ドワーフの古い契約書へ行く
「それで、この魔団の製作依頼はいつ受けたんですか?」
ローレルは何か心当たりがあって、モラン・ガに尋ねた。
「ん? ああ。いつだったかな。ちょっと待てよ。80年くらい前だった気がするが。記憶が曖昧だな。」
モラン・ガはおおよそ思い出したものの、あまり気にしていない様子だ。
「確か製作を依頼したのは人族でしたよね? 二足歩行の魔団だなんて。人以外には考えられない姿じゃないですか?」
エドが聞く。
「ん? そうだったか。さあな。元々ドワーフは種族の見分けがあまり得意じゃないんだ。私たちは背が低いだろう? ははは!」
モラン・ガは本当に覚えていない。
「状況から見ると、おそらく。その依頼人はすでに亡くなっているか、あるいはそれもあまりに昔のことで覚えていないか、そのどちらかでしょうね。」
ローレルは状況を整理しながら、確信に満ちた表情を浮かべる。
「ふむ。80年前、それも人族。それとしたらもう亡くなった。」
ボンヌはすでに結論づけた。
故人への配慮として皆が口に出せなかったその言葉を、不死者であるボンヌが言うと、どこか妙な響きがあった。
「そうか。人族の人生とは儚いものだとは聞いていたが。そういうことなら連絡がないのも理解できる。」
モラン・ガはしばし故人を悼んだ。
「まだ死んではいない。」
ガードがこれ以上見ていられなくなり、一言口を挟む。
「何だって? まだ死んでいないのか!」
するとエドが驚いて聞く。
「その通りだ。だから未来の故人に失礼なことを言うな。それに現在の老人に対しても無礼なことを言うな。」
ガードが言う。
「まあ、他でもないガードがそう言うならそうなんだろうな。確かに生命を司る聖神ガブリドの加護だ。」
ガードの一言で、一行はすでに死んだ人を即座に生きている人へと認識を切り替えた。
この議論から取り残されているのは青年だけで、青年は今、魔団に集中していて周囲の状況に気を配る余裕がない。
「じゃあ、一度会いに行ってみるか?」
エドがガードに言う。
「プラムス南西部、ウォルター家の領主ウォルター・ロビンだ。」
トラニアに住むすべての生命は、厳密に言えば聖神ガブリドの眷属である。
魔団に残された記憶をたどり、80年前にモラン・ガを訪ねてきた人物が誰だったのかを突き止めることも、ガードにとっては容易なことだった。
「そうか。もし依頼主に会い、この魔団の後処理をしてくれるなら、プラムス・モラン工房として君たちに謝礼を支払おう。」
モラン・ガは場の流れが悪くないと見て、謝礼を提示した。
「契約成立ですね。ちょうど時間も十分ありますし、ウォルター家の領地はプラムスのすぐ隣ですから、今すぐ行きましょうか?」
エドは一行を見ながら提案する。
「はい。その方が良さそうです。」
ベリアが同意する。
皆もうなずいて賛成した。
「それじゃあ、とりあえず青年から連れてきますね。」
ボンヌはそう言うと、魔団に張り付いている青年を力づくで引き剥がした。
「うわっ! もう少し魔団と一緒にいさせてください!」
しかし引きずられながらも、青年は魔団への想いを捨てきれなかった。
「早く連れて行け。魔団に手垢がついてしまう。」
モラン・ガは青年が引きずられていくと、魔団の表面を点検しながら丁寧に艶出し剤を塗り始めた。
しばらくして、一行はプラムス南西部にあるウォルター家の館に到着した。
「これは……」
ローレルは言いかけて、領主の館の周囲を見回した。
「管理されていませんね。」
するとボンヌが残りの言葉を口にする。
二人の言う通り、館の周囲は雑草が生い茂り、雑木も処理されていないため、あちこちに低木林ができている。
地面の石畳にも雑草がびっしり生えていた。
「誰もいないんじゃないですか?」
誰もいないはずはないが、とりあえずベリアも一言口にした。
「どなたでしょうか? ここはウォルター家の領主、ウォルター・ロビン様がおられる領主館です。」
執事服姿の老いた男性が館の扉を開け、小走りで近づいてくる。
老人の足取りは軽いが力のない、小刻みな歩みだった。
「こんにちは。私たちはプラムスの冒険者です。魔団の件で領主様にお会いしたくて参りました。」
エドに背中を押されると、ベリアは前に出ながらも慌てることなく、自動発射のように用件を告げた。
ベリアはいつも淡々と話すが、その無味乾燥な雰囲気がかえって彼女の言葉をよりはっきりと伝えてくれる。
「ああ、そうでしたか。しかしご高齢の領主様は、もうお仕事をなさることができないのです。」
執事は首を横に振る。
「承知している。ただ、何か託された用件はないか?」
ガードが執事に尋ねた。
「司祭様にそう言われて思い出しました。領主様が病に伏される前に、私にお預けになった書類があります。」
ガードの言葉で、執事の頭に何かが浮かんだ。
「執事も年齢のせいで、すっかり忘れていたようですね。」
「シーッ! 静かに。」
ボンヌが言うと、ローレルは自分の指を口元に当てて静かにするよう促した。
失言に気づいたボンヌは顔を背け、別の場所を見た。
「魔団の処理について残した文書もあるはずだ。」
ガードが再び執事の記憶を呼び覚ます。
「はい。そう言われてみれば、そのようなものもあった気がします。ただ、皆様が魔団の関係者であることをどう確認できるのでしょうか?」
執事は何か証拠になるものを求めた。
「これなら答えになるでしょう。」
ローレルがモラン・ガの紋章が押された書類を見せる。
ほぼ100年前に作られた文書だが、魔法で保存された紙は新品同様にきれいなままだった。
契約書類は、モラン・ガが一行の出発前にあらかじめ用意してくれたものだった。
「おお、間違いありません。これは確かに領主様の直筆の署名です。筆勢に満ちていて、お若かった頃のお姿を再び拝見しているようですな。」
執事はしばし思い出に浸った。
「領主様のお客様方に失礼いたしました。領主様にお会いすることはできませんが、応接室へご案内いたします。領主様がご用意された書類をすぐにお持ちしますので、そこでお待ちください。どうぞ私についてきてください。」
執事は丁重に一礼した後、一行を応接室へ案内した。
応接室はよく整えられていたが、それでもやはり歳月の埃を布団のように厚くかぶっていた。
しばらく席を外していた執事が、茶菓子を用意して応接室へ持って入ってくる。
「申し訳ございません。現在この館には領主様と私の二人しかおりませんので、十分なおもてなしができません。この点、どうかご寛恕ください。」
執事は頭を下げた。
「構いません。どうぞご心配なく。」
エドは執事に笑みを見せる。
「こちらがその書類です。」
そう言って執事は一枚の書類を一行に見せた。
同じくモラン・ガの紋章が描かれた書類だった。
「実は領主様は病に伏される前、この書類以外はすべて処分されました。そして領主様は生涯独身でいらっしゃったので、お子様もおられません。」
執事が補足説明をする。
「ふむ。書類の内容としては、残った財産をモラン・ガへ譲渡するということですね。」
法律にも詳しいベリアが代表して書類を読んだ。
「私自身、この書類を開いて見たことはありません。申し訳ありませんが、領主様の代理として立ち会う者として、私も書類を確認してよろしいでしょうか?」
執事はベリアに頼んだ。
そして執事はベリアから渡された書類を眼鏡越しに静かに眺めると、再びベリアへ返した。
「確かにその通りですね。領主様ご自身がおっしゃったことなら、私は従うのみです。」
体の不自由な領主に代わって、執事が書類の内容を保証した。
「状況は理解しました。しかしこれは私たちが処理すべき問題ではありませんので、ひとまずモラン工房へ戻って意見を伺い、改めてお返事いたします。」
「もちろん、そのようになさるでしょう。よろしくお願いいたします。」
ベリアの言葉に、執事も頷いて同意する。
「ありがとうございます。お手数をおかけして本当に申し訳ありません。」
続けて執事は再び頭を下げて挨拶した。




