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第5話 うぇるかむきさらぎ

 如月皇国にはごく稀に異界からの訪問者または遭難者が来る。

 理由は様々。地元が嫌いだった。本当は死ぬ気でいた。役所の紹介などなど。

「ですが一番多いのはやはりただの遭難でしょう。気付いたらこの街にいた。なんてのはザラにあります」

「そうなんだ」

「川口さんもそうですよね?」

「うん」

 幻燈区千寿。普通の高校生、宮内弥生(みやうちやよい)は今遭難者の少女を案内している途中だった。行き先は区役所である。

「なんかボロボロだね。至る所」

「そうですね。この街では十数年前からずっと魔力汚染の被害にあります。」

「なにそれ」

「空気中にある魔力が質量を持って建造物などを傷つける事です。人体に影響があることもありますが、そのような事態は少ないですね。魔法を使う人が多いと起こる現象らしいですよ」

「え、何それ急にスピリチュアル。もしかしてそういう町?」

「そういう世界観ですから」

「あれ、弥生ちゃんじゃん。オハヨー」

 弥生の隣で端白が滞空しながら話しかける。

「あら端白さん。おはようございます」

「誰だそいつ。新入りか?」

「そうですね。あ、多分一般人ですよ」

「ああ。なるほど。それはそうと、私設楽端白ってんだ!よろしくな!」

「よろしく!あーしは川口そうか」

「そうかちゃんね。ちなみにこの区の範囲を出ると殺されかねないから注意してな。んじゃ、良い日々を〜」

 再び端白は飛んでいく。

「あの子空飛んでた」

「そういう世界観ですから」

「ていうか殺されるって何でそんな物騒なの?」

「この街、旧皇都に反社会勢力がたくさんいるからですね」

「だけど、さすがにマジで殺されるわけじゃないっしょ?」

「マジです」

「え?」

「非常に残念なことに、マジです」

 そうかは口を開いたまま立ち止まる。

「・・・もしかして私、ヤバいところ来ちゃった?」

「残念ながら」


「はい。ではひとまずこの街に移住していただくという形でよろしいでしょうか?」

「うん!」

 ウサギ耳が生えた少女が役場の仕事をしている。

 世にも奇妙なことがあるもんだと川口そうかは感心した。

「では、川口そうかさん。如月皇国旧皇都、幻燈区へようこそ!何かあったら是非アタシに言ってください!」

「旧皇都?ここ東京じゃないの?」

「違います。確かにあちらで言う東京にあたる場所ではありますが、首都としての機能は西の方へ移っています」

「西?」

「ええ。現在の都は関西の西京都、大附区にあります。この街とは全然違う風景が広がっていますよ」

「なんで変わっちゃったの?」

「汚染の影響ですね。10年前から進行した魔力汚染の影響で、元は人が住めるような環境ではなかったんですよ。旧皇都は魔術師や妖怪が大勢住んでいました。特に被害が激しかったのがこの幻燈区です。見ての通り建造物は崩壊、一時は疫病も流行りました。今や反社の住処になっていますが」

「危ない街なんだ」

「ええ。この街にいて欲しいとは思いますが、正直言っておすすめできる場所ではありません。本当にここでいいんですか?」

「ちょっと怖くなってきたかも」

「ここを中心に活動している鬼蓮会は優しい方が多いので、区内にいる時は安全を保証できます」

「逆に区の外だと」

「誠に申し訳ありませんが命の保障はできません」

「そんなぁ」

「しかし、他の自治区に比べて福利厚生がしっかりしています」

「ここにする」

「ありがとうございます」

 少女は立ち上がり、そうかの手を掴んで言った。

「では改めて、如月皇国旧皇都幻燈区へようこそ!」


「ここは喫茶店マヨイガ。名前の由来はわかりませんが店長さんの名前が真宵(まよい)さんであることから来ているというのが住人の中で一番有力な説です」

「へぇー。地下にあるんだ」

「あ、マヨ()ガですよ?マヨ()ガっていったら店長さんが怒るので」

 黒樫でできた扉が開く。

「おはようございます結月さん」

「あら弥生さん。いらっしゃ・・・い?」

 カウンターで食器を拭いていた結月だが、弥生の後ろに人影を感じると、その下に隠れてしまった。

「今誰かいた?」

「彼女は結月さん。極度の人見知りでして、今はカウンターの下にいますよ」

 確かに上から覗いてみれば、白髪の少女が屈み、長い髪がモップの先端のようになっていた。

「い、い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいらっしゃっ」

「いらっしゃいませ。だそうです」

 そうかの頭上から声がかけられる。驚いて頭を振り上げてみると、黒い長髪の、中性的な見た目をした長身の少年が立っていた。

「そう驚かないでください」

「驚くにきまってるでしょう」

「そうでしょうか?」

 結月の顔を覗き込む。

「うわっ、顔のいい男だ」

「・・・誰?」

「彼・・・彼女かもしれないので、アレと呼びますが」

「アレって何すか」

「あの方は天音さん。結月さんの・・・えーっとぉ・・・」

「従者とでもお考えください」

「だそうです」

 バックヤードから歩いてきた夏日は、白い団子虫と化した結月に(つまず)いてしまった。

「てめ何しとん」

「夏日聞いた?アレだって、アレ」

「おうアレ、あれとってきてくれ」

「残念ながら私が仕えてるのはお嬢様だけなんで。

「あ゛?」

「あら、聞こえませんでした?自分で取ってこいボケナス」

「何よその言葉遣い!結月ばっか優遇してんじゃないわよこのハゲ!というかボケナスってなんだよ!」

「腐ったトマトのほうがよかったですか?」

「はあ!?」

「夏日、似合ってない」

「うるせーっ!大体よぉっさっきから何なんだよオメーら!結月は何か丸まって動かないし、天音は辛辣だし!何なんだよお前ら!」

「夏日、お客さんの前」

「そんなことわかってるよ。端白だろどうせ————あれ?」

 夏日が視線を席の方に向けると、困ったような表情で自分たちを見つめる二人の少女が目に映った。

 冷汗が伝う。まさか、先ほどの会話をすべて聞かれていたのではないだろうか。

「聞いてた・・・?」

「残念なことに」

「Oh my god!」

「なんだこいつ」

 どうせこの先語られぬことなのでここに記しておこう。

 夏日は弥生に惚れている。だいぶ。それはもう、一目でおかしいとわかるくらいに惚れている。

 弥生のことを考えると、夏日は何でもできるような気持ちになってしまう。実際は何かできるといったことはない。

 弥生に関連することとなると、真っ先に飛びつく。その先には何もないのに。

 惚れた相手の前では格好をつけてしまうのが男というものなのだ。そして、夏日は今、最愛の女性の前で恥をさらした。

 そんなことをして生きていけるだろうか。

 否。今の夏日にはそんな度胸はない。ならばその先にあるものは、死。

「もうむりじがいしよ」

「なんだこいつ」

「なんだこいつ」

「そ、そんなことしないでください!皆さんなんで止めないんですかぁっ!?」

「なんか・・・大変だね、弥生ちゃん」

「同情ありがとうございます!」

「そうかさん」

「何?」

「様々な災難があなたを待っているでしょう。

 誰かに殺されるかもしれません。逆に、誰かを手にかけてしまうかもしれません。ですが、気に病まないでください。この街ではこれが普通ですから。

 危険な目に遭うかもしれません。なので小型の拳銃あたりの護身用の武具を常備ください。

 では、改めてご挨拶させていただきましょう。

 異国の御客人、地獄へようこそ。

 魔界へようこそ。異界へようこそ。

 我らが故郷、如月皇国へようこそ。

 我々は、貴女を歓迎いたします」

「あ、ありがとう?」

「そいつぁどうかな!天音が許しても俺が許さなぐぎゃあ!?」

「うるさい。殺されたいの?」

「・・・歓迎いたします」

「う、うん。ありがとう」

大 遅 刻

結月「週一できてねえじゃん!」

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