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相対性『僕とAI的』理論  作者: コラソン


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嵐。


仮退院の日。

凪は朝から仕事へ行き、父も出張から

帰るため、我が家に向かっていた。


静かな時間。

嵐は比較的体調が落ち着いていた。


優太にも会いたいなぁ。

嵐は『優太!俺、病院から外泊許可もらった

放課後、来れたら来いよー!!』


メッセージを送る。

直ぐ返信がきた。

『行く!!早退する!!』


多田さん。嵐さんと病院の外で会えるのが

嬉しかったんだろうな。


多田さんからのメッセージに、クスクス笑いながら、嵐は母に

「後で優太くるからよろしくー!

それからギターこっちに持ってきてほしい

後、ペンとカッターある?それも。」

とお願いした。


母は、「注文多いんだから。」

と笑って持ってきてくれた。


母親が思う事は沢山あった。

優太から、友達を奪っていく病気。

嵐から将来を取り上げてしまう病気。


何より、大切な息子を失う恐怖。


せっかく嵐が帰ってきたんだ。

せめて穏やかに過ごそう。母は涙を堪えた。



嵐は

凪が持ってきたコード譜を見つめ、

その下の余白にメッセージを書いた。


そっとギターケースの中の

裏地をカッターで慎重にほどいた。


ふふ。力上手く入らないや。


コード譜に書いたメッセージ。凪が見つけなくても、いい。だけど

いつか見つける日がきたら、その時

凪が幸せでいますように。


ギターケースの蓋を閉めると

インターフォンが鳴った。


「優太くん!!おはよう!学校さぼったわねー!!

でも、ありがとう!」

母の元気な声が響く。


「嵐お帰りー!!」優太がニコニコしている。


「その前にオハヨー言えや」

嵐こそ、笑顔全開だ。


「オハヨー、あっ、お邪魔します!!」


そういいながら、母が飲み物を用意している

キッチンへいき、

「朝からお邪魔してごめんなさい。

俺、嵐に会いたくて慌てました。」

多田さんは小声で謝る。


「ふふ。嵐見たらわかるけど、優太に会えて

嬉しいの。こっちこそ、ありがとう。」


残された時間。優しい時間が

少しでもありますように。

母の願いだ。


夕方

凪も、父も帰宅した。


父は「優太もメシくってけ!」と引き留めたが


「いや、俺バイト行きます!!」

と断った。


この時、多田さんは家族で過ごす時間を

邪魔してはいけない。そう思っていた。


家族の時間。

本当なら、嵐みたいな元気玉は、おとなしく

自宅になんていない。


今はそれも出来なくなった。


だけど、凪もいる。

食事中、いつものように過ごす。


父が、「嵐。おまえは他所に泊まってばっかりだなぁ。よし、今日は男3人で風呂に入るぞ」

なんて言い出した。


「真面目に入院してるだけだろーが!!

3人で風呂って。狭いだろ」

嵐は笑った。


「俺、この年にしてパッパと弟と風呂かよ~」

凪さんも笑う。


風呂は狭かった。

元来イタズラっ子の嵐が、バシャバシャ

凪さんにお湯をかける。


凪さんも、負けじとバシャバシャ返す。


小さい頃「ヤメロォー!お前らうるせーぞ!!」

なんて父がいつも怒った。

やめなかったけど。


今日は怒らない。

嵐は少しだけ寂しかった。


髪を洗っていた父が

シャンプーが目に入ったと涙を流した。


「よし、親父!シャンプー流そうぜ!」

凪と嵐は、父にバッシャバッシャ

お湯をかけまくる。


泣きたい時は、泣いた方がいい。

もう、親孝行も出来ない。

力が入らない手で、嵐はお湯を掛けた。



風呂上り。小さい頃の様に、父が雑にドライヤーをかけてくれた。


父はどうやら、まだシャンプーが目にはいったままだった。


親父。泣かせてごめんな。


嵐は体調のいい時に、眠るのが怖くなっていた

どんどん無くなっていく体力。

もしも

このまま目が覚めなかったら。


体力と意識があるうちに出来ることは何か

嫌でも考えてしまう。


眠りも浅くなる。


嵐は、夜中に目が覚めた。体は重たかった。

それでも何とか起き上がる。

凪が隣で寝ていた。


ごめんと思いながら、嵐は凪を

起こした。


「凪。ちょっといい?」


「うん…?」


「俺のテレキャスさ、凪にうけとってほしい。」


凪は、ハッとした。


「急に何? 嫌だよ。

おまえの大事なギターなんだから

大事に持っておきなよ。」


「このギターさ、まだ鳴るんだ。」


「うん。いい音が出てる。」


「凪、正直に言って。俺のギター、鳴らすの

しんどい?」


「しんどいよ。嵐。そんな事いわないでくれ。」


「ずっとしんどいかな?」


「当たり前だろー!嵐、怒るよ。ギタリストが

悲しいこと言うな」

凪が怒る。


「だったらさ。そうだ。いつかこのテレキャスを貰って喜んでくれる人がいたら、渡して。


気味悪いだろうけどさ。素直にギター弾いてくれる人が見つかるまで、それまで凪がもっていて。最後のお願い。」


「曲、できたら、ステージ行くんだからさ。

その話は後にしない?」


嵐の宝物。いい音は鳴る。

だけど誰にも譲りたくない。


「凪とステージ行きたい。優太もまってるね」


「そうだよ。」


「でも、さっきの話。忘れないでね」


「忘れないから。大丈夫。」


凪と嵐。

2人で静かに涙を流した。


嵐は

この日、実家で過ごす最後の夜になった。




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