ハグと、コード譜
閉店後の
LIVE HOUSE『EMBER』
ステージ横。
凪さんと僕の2人。
凪さん、いきますよ。
僕は、ギターを構えた。
人差し指を寝かせる。
ほかの指も、ちゃんと押さえる。
何度も練習した。
何度も失敗した。
ぐぬぅ。
……今度こそ。
僕は、息を止めて弦を弾いた。
ジャーン。
……え?
もう一度、弾いた。
ジャーン。
鳴った。
全部の音が、ちゃんと鳴ってる。
Fコードだ!!
僕のFコードが、鳴った。
「……凪さん」
「ん?」凪さんがニコニコしている。
鳴りました!! うわぁー!!
凪さんは、僕のギターを見た。
それから、僕の顔を見て笑った。
「うん。鳴ったねぇ」
……それだけ?
もっとこう、すごいじゃん!とか、
よく頑張ったな!とか。
いや、凪さんらしいけど。
僕はもう一度、Fコードを鳴らした。
ジャーン。
今度は、ちゃんと聴いた。
僕が出した音だ。
僕が、鳴らしたんだ。出せる。
もう大丈夫。
やったぁ……!
声が出た。
凪さんが、僕の頭をワッシャワッシャにして
「おめでと、夢生」
ギターを抱えたままの僕をハグした。
……ああ。
この音を、ずっと聴いていたかった。
ハグしたままの凪さんは、
「さぁー、コード譜練習はじめようね~」
ああ、そうだ。
譜面だ。これをやらないとな。
僕はまだ、ギタリストを目指している
途中だ。
頑張ります。うーん。
弾きたいです。凪さんのオリジナル。
どんな歌か、知りたい。
僕がそういうと、
「その気持ち、ずっと持ってて。
夢生の音楽、聴きたいなぁ~」
凪さんは、今日も楽しそうだ。
余談だけど、ハグの時、凪さんから
タバコの匂いに混じって、コーヒーの
香りがした。
僕にギターを教えている間、
凪さんは、お酒を飲んでいない。
特別じゃないかもしれない。
でも。僕には特別な香りだ。




