嵐が決めた事。
「おまえー、多田くんが泣いてたよ
友達泣かすなよ。」
と言った凪も、泣いていた。
母から、嵐の状態を聞いたんだろう。
嵐が医者から告げられたのは、病名だけではなかった。
余命宣告という現実が突き付けられていた。
「凪。俺、いつ倒れるかわからないんだけど
余命なんて、宛にしないよ。だからお願いが
あるんだ。」
「そーだよね。余命なんて宛にするな!
でも、医者の言うことは聞いてな。
で?
お願いって何よー。高いもんは無理だからね~」なんて、あえて明るく凪は返す。
何もできない 凪の辛さがあった。
「おれ、宛にならない余命でもわかるんだ。
たぶん、近いうちに自分がやりたいこと
できなくなる。」
嵐の言葉に、凪は一瞬血の気が引く。
「今のうちに、俺の書きかけの曲、完成させたい。凪は詞を書き上げて。
曲ができたら、1回だけ。あと
1回だけ。ステージに俺と立って。一緒に
演奏したい。」
凪は、「約束な。」それしか言葉が出なかった。
嵐は、その日から入退院を繰り返した。
凪は、嵐も暮らす実家へ戻った。
嵐の作曲ができる頃。
「作詞の最後のフレーズにつまっちゃって
完成まで、もう少し待ってなー」
凪は、嵐にそう言ったが。
凪には痛いほどわかっていた。
曲が完成したら、嵐は意地でもステージへ
上がるだろう。
だけど。もう嵐は自分で歩けないほど
衰弱していた。
きっとコードを押さえる前に、倒れてしまう。
だけど、ステージに立つ。これだけは
叶えてやりたかった。
凪の葛藤だった。
そして
それは、嵐もわかっていた。
鳴らせないギターを抱えるだけでは、
フロアのお客さんに 申し訳ない。
そんな中、
嵐に会えなくても、会えても
多田さんは毎日嵐の元へ通っていた。
多田さんは、嵐にかける言葉はみつからなかったけど、嵐が戻ってくるの待ってる。それだけだった。
学校の廊下。
教室のロッカー前。
渡り廊下。
グラウンドの脇の倉庫の前。
階段の踊り場。
昇降口にあった、傘立て。
通学路の、狭い道路。
いつも一緒に過ごした時間が
散りばめられていた。
多田さんは、苦しかった。
そんな多田さんがお見舞いに来て、
帰って行く後ろ姿を見つめる凪さんは
胸が張り裂けそうだった。
あの明るい多田さんが
しょんぼり歩いていたから。
刷りきれたシューズの踵は、お見舞いに来る
多田さんの歩く距離を刻んでいた。




