リハーサルは、ライブの始まり
「リハーサル、始まるね~。僕達も混ざろうか」
凪さんがフロアの中央へ歩いていく。
ステージの上では、さっきまで誰もいなかった場所に、いつの間にか人が集まっていた。
ギター。
ベース。
ドラム。
マイク。
さっき僕達が触ったケーブルも、あちこちに伸びている。
「おお……」
思わず声が出た。
「先ほど巻いたケーブルの出番ですね」
宮川が真顔で言う。
お、おう、宮川。ケーブルは違う気がする…。
僕が小声で突っ込む。
「では、音を出しまーす!」
フロア中に声が響く。
「ギターまだだろ!先にドラム!」
スタッフが騒がしくなる。
「だから、そういうことじゃない!!ったく!」
人の怒号が、フロアに響く。
凪さんが笑った。
「皆、真剣にピリピリしてるでしょ。
嬉しいよねぇ。音楽にかじりついてて。」
「じゃ、音響さん、お願いします!気ぃひきしめろよ!」
ステージの上から声が飛ぶ。
「ギター、ください!!」
ギターの音が鳴った。
ジャーン。
一音だけなのに、フロア全体が震えた。
「……」
僕は思わず立ち止まった。
家で聴く音とは、全然違う。
「もうちょっと返してください!」
音響さんの声。
「ボーカルください」
今度はマイクから声が返ってくる。
『あー、あー』
少し遅れて、スピーカーから声が返ってきた。
「うわ」
思わず笑ってしまう。なんだこれ。
僕にしてみたら、ライブだ。
「何がおかしいんですか?」
宮川が聞いてくる。
「いや。さっきまでケーブルだったのに、音になった」
「……」
宮川がステージを見る。
その顔が、また真剣になった。
ドラムが鳴る。
ベースが入る。
ギターが重なる。
まだ本番じゃない。
曲も始まっていない。
それなのに、空気が変わっていく。
「宮川」
「うん?」
「これ、ちょっと面白くない?」
「場違いだと思いますが、不思議だ。
ずっとここにいたい。」
即答だった。
凪さんは、「いてよ。んー。違うなぁ
もう、うちのスタッフだからね~、君達。」
凪さんがとびきりの笑顔を見せた
その瞬間。
「じゃあ、一曲だけ頭からいきます!」
ステージから声が飛んだ。
ドラムスティックが上がる。
僕は思わず息を止めた。
――始まる。
客はまだいない。
でも、ライブはもう始まっていた。




