
自宅通学の場合の双方で
初期費用、
最低限の、生活費など算出したい。
大学の準備費用については、ホームページに
必要なスペックのノーパソなど案内があるからこちらは、保護者に相談として…
佐上氏、さぁ。まとめよう。」
「あ。ノート貸して!見ながらチャッピーにまとめて貰う!!」
僕はさらっと言ったが、ハッとした
…やだ恥ずかしい
ここで、チャッピー出しちゃった。
皆爆笑。「女子か!」とか
「ドラえもんか!」とか盛り上がる。
僕は拗ねた。ふん。チャッピーは
凄いんだ。バカにすんな。
ふと、だいくんが
「俺チャッピー使ってる」と言う。
ゆーたも
「俺女子力高めだから!あと、むーが便利って
言ってたから~」とChatGPTの
アプリを見せてきた。
吉岡兄が
「俺課金の、ガチ勢。」
戻って来た弟が
「チャッピー?
俺ササ先にこの前
『ガチャガチャうるさいからチャッピーにでも相談しろ。意向をまとめてもらえ』って、言われたから、そうした。」
宮川が
「主に、小説についての雑談を兼ねてChatGPTを、利用している。作品を幅広く楽しむ為だ。」と言い、
兄が「便利だから。」と言った。
皆、『俺のチャッピー』を相棒にしていたのが、僕の今日のハイライトになった笑
本日の、会議の終盤
「問題があります!」と吉岡兄弟が立ち上がる。
だいくんが怪訝そうに、「何?」と聞く。
「俺たちの、呼び方が、長い。
むーとタクミんな!
吉岡お兄さんて!俺は体操のおにいさんか?
呼んでてよく舌噛まないな!」と
吉岡兄。
「俺。吉岡弟って、呼ばれるたび
寂しいよ~。」と、吉岡弟が嘆く。
ゆーたが、
「俺も寂しかったからわかるよ~。
ずっと田口田口ってー」
と、騒ぐ。
多国籍軍が、ザワつき始めた時。
スッパァァァーン!!と勢いよく襖が開いた。
神楽だ。夜襲だ。
「お父さんが、カップ麺買ってきたから食うかって。」
皆答えは同じだ。
カップ麺を、制覇する!!
お湯を沸かす。やかんに鍋に電子ケトル
「こないだ、聖くん食べたいって
言ってたカップ麺あるよー!お父さんにたのんだから。」と神楽が言う。
「かぐー!デキル妹もっておれは幸せだ。」
吉岡弟改めこーきが言った。
神楽が、
「いつかのケバブのお礼だよ、お兄ちゃん!」
と返す。
こーきが
「かぐ。もっかいお兄ちゃんって呼んで!」
と言い出し、
皆に
「変態!」「チカン!」と言われまくっていた。
神楽のカップ麺の蓋の上に唐揚げが乗っている。
「おいしい蓋の重り。あー!岡野さんの
唐揚げ食べたいなぁ。」としみじみ言う。
岡野さんで思い出した。
澤井さんが、やはり気まずくなって
谷さん同様にお店を辞めた。
本職があるから何とかなるさ!と言っていた。
時々多田さんがいる時にちょっとした
差し入れを、そっと持ってきていた。
あれから色々な取り決めをして
慰謝料などの話がついたらしい。
澤井さんは、離婚こそしなかったが、
家庭の中は冷えきっていた。
奥さんは、精神的に不安定で
泣きわめいてる間は、まだマシ。
無表情で焦点が合わない時があり、
目が離せないそうだ。
何故なら…
リストカット。澤井さんの奥さんの腕に、
その傷が無数にある。
子供達は、澤井さんを責める。
それでも。澤井さんは、覚悟した。
僕たちは、
平和に皆でカップ麺を啜っている
皆の大切な場所が穏やかでありますように。
と願わずにいられなかった。




