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湯守荘の宿帳には、言えなかった人生が綴られる 〜ブラック企業で壊れた僕は、茨城の山奥で名湯の宿を継ぎました〜  作者: 御神常陸介寛浩(常陸之介寛浩)


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19/27

第19話 魚の骨

 朝、雨は上がっていた。


 けれど、空はまだ濡れた灰色をしていた。山の上には雲が低く残り、庭のつつじの葉から、ぽたり、ぽたりと水滴が落ちている。川の音は昨日より大きかった。夜の雨で水量が増えたのだろう。いつもの細い流れではなく、石を噛むような音が、湯守荘の廊下まで届いていた。


 悠真は浴場の窓を開け、湯気の向こうで耳を澄ませた。


 朝の湯は、少し熱めだった。


 玄造がすでに見てくれていた。湯口の横に置かれた温度計を確かめ、悠真も手を入れる。昨夜より湯がしっかりしている気がした。


「川、増えてますね」


 悠真が言うと、玄造は浴場の外から短く答えた。


「増えてる」


「近づかない方がいいですね」


「近づくな」


 即答だった。


 玄造は窓の外を見た。雨上がりの山を眺めるというより、音と風で水の様子を読んでいる顔だった。


「でも、見るだけなら?」


「縁側」


「悠斗くん、昨日も川を見てました」


「知ってる」


 玄造はそう言い、手ぬぐいで手を拭いた。


「朝飯の前か後か」


「神社へ行くかどうかで変わると思います」


「神社は、道が濡れてる」


「やっぱり危ないですか」


「危ない所もある」


 それだけ言って、玄造は浴場裏へ回った。


 悠真は湯船の表面を見た。


 昨日、高森父子はほとんど話さなかった。


 けれど、まったく話さなかったわけではない。小さなおにぎりを一つ食べた悠斗。言いすぎないように言葉を飲み込んでいた亮介。双眼鏡で川を見た時の、少しだけ子どもらしい声。


 あれを、今日どう扱えばいいのか分からない。


 無理に続けようとすると壊れる気がする。

 けれど、何もなかったことにすると、昨日の小さな声が消えてしまう気もする。


 宿は、その間に鍋を置くことくらいならできる。


 昨日、宿帳にそう書いた。


 今朝なら、何を置けるだろう。


 湯と、朝食と、川を見る時間。


 それくらいかもしれない。


     *


 高森亮介が帳場へ来たのは、七時を少し過ぎた頃だった。


 昨夜より少し眠れた顔をしていた。目の下の影は消えていないが、肩の張りがほんの少し緩んでいる。髪もきちんと整えてあり、服も畳まれていたのだろう、皺が少なかった。


「おはようございます」


「おはようございます。よくお休みになれましたか」


 亮介は苦笑した。


「私は、思ったより眠れました。息子は……どうでしょう。夜中に一度、起きていたようですが」


「そうですか」


「でも、朝方は寝ていました。久しぶりに、ちゃんと寝顔を見た気がします」


 そこまで言って、亮介は少し照れたように視線を落とした。


 親が子どもの寝顔を見るのに、なぜ照れるのだろう。


 そう思いかけて、悠真はすぐに考えを改めた。


 きっと、照れではない。

 久しぶりに見たことへの痛みなのだ。


「神社のことなのですが」


 亮介は話を変えた。


「朝のうちに行こうかと思っていたんですが、道が濡れているようで」


「はい。玄造さんにも聞きましたが、参道の一部は滑りやすいと思います」


「やはり」


「無理に行かず、今日は宿で過ごしてから帰られても大丈夫です。朝食も、お時間を調整できます」


 亮介は困ったように笑った。


「せっかく来たのに、何もしないのはどうかと思ってしまって」


「何もしないために来る方もいます」


「何もしないために」


「はい」


 亮介はその言葉を、少し不思議そうに受け取った。


「そういう考え方もあるんですね」


「俺も、最近知りました」


 悠真がそう言うと、亮介は少しだけ笑った。


 その時、廊下の向こうから小さな足音がした。


 悠斗だった。


 黒いパーカーではなく、今日は少し薄手のグレーの上着を着ている。髪は寝癖で一部だけ跳ねていた。スマートフォンは手に持っていない。代わりに、昨日玄造から借りた双眼鏡を両手で抱えていた。


 亮介が少し驚いた顔をする。


「悠斗、それ」


「……借りていいって」


 悠斗は小さく言った。


「昨日、返してなかったのか?」


 亮介の声に少し焦りが混じる。


 悠斗の肩がこわばった。


 悠真はすぐに言った。


「玄造さんが、朝も使っていいと言っていました」


 本当は、まだ確認していない。


 しかし、玄造ならおそらくそう言う。あとで怒られたら自分が謝ればいい。いや、謝るより説明すればいい。


 悠斗は双眼鏡を抱えたまま、廊下の外を見た。


「川、増えてる?」


「増えてるよ」


 悠真は答えた。


「近くへは行けないけど、縁側から見ることはできる」


 悠斗は父親の方を見た。


 亮介は少し迷った顔をしてから、頷いた。


「朝ご飯の前に、少しだけ見ようか」


 悠斗は何も言わなかった。


 けれど、双眼鏡を持つ手に少し力が入った。


     *


 山吹の縁側から見える川は、木々の隙間に少しだけだった。


 それでも、雨上がりの朝は水の白さがはっきり見えた。流れが石に当たり、小さく泡立っている。普段より水音が大きく、庭の静けさの奥で絶えず動いていた。


 悠斗は縁側に座り、双眼鏡を覗いた。


 亮介はその隣に座るか迷ったようだったが、少し離れた座布団に腰を下ろした。近すぎず、遠すぎず。昨日よりは、距離の取り方が少しだけ柔らかい。


 悠真は廊下側に立っていた。


 灯里はまだ来ていない。千代は厨房で朝食の支度をしている。玄造は庭の端に立って、川へ近づきすぎないよう見ていた。


「白い」


 悠斗が言った。


「昨日より」


 亮介が答える。


「雨が降ったからかな」


「石、見えない」


「水が増えたんだね」


「魚、流される?」


 亮介は少し返事に困ったようだった。


 玄造が庭から言った。


「流されないやつもいる」


 悠斗が双眼鏡を外して、玄造を見る。


「いるの?」


「いる」


「どうやって?」


「石の陰」


 玄造は短く答えた。


「流れが強い時は、流れの弱いところにいる」


 悠斗は、もう一度双眼鏡を覗いた。


「見えない」


「今日は濁ってる」


「晴れたら見える?」


「見える時もある」


「魚、何いる?」


「ハヤ。カワムツ。たまにヤマメ」


 玄造の口から魚の名前が出た瞬間、悠斗の背中が少し伸びた。


「ヤマメ?」


「上の方」


「食べる魚?」


「食べる」


 そこまで聞いた時、亮介が小さく息を飲んだ。


 悠真は気づいた。


 魚。


 悠斗が苦手だと言われていたもの。


 けれど今、悠斗は興味を持って聞いている。


 食べるのが苦手なのと、魚そのものが嫌いなのは違うのかもしれない。


 玄造は、亮介の反応を気にしていないように続けた。


「でも、今日は取らない」


「なんで?」


「水が強い」


「危ない?」


「危ない」


 悠斗は頷いた。


 その頷き方は、昨夜より少し素直だった。


 しばらく、川の音だけが続いた。


 悠斗は双眼鏡を覗きながら、ぽつりと言った。


「お母さん、魚の骨取るの、うまかった」


 空気が止まった。


 亮介の顔が、はっきり変わった。


 声を出す前に、喉が動いた。何か言おうとして、言葉が見つからない。手が膝の上で小さく握られる。


 悠真も、何も言えなかった。


 お母さん。


 その言葉が出たことで、今まで部屋にあった沈黙の形が変わった。


 母親を亡くしているのかもしれない。


 プロットではそう分かっていたが、この物語の中で、今初めてその輪郭が現れた。


 悠斗は双眼鏡を覗いたまま、続けた。


「お父さんは、下手」


 亮介は、ようやく息を吐いた。


「……ごめん」


 謝罪だった。


 悠斗の肩が、また少し固くなる。


 その瞬間、玄造が庭から言った。


「骨は、取れば食える」


 亮介も悠斗も、玄造を見た。


 玄造は川を見ている。


「下手なら、練習すればいい」


 それだけだった。


 慰めではない。

 励ましでもない。

 ただ、骨は取れば食える、下手なら練習すればいい、という現実的な言葉。


 悠斗はしばらく黙っていた。


 それから、小さく言った。


「小骨、残ると痛い」


「痛い」


 玄造が頷く。


「だから、ゆっくり取る」


「お父さん、急ぐ」


 亮介の顔に、また痛みが走る。


 今度は謝らなかった。


 ただ、少し震える声で言った。


「今度は、ゆっくり取る」


 悠斗は返事をしなかった。


 けれど、双眼鏡を覗いたまま、少しだけ頷いたように見えた。


 たったそれだけの会話だった。


 母の話も、魚の骨の話も、そこで終わった。


 だが、亮介は目を伏せ、しばらく動かなかった。


 何かが崩れたのではない。


 崩れないように固めていたものに、細い隙間ができたようだった。


     *


 朝食は、神社へ行く前ではなく、川を見た後に出すことになった。


 千代は最初からそうなると分かっていたように、小さなおにぎりを二つ、さらに半分の大きさにしていた。味噌汁は湯気が立っているが、熱すぎない。卵焼きは一切れずつ。魚はない。


 食事処ではなく、山吹の部屋へ運ぶ。


 父子は向かい合わず、庭を横に見る形で並んで座った。千代が「向かい合うと、食べにくい」と言ったからだ。


 悠真は膳を置いた。


「朝食です。食べられる分だけで大丈夫です」


 悠斗はおにぎりを見た。


 昨日の夕食と同じ、小さいおにぎり。今日はさらに小さい。


「ちっちゃい」


 初めて、料理に対して自分から言った。


 千代が部屋の入口で答えた。


「足りなければ、作る」


 悠斗はおにぎりを一つ手に取った。


 すぐには食べない。


 しばらく見てから、少しかじった。


 亮介はその様子を、見すぎないように見ていた。口を挟みたいのを、何度も飲み込んでいるのが分かる。


 悠斗はおにぎりを半分食べ、味噌汁を飲んだ。


 それから、卵焼きを少し食べる。


 亮介は、自分の味噌汁を手に取りながら言った。


「おいしいな」


 悠斗は小さく頷いた。


「おにぎり、食べやすい」


 その一言で、亮介の目元が少し揺れた。


 悠真は、部屋に長居しないよう廊下へ下がった。


 廊下には灯里が来ていた。


 いつの間にか、玄関から入ってきたらしい。今日は役場の仕事が午後からなのだろう。髪は昨日より少し整っているが、まだ眠そうだ。


「聞こえた?」


 悠真が小声で聞くと、灯里は頷いた。


「魚の骨?」


「うん」


「そっか」


 それだけだった。


 灯里はそれ以上、事情を聞かなかった。


 ただ、廊下の窓から庭を見て言った。


「骨って、残ると痛いよね」


「魚の?」


「魚も。それ以外も」


 悠真は何も言えなかった。


 灯里はすぐに軽い声へ戻した。


「でも、玄造さんの『骨は取れば食える』、強いね。名言じゃん」


「玄造さんは名言製造機なのかもしれない」


「本人に言ったら嫌がりそう」


「絶対嫌がる」


 二人は小さく笑った。


 笑いすぎないように。


 山吹の部屋では、父子がまだ朝食を食べていた。


     *


 神社へ行くかどうかは、朝食の後に決めることになった。


 雨は止んだままだが、参道は濡れている。灯里が役場で作った地図を広げ、滑りやすい場所を説明する。悠斗は黙って聞いていた。亮介は少し迷っている。


「混みますか?」


 亮介が聞いた。


「雨上がりなので、午前中は少なめかもしれません。でも土曜なので、昼に近づくほど増えます」


 灯里が答える。


「奥まで行かなくても、入口の大杉のところまでで十分雰囲気ありますよ」


 悠斗が地図を覗いた。


「杉、大きい?」


「かなり」


「魚いる?」


 灯里は少し笑った。


「神社の参道には、魚はいないかな。水のところにはいるかもしれないけど、見えないと思う」


「じゃあ、川の方がいい」


 亮介が驚いたように息子を見た。


「悠斗、神社は?」


「人、多いなら、いい」


「でも、せっかく」


 言いかけて、亮介は止まった。


 せっかく来たのに。


 その言葉が、昨日から何度も亮介の中にあるのだろう。けれど、今日は飲み込んだ。


 悠斗は地図ではなく、庭の方を見ていた。


「川、もう一回見る」


 亮介は少しだけ肩を落とした。


 がっかりしたのではない。


 予定を手放すことに、慣れていないように見えた。


 悠真は言った。


「神社へ行かずに、川を見てから帰るのでも大丈夫です」


 亮介は悠真を見た。


「でも、本当にそれで」


「何もしないために来る方もいますし、神社へ行かないで山を見て帰る方もいます。湯守荘では、それも宿泊です」


 自分でも、少し言い切りすぎたかと思った。


 でも、亮介はゆっくり頷いた。


「そうですね」


 彼は息子の方を見た。


「じゃあ、川を見てから帰ろうか」


 悠斗は、小さく頷いた。


 それだけだった。


 でも亮介は、今度は謝らなかった。


     *


 川は、近くまでは行かなかった。


 玄造が「今日は下りるな」と言ったからだ。代わりに、宿の敷地の端にある少し高い場所から、木々の間の流れを見ることになった。足元は濡れていたが、板を敷いてあるので滑りにくい。


 悠斗は双眼鏡を持ち、亮介と並んで立った。


 悠真と灯里は少し離れて見守る。玄造はさらに少し前で、危ない場所へ行かないよう立っていた。


 川の音は大きい。


 水は薄く濁り、白く泡立っている。


 悠斗は双眼鏡を覗き、しばらく何も言わなかった。


 亮介も黙っていた。


 その沈黙は、昨日のものとは少し違う。隣にいるのに届かない沈黙ではなく、同じものを見ている沈黙に近かった。


「お母さん」


 悠斗が小さく言った。


 亮介が息を止める。


「川、好きだったよね」


 亮介はすぐに答えなかった。


 答えられなかったのかもしれない。


 少しして、低い声で言った。


「うん。好きだった」


「魚、見るのも?」


「好きだったな」


「食べるのも?」


「好きだった」


 悠斗は双眼鏡を外した。


「骨、取るの、うまかった」


「うん」


 亮介の声が震えていた。


「すごく、うまかった」


 悠斗は父を見なかった。


 川を見たまま言った。


「お父さん、練習して」


 亮介は、両手を握った。


「する」


「急がないで」


「うん」


「小骨、残ると痛いから」


「うん」


 それ以上、二人は話さなかった。


 けれど、亮介の目から涙が一つ落ちた。


 彼はすぐに拭った。


 悠斗は見ていないふりをした。


 玄造も、灯里も、悠真も、何も言わなかった。


 川の音が、全部を隠してくれた。


     *


 出発前、千代が小さな包みを渡した。


 中には、小さなおにぎりが二つ入っていた。


「帰り道」


 千代はそれだけ言った。


 亮介は受け取り、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 悠斗は包みを見て、小さく言った。


「ちっちゃい」


「足りなければ、次は大きくする」


 千代が答えた。


 次。


 その言葉に、亮介が少しだけ顔を上げた。


 また来てもいい、とは誰も言っていない。


 でも、次があるかもしれない言い方だった。


 玄関で靴を履く時、悠斗は自分の靴を少し斜めに置いた。


 悠真は今度も直さなかった。


 悠斗が自分で気づき、少しだけ向きを整えた。


 亮介は何も言わなかった。


 それが、たぶん今日の父親の頑張りだった。


「お世話になりました」


 亮介が言った。


「こちらこそ、ありがとうございました」


 悠真は頭を下げる。


 悠斗は少し遅れて言った。


「……ありがとうございました」


 声は小さかったが、父親に促される前だった。


 亮介の顔が、少し歪んだ。


 でも、彼は何も言わなかった。


 車に乗る前、悠斗は玄造に双眼鏡を返した。


「ありがとう」


「おう」


「ヤマメ、今度見える?」


「晴れて、水が澄んでたら」


「ふうん」


 悠斗は少しだけ考えた。


「じゃあ、晴れたら」


 そこまで言って、車に乗った。


 晴れたら。


 それは約束ではない。


 でも、未来の話だった。


 車が坂を下りていく。


 助手席ではなく、悠斗は後部座席に座っていた。亮介が運転席から何かを言う。悠斗が小さく頷く。窓越しに見えるだけだったが、二人の間の空気は来た時より少しだけ動いていた。


 灯里が隣で言った。


「神社、行かなかったね」


「うん」


「でも、よかった気がする」


「俺も」


 玄造がぽつりと言った。


「川でよかった」


 それだけだった。


     *


 山吹の部屋に戻ると、布団は畳まれていなかった。


 座卓の上には、空になった湯呑みが二つ。悠斗が見ていた庭側の座布団が、少しだけ川の方へ向いている。隅には、双眼鏡を置いていた跡があった。


 悠真は畳に座り、しばらく部屋の空気を覚えることにした。


 祖母が言っていた。


 客が帰った後の空気を覚えておきなさい。


 今日の山吹には、川の音が残っていた。


 魚の骨。

 母の手。

 父の謝罪。

 小さなおにぎり。

 練習して、という息子の声。


 全部を解決したわけではない。


 母親は戻らない。

 亮介が急に完璧な父親になるわけでもない。

 悠斗が明日から何でも話すようになるわけでもない。


 でも、小骨が残ると痛いと言えた。


 急がないでと言えた。


 父親は謝らずに、練習すると言えた。


 それだけで、今日は十分なのかもしれない。


 帳場へ戻り、宿帳を開いた。


『高森亮介様・悠斗様、出発。神社へは行かず、川を見る。悠斗くん、お母さんは魚の骨を取るのがうまかったと言った。亮介さんは謝らず、練習すると言った。千代さんの小さなおにぎり。玄造さんの双眼鏡。晴れたら、という言葉。』


 少し考えて、最後に書く。


『宿は、目的地を変えてもいい場所でありたい。神社へ行けなくても、川を見ればいい朝がある。』


 ペンを置いた時、厨房から千代の声がした。


「昼、食べる?」


 相沢の時も、真帆の時も、客を見送った後にはその声があった気がする。


 客が帰っても、宿の人間は食べる。


 湯を見て、飯を食べて、次の朝を迎える。


 それが宿を続けるということなのかもしれない。


「食べます」


 悠真は答えた。


 腹が減っていた。


 そのことが、今日も少し嬉しかった。

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