凪と嵐。多田さん。うるさい担当も。
「今日は、店は開けないから。」
凪さんはそんな事を言った。
凪さんが経営するバー
Petit Diable
店のボックス席に
凪さんと僕が並んで座り、向かいに
小野寺さんと多田さんが座っていた
バンドのメンバーの皆さんは、呼ばなくて
いいんですか?凪さんも僕なんかと話してて
大丈夫ですか?
と僕は聞いたけど
「後日、打ち上げやるから大丈夫だよ~
それより、多田くん、泣きすぎ。」
凪さんも、目が赤いよな………。
向かいに座る多田さんが、目を真っ赤にして
泣いていた。
小野寺さんが、
「多田くん、久々だけど情に厚いところは
変わらねぇな!!」
なんて言ってたけど、この人も目が赤かった。
あの…小野寺さん、さっきステージ直前で
嵐を連れてきてくれてありがとうって…
言ってましたよね??
と聞いたのに、
凪さんが、僕の頭をワシャワシャしながら
「夢生、ギター、楽しいか?」
へっ?楽しい? 楽しいんですけど……
嬉しい。凪さんから受け継いだこの
ギター、もっと上手く弾きたいんです。
凪さんは、目を細める。
「うん。夢生、本当にありがとう。
今日の曲とギターの話をしようか~。
僕も小野寺さんも若くて。多田くんなんて、
今よりもっと可愛かった頃の話を。」
BLUE RIOT
というバンド名で、ボーカルをしていた
凪さん。
若いバンドマンの悩みは、お金。
とにかく、お金。必要経費に、機材。
夢を追うには、苦労する。
アマチュアバンドは、とにかくそこが
辛い。
ある日、ギタリストが脱退した。
彼女との同棲生活と、
バンド活動を続ける事の両立が
負担になったのだ。
凪さんは、困った。自分がギタボでもいけるか。
いや、メインギターは必要だ。
この頃、多田さんは、たまたま同級生で友人の海原 嵐に
「兄ちゃんのライブ行こうよ!!」と誘われた。
ライブハウスREBELLE。
BLUE RIOTの演奏は、かっこ良かった。
ボーカルの凪さんは、見た目が嵐と真逆で
綺麗だった。
歌声は、声域が広く、プロでも通用するんじゃないかなと多田さんは思っていた。
一方、
嵐は、ザ·やんちゃを絵に描いたような
元気丸出しで、多田さんはいつも一緒に
過ごしていた。
多田さんと、嵐の元気いっぱいな
ガチャガチャコンビは、ライブハウスで
可愛がられていた。
多田さんが、笑いながら
「時々小野寺さんに、お前ら
うるっせーぞ!!って怒られた。」
とは、言っていた。
当時、
BLUE RIOTのドラム担当が、
小野寺さんだったのには驚いたけど
小野寺さん本人いわく
「BLUE RIOTのうるさい担当なんだよ俺は」
と謎理論を展開していたけど
わかる気がします、なんて僕がポソっと
言うと、
コンニャロー!!むー!! 生意気だぞ!!
と言いながら、小野寺さんが笑顔でおしぼりを
僕の顔面に放り投げてきた。
見事、おしぼりをキャッチした
僕は。
海原 嵐。
多田さんの友人。
凪さんの弟。
隣の凪さんを見たら、目が合った。
「夢生。昔話でごめんね~」
なんて言っていたけど
僕、ちゃんと聞きますよ
そのつもりで、来てます。
だから。お願いだから。
凪さん、話をするのが辛くなったら
僕は全部を
聞かなくたっていい。
そう思った。




