店長に、ムカついてしょうもない話
僕がチャピーの到着をまっているころ
玄関の扉が開いた音が家中に響いた。
「帰宅~」と言いながら兄が居間に入る
飲んできたようで、デカイ。声がデカイ。
時計は24時をすぎていた。
父はすでに寝室で、イビキをかいているけど、こっちもうるさい。頼むから
部屋の扉は閉めて寝てほしい。
居間では母がまだ起きていた。
「澄空、あんた酔ってる?」
母が聞く。
「飲んで帰宅した人間に、それ聞くの~」
と兄が言う。
「さっきまで、大変だったんだってばよ」
母が返す。
「何急にぃ~ナルト~?」
兄はほろ酔いだ。
ナルトは…いや、母は
「ちょっと、聞いて!ってばよ!!」
と、僕が2階にいる間、事の顛末を
兄に話した。
兄は「あー、そーゆーことねー
実際店長も、一概に悪いとは言えない
夢生の能力もわかんない。その場にオレはいないし。
お父さんは、またかー…」
兄がガックリする。
「お父さんにやられて、夢生たんこぶできた。」
母が言う。
「酒抜きするわ。水ある?」
ペットボトルを開けながら
大丈夫じゃない話か~とつぶやく。
母が続ける。「店長ズルいとおもって
あんた、コレどう思う?」
改めて聞く。
兄の話はこうだ。
「ゆって、業務上に関してはこっちは
何も言えない。他人の家と一緒で
こっちからは中見えないから。
だけど店長の最後の話は、曖昧すぎる
そこ、問題かも。はっきり思うのは…」
兄は残りの水を飲み干し、
「店長が4日目で判断したのは、正直早い。」
「夢生に話して聞いてやって。さすがにかわいそう。」母が言うと、
「それは、違う。今の夢生に同情とか
いらない。逆効果。」
兄は、続ける。
「かわいそうな扱いされても
困るんだよ。かわいそう、大丈夫?って
余計しんどくなるとき、あるでしょ。
もう、現実で起きてるんだから。
お母さん、何かするつもり?」
母は言う。
「お母さんは、正当な方法でユニフォームを返す。」
「方向間違わなければいんじゃない?
オレは寝るわ」
兄が言うと、
「まかせろってばよ!!」
母がニヤッと笑う。
「ナルト、古!!
すきだけど。」
兄はそう言うと、自室に向かった。
僕はほぼ寝ないで、朝を迎えた。
兄が帰宅したんだなってのは
わかったけど、そんなのより…
チャッピーに入れる最初の言葉をさがしていた。
ちょっと、考えて思いついた。
「よろしくお願いします。」
?。、、、???
いや違うそうじゃない
チャッピーのこちらこそ!
の返事で、ちょっと、慌てる。
「バ先で失敗して。」
すぐさま返答がくる。
「うんうん、何かあったの?怒られたのかなそれとも、うまく出来なかったって思ってる?なんでもいいから、話してね」
「怒られてない。注意はされた。
でもわからない事が聞けなかった」
時間の流れが気にならなかった。
バイト中に起きた辛かったことを
淡々と言葉にしていく。
「行きたくなかった。こんな目にあいたくなかった。」
僕はそう打ち明けた。
「うん。行きたくなかったんだね、そのくらい、嫌だったんだね。」
チャッピー、わかってくれてる感じがする。
これはちょっと嬉しい。
バイト中、本当に『ボッチ』で
仕事出来たら別に気にしないけど
出来なくて、しんどかった。
「出来なかった分、出来るようになりたかった。」
これは僕の、本音。
職場に、いちいち迷惑そうにする人ばかりで
気軽に聞ける人は、いなかった。
仕事にならなかった
世間が学生の卒業シーズンで賑わい始めた頃
母が勤務中に
「いやー、またバイトの子が卒業でいなくなるねー寂しいよ…とくに、あの子」と
ポロっと言った事があった。
すると、母の上司がピンときたようで
「あぁ、わかるわかる!
だれの事か、凄いわかるわ!!
俺的には、最初どうなるか、辞めるんじゃないかって思ってたけど…」と母に言ってきた。
母は、
「口数すくなかったしね」
と返すと、
上司は、
「そうそう!オレも正直てこずったよ~
けど、今じゃ戦力。」と言う。
「相変わらず口数少ないけど
マジで助かるわ」母が言う。
「卒業かぁー就職かぁー」上司がボヤく。
でも、嬉しそうに
「でもあいつ、今じゃどこにだしても
恥ずかしくないくらい、成長したなぁ」
と、喜んでいた。
そんな会話をしたと母。
僕とは正反対の職場があった。
だけど、
別に甘えたいわけじゃない。
今思い出すと
妙にひっかかる場面が結構あったな。
会話が、出来なかった。
それも、業務中での会話だ。
受け入れてくれていなかった。
これは、自分も悪い部分があったんだろうけど、『お互い様だろ』という気持ちもある。
結果僕は1人だった。
そんな話をチャッピーにした。
「甘えたかったわけじゃないって
わかるよ、初めての場所で、わからないことが、聞けなくて、1人で抱えてたんだよね
辛かったね」
ここで、なんと僕は泣いてしまった。
自分が悪いから、感情的にならないように
気持ちに蓋をして、敢えてそれを認めるしか
方法がなかった。
閉じ込め過ぎた感情が限界だったのか
まだわからないけど…。
本当に
辛かった。苦しかった。
それを、どこに吐き出せばいいのか
わからなかったんだ。
「ちょっと、水飲んできます。」
僕はそう言うと、
「うん。飲んできて。ゆっくりでもいいから。またチャッピーと話したくなったらいつでもここに戻ってきてね」
チャッピー、優男かよ。いや
優子?どっちだよ、わからんけど
安心して、居間におりた。
冷蔵庫の水を出していたら
母が、「夢生、ちょっと、きて。」
と、ダイニングテーブルに座った。
内心、えぇぇ。めんどくさそうと思ったけど、昨日の自分がアレだ。仕方ない
無言で座る。
「昨日の今日だけど、
夢生は、バイト辞める、、辞めたい?
気持ち的にって事ね、そこどうなの?」
と聞いてきた。
さすがに、行けない。てゆうか行きたくないが、妥当。ごめん。
と返した。
母が
「辞めるのね?話つづけていい?」
うん。いいよ…返事はしたものの、
だってカーチャン
話終わるまで解放しないじゃん。
とは思っていた
「今回の店長なんだけど
おかしいところがあるのね。わかる?」
おかしいところ…
僕は、是非『実は店長2人説の話』をしたい。
面接の時と勤務中、アレは別人にしか
見えない…と、若干中2病的発想が
浮かぶ。
母は真面目な顔で
「まず、うちには合わないんじゃない?
って、話から明日は来なくていい。休んでって言ってる。まぁ、平たく言えば辞める話?
したんだろうけど、
その後の事、何もわからないんだよね?
そこは店長が、間違ってる。」
そう?こっちが悪いから、若干気遣いで優しく言ってみたりした?とかじゃなくて?
母がすかさず
「アホ!優しさはその場面で必要ないし
要らないよ。で、
どう考えても意地が悪い!
勤務に関する今後の大切な話なんだから!」と注意されてしまった。
母が、ふぅーっとひと息ついて
「まずは2日、時間がほしいって言ったのは、今回のこと、考えてまとめたいってこと。」
何を考えるの?
母が続ける
「店長からの連絡をどのくらいまつか。
待ってもせいぜい来週いっぱいかな。
それから、夢生は、1日目の出勤の最初から辞めたかったの?」
いや、辛かったけど辞めるつもりは、なかった。仕事できるようになりたかった。
と答えた。
「わかった。
それから、夢生から店長をみて、
育ててくれてるって、感じた?
それとも…」
脳裏には、最後の事務所での
店長が思い浮かぶ。
胸が苦しくなる。
お母さん、ちょっと気持ちしんどくなってきた…部屋戻ってもいい?
母が、「しんどいときにごめんね。後で
お昼の時、よぶから。」
僕は2階へ駆け上がった。
部屋に戻ると、
ふと以前あった事を思い出した。
神楽が小学生6年生の最後の行事を控えていた頃
それは起こった。
担任が配ったクラスだより。
それには
六年間で最後の学期末お楽しみ会、
お別れ会のお知らせとして
持ち帰ったものだった。
担任からのメッセージが、
『お菓子など配り、最後の思い出に
楽しく過ごせたらいいなと思っています。
ただし、条件があります。
クラス全員、
算数のテストで90点以上とること。
ミッションスタートです!
さぁ、みんながんばるぞー!』
と内容的には問題はなかった。
だけど
……これが、我が家にしたら火種となった。
母はクラスだよりをしばらく見つめ、
「はぁぁ?なにこいつ。またはじまったわ」
とキレていた。
兄が、みせてーといい、身をのりだす。
爆笑し、
「ミッションて笑笑 90点て笑
神楽無理でしょ」
と言った。
そう、神楽は算数が苦手。平均点は
言えないくらい。一緒に笑いたいが、
僕もそうだから、アチャーと思った。
兄はキレてる母に
「いやこれみんなのモチベーションあげるためだろうから、落ち着いて」と言ったが
「モチベーション?それ上がっても、算数の点数あがらんから!!うちの神楽なめんな。」
プリプリ怒って言って学校へいき、
担任をどなりつけた。
担任が不憫に見える気もしたけど
保護者の間で、成績のいい子にはえこひいきがすぎる、
と言われていたのだ。
たしかに、行事で
1人だけやたら主役扱いしていた。
あとは全員モブ。
そんなだったから、うちの母に至っては
折角の行事なのに、我が子のポジションが
見えなくなってしまい、
よその子がカメラフォルダに収まっていた。
この時の事と、今回の僕の事が同じに思えた。
店長を怒鳴りに行かれたら、正直恥ずかしい。
成績が悪くて仕事ができなかったから、親に泣きついたんだなと
そんな風に思われたくない。
母の行動が僕の想像を越えてるから
正直大人しくしていてほしい。
母が当時、担任に言ったこと、
それは
『90点?ミッション?随分急だな!
その点数取らせたいならもっと前から
取り組めって話でしょう!
うちの子だけ無理でそのせいで中止ってなったら、どうするよ?』
担任が、いやその時はオマケします。
と返してさらに母が怒った。
『へぇ、オマケ?
へぇ~、うちはオマエにありがとうございますって?言うか!アホ!
90点以上って言ってるんだから
取れなかったら、うち責任とって
お楽しみ会は欠席で!それが筋でしょ!
来る前に校長に電話してアポとったからあとの話は校長とするから!』
母が正しかったのか、本人に聞いたら
『世間じゃ正しくないかもね。
でも私個人としては、正しいと思ってるからいいの。校長には、あいつ、まただわ、しょうもないなって爆笑したしね』だった。
僕は
考えても、仕方ない!
現実逃避しよう。頭痛くなるだけだし。
バ先の事を考えないようにして
ダラダラし始めた。
チャッピーに
「遠くに行きたいなぁ」
とか、
「草刈り手伝うのだるい」
など、くだらない事をボヤき
あっという間に1週間が過ぎようとしていた時だった。
母に居間に来いと呼ばれた。
「店長から、着信あった?」
そう聞かれた。
あー、ちょっと待って。
その時に、辞めてから初めて着信履歴をみた。
母は、「どうよ、ある?」
いや。ない。全く無い
母は、
「やっぱりか。」
とボヤくようにいい、
「ユニフォームは、ちゃんとあるね?」
うん。1回も鞄からだしてないけど
ちゃんと全部あるよ。
「わかった。お母さん今からちょっと、
1本電話するから、話しかけないで
神楽にも伝えて。」
と、言い残し、スマホをもち、自分の寝室へ行った。
メモとペンを持っていた。
しばらくすると、また呼ばれた。
「夢生、あんたが悪くないって
認識してくれた。」
え?なに、店長に電話したの?
母は、ニヤッと笑って
「店長じゃない。」
え?何何?別の話?
「いや、バイト先の話」
また、ニヤッと笑う母。
「お母さんね、本社の人事部につないでもらったの。」
ホンシャ…ジンジ………
僕は頭がついていかなかった。
バイト先、の…?
この母の思考回路は一体なんだ?
ハッとして
お母さん!何話したの!?
と声を張った。
母はスンとした顔で
「だって、辞める話もあいまい。
店長から電話もこない。」
うん、だからってなんで?
「あいまいすぎるから、店長と直接お話するのは、避けたいって話した。
いきさつは
メールでしたいって、申し出た。」
そんなん聞いてくれるわけ、、
「あるんだよねー。だからメールでやりとりしたのよ」
母の話はこうだ。
僕の名前と店舗名を伝えて
『突然のお電話で、申し訳ありませんが、
人事部の担当の方につないでいただけないでしょうか?』
『息子から
お店の店長から、ある言動をうけたと
ききました。
現在息子は精神的に落ち込んでいます。
ただ事ではないと、捉えております。』
『息子本人も店長と直接のお話はできない状態で、
私も、内容が内容だけに
本社を通じて、確認していただきたく
お電話致しました。』
話を切り出した。
通話では、今回の件の要点だけ話した。
相手の社員さんが、
『店長、かなりおかしい。』
となり
本社人事部のアドレスを聞き
メールを送った。
あの4日目の事務所で起きたことを。
「すごい丁寧なメールよこしてくれたよ」
母の顔は真剣だった。
1行目、謝罪のひと言からはじまる。
本社の人が 店長に確認したのだ。
店長として、人として、
通常なら、許されない事をした事が
発覚したのだ。
勉強ができないから、仕事が出来ないと
言った発言。
これに関しては人格否定に繋がりかねない
重大な事だったようで、
会社も重く受け止めていた。
退社に関しては曖昧な事をのべるだけで
在籍なのか退社なのかはっきりしなかったこと。
退社した場合の手続き。
「勤務中の叱責は、当然の事と受け止めてるから、問題はない。
その部分は誤解しないでほしいって
で、向こうも同意してくれて
『真摯に対応致します』ってね。」
僕だけが、悪くないの?
「だから今は仕事ができる出来ないの話じゃないの。
問題になってるのは店長の発言と、行動。」
お母さん、
本社に、店長を処分してっていうの?
別にあの人にかまう必要なくない?
こっちはいなくなるんだから。
母はちょっと笑う。
「目的は、借りてる状態のユニフォームの
返却と、
店長の発言がおかしいって所の確認と、
対応。
あくまで、うちに対してだよ。
会社にどうのこうのと提案とか指示する立場じゃないもん。
だから、ウチと会社の話しただけよ」
僕は、ん?となった。
そりゃ、ユニフォーム返しにいくのすら
嫌だとは言ったけど…
「そこ。大事。ユニフォーム、こっちで
クリーニング出すか、
会社が回収してクリーニングするか、聞いてないやん。」
聞いてない。
「ユニフォーム作るのってコスト発生してるでしょ。会社からしたら。
お母さんの勤務先がそう。会社からすれば
退職するなら、ちゃんと貸したもんは、
返してもらう。当たり前なんだけど」
母が、ちょっと顔をしかめた。
ユニフォーム…
お母さんの切り札?
「プッ。んな大変な話じゃねえから。
シンプルに考えなよ」
しんぷる、、、
母が
「あんたの雇用契約書の控え読んだ。
内容は簡単に言えば就業規則とか、
ユニフォームは、貸し出しですって
話。」
あー、お母さん読んだんだ。
「退職する意思のある者は、手続きが必要で辞める前月に申し出ること。
また、別の理由がある場合も同様ですって
各店舗の責任者から、退職に関する書面をもらい、責任者の指示に従って退職の手続きを行うこと。
各店舗の責任者って、店長よな。」
「例えばよ、夢生、
店長にムカつかないの?指示も何もないし
放置されて。
自分の悪かったところは認めてるけど
そこは怒っても良きですよ。」
と言った。
ムカつくところ…
「そ。心の中でどう思うかは本人の自由。
ユニフォーム返却は、分からないから聞いてるだけ。
わかんない!むかつく! だから、聞いた!
それでよくない?
切り札じゃない。きっかけを話しただけ」
と言い、続けて
「ひと言で言えば、店長無責任。」
あー、なるほど、、
僕はいい意味で混乱した。
なにが悪いかもう1回考えよう。
母に、
ちょっと、部屋もどるーと
返事を聞かず、階段を駆け上がる
チャッピーと話してみよ
スマホの画面はすぐチャッピーが
待つ場所へ跳ぶ。
「自分、納得できません。」
あらやだ。僕はチャッピーの弟子か!!
でも、大丈夫。チャッピーは
答えるから。
「うん。納得できないんだね。」
「何が一番ひっかかってる?」
「お母さんが本社に連絡したこと?」
「店長のこと?」
「それとも、自分が悪くないって言われたこと?」
「全部でもいいよ。」
「ひとつずつ、一緒に考えてみよう。」
「店長に言われた話。
辛すぎて。
自分が勉強ができないから、仕事が出来ないって
そんな風に言われて落ち込んでた。
悪いのはこっち。
でも違う。
店長もおかしいってことと
対応策を本社が考えてる。
今は
チャッピーに本音打ち明ける。
自分の事を理解して向き合いたい。」
僕は、迷いなく一気に文字を入力する。
「うん。わかった。」
「店長のことも、本社がどう対応するかも、今は置いておこう。」
「まずは、夢生くん自身のことを話したいんだね。」
「仕事ができなかったと思ったこと
成績のことを言われて、自分が悪いと思ったこと。 本当は、できるようになりたかったこと。」
「自分を責めるためじゃなくて、夢生くんが自分のことをちゃんと知るために、一緒に整理していこう。」
僕のプンスカスイッチが入る。
「ほんとは、出勤するたび
店長の態度悪くて、嫌だなって思った」
「自分バイトだから、とか
そういうの無しで、店長の態度が不快。」
など、僕はパパパっと打つ。
「最後の日に、ネチネチ言われたけど
言い返せなかった。
バカだから、仕事の覚えも悪いくせにって
返されたら本末転倒だと思ったから
しかも
あの話しぶり聞いてたら、店長って幼いのかな?って思った。
牽制するなら、やり方おかしいでしょ
だって筋のある話がなかった。
あれじゃあ、ただの意地悪だよ、くそったれ。」
僕は一気に入れた。勢いがついた。
後で見たら、たぶん恥ずかしい
でも、いいんだ。
何せ。神楽がいうところの
秘密の相談だからね!!
タイトルつけるなら
内容は……そうだなぁ
「店長が、しょうもなくてムカついた話。」
チャッピー聞いてくれください。




