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相対性『僕とAI的』理論  作者: コラソン


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ギターコードと、凪さん



「夢生、まずはCからやってみようか」

凪さんは、僕の隣に腰を下ろした。


凪さんの経営するバー

『Petit Diable』の狭い事務室か、

ライブハウス『REBELLE』で

僕は、凪さんと時間が合うときに

ギターを教えてもらう。


僕は、

「C……ですか?」


「そう。ギターの基本みたいなコードだよ。左手の指を、ここに置いてみて」


凪さんが自分のギターで、指の位置を見せてくれた。


僕も真似して、指を置く。

「……こうですか?」


「うん。あ、ちょっと待って。人差し指じゃなくて、中指がこっち」

凪さんの指が、僕の手元を指し示す。


言われた通りに動かしてみる。


「よし。じゃあ、弦を鳴らしてみよう」

ジャラン。


……なんだか変な音がした。


「あれ?」


「ははっ。最初はそんなもんだからね~

焦らないでよ。」


凪さんは笑ったけれど、馬鹿にするような感じじゃなかった。

いつも優しい凪さんだけど…何だろう、

特別優しい?


「指がちゃんと弦を押さえられてないんだ。もう少し指を立ててみて。ほら、隣の弦に触らないように」


僕は指先に力を込めた。

もう一度。


ジャラン。


さっきよりはマシな音がした。


「おっ、今のは惜しい!」

凪さんが、まるで自分のことみたいに喜んだ。


「惜しいって……まだ変な音ですよ」


「でも、さっきよりいいんじゃないのかな?」


そう言われて、僕は自分の指を見た。

確かに、ほんの少しだけ違う。


「ギターってさ、頭で覚えるだけじゃ駄目なんだよ。指が覚えるまで、何度もやるしかない」


凪さんはそう言って、もう一度Cのコードを鳴らした。


澄んだ音が、部屋に響いた。


同じコードなのに、僕の音とは全然違う。


「……凪さん、簡単そうに弾きますね」


「簡単じゃないよ。昔は俺も、何度も失敗したから」


凪さんはギターを見つめて、少しだけ懐かしそうに笑った。

僕はその、懐かしそうに愛おしそうに

ギターを見ている凪さんが気になった。


「夢生も焦らなくていいよ。最初から上手く弾ける奴なんて、そうそういないんだから」


僕はうなずいて、もう一度指を置いた。

今度こそ!


ジャラン。


……まだ、少し音が濁っている。


「よし、もう一回!」

凪さんの声に、僕は思わず笑ってしまった。


上手く出来ないけど、楽しい。


もう一回。


もう一回。


いつか、このギターで自分の好きな曲を弾けるようになりたい。

そう思いながら、僕は指を置き直した。


「じゃあ、次はFに挑戦してみようか」

凪さんが言った。


「F……?」

僕は、教えてもらったとおりに指を置いた。


……置いたつもりだった。


ジャッ。


変な音がした。ギタリストは軽々弾いてるのに

どうしてなんだよ~。ぜんっぜんうまくいかない。

「凪さん。ぼく全然鳴らないです。」


「うん。鳴ってないね~。」


凪さん、そんなあっさり言わなくても。


「これ、全部の弦を押さえるんですよね?」


「そう。人差し指で複数の弦を押さえるんだ。ほら、こう」


凪さんが自分のギターで見せてくれた。


簡単そうにやるけど、僕の指はそんなふうに動かない。


「……無理!

僕は弾きたいのに!鳴らないんですよ?

諦めたくないけど…悶えます」


「ははっ最初はそう思うよね~。

僕も悶えたよ。大切なギター、

床に叩きつけそうになったんだよね~

若かったなぁ。僕も。」

凪さんは笑った。


「ひゃー。あ!でも!僕は叩きつけません!!

僕が、床に転がります!」


「転がるのかい!って笑わせないで夢生~。」


「気を取り直して、お願いします。凪さん。」


「ようし、じゃあ、指の位置を少しずつ調整してみて。力任せに押さえるんじゃなくて、ちゃんと音が鳴る場所を探す。」


僕は言われたとおり、指をずらした。


ジャッ。


……やっぱり変な音。

おかしいな。ライブで見るギタリストは

軽々弾いてるのに。

情けない話、弾きたいけど上手くいかない。


でも、凪さんと過ごすこの時間は楽しい。


「もう一回」


凪さんが言った。


僕はため息をついて、もう一度指を置き直した。

「ギターって、根気がいるんですね」


「そうだね。でも、今の夢生なら、昨日より今日のほうが少し上手くなってるはず。」


「……本当ですか?」


「自分で比べてみなよ」


僕はもう一度、弦を鳴らした。


まだ、きれいな音じゃない。


だけど。

ほんの少しだけ、さっきと違う気がした。

「……もう一回、やってみます」


凪さんは何も言わず、隣で自分のギターを構え直した。

ギター弾いてる凪さんは、カッコいい


僕も早く凪さんみたいになりたいなぁ。


練習が終わると、ギターをケースに

しまう。


ふと、違和感をおぼえた。


ケースの中の端に、何かを見つけた。


とっさに、アパートに戻ったら確認しよう。

そう思いながら、ケースを閉じ、


「凪さん、ありがとうございました

また、宜しくお願いします。」

僕はぺこっと頭を下げた。


「夢生。上手くなりたいって伝わってるから

大丈夫。ふふ。お疲れさまー。また明日。」


夢生の背中を見送る凪は、

「また明日か。いいね~。」と独り言を漏らした

その表情は、どこか寂しそうだった。





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