悪役令嬢、優人と語らう6
優人は考えた。
(コーデリアが落ち込んでいるようだから話を聞こうと思って連れ出したは良いけれど、何だか妙な雰囲気になってしまった……いきなり喫茶店に誘うのは配慮が足りなかったか?
でもこのまま何も話さず終わったら、仕事を他の皆に任せてただ遊びに来ただけになってしまうしな。
初っ端から「最近、何か悩んでる?」と尋ねるのは、あまりにも無神経な踏み込み方だよね……どう切り出したものか。やっぱりここは当たり障りのない話題から始めて、コーデリアがリラックスしたところで少しずつ話を聞き出して…………)
コーデリアは考えた。
(何なのでしょう、この緊張感は……?ユウトから妙な圧を感じますし、私も平生より心なしか脈が速い気がします……
はっ。もしかしてユウトは私に対して怒っている?確かに今日の私は一日中ふぬけていて、気がつかないうちに何かやらかしている可能性はあります……!
シズカ以外の人間からはどんなに怒られようと何も感じないのに、ユウトに叱られるのはどういうわけか耳に残るんですよね。うーん、叱られるのは嫌です。ここはユウトの怒りを抑えるべく、心の和む話題を……)
考える二人を観察しながら、一法も考えた。
(よく考えたら男女で喫茶店とか、普通にデートみたいだな。コーデリアと優人というのが意外な組み合わせだが。……いや、待てよ?男女の喫茶店がデートなら、それを偵察するために喫茶店にいる俺と井本もデート!?俺達は今、実はデートしている!!??)
静花はほのぼのと紅茶を一口啜った。
「あっ、ここの紅茶おいしい。帰りに茶葉買っていこうかな……ってどうしたの、岩水君?何か顔が赤いよ?熱?」
「いや別に……」
二人して腕組みして考えた結果、先に話題を思いついたのはコーデリアだった。
「ユウト!」
目をきらきらさせて、両手を握るコーデリア。
「シズカの話をしましょう!!」
「ん、んん……?」
優人は快く頷こうとするも、疑問が先んじて唸るような変な声が出た。
隣のボックスでは静花が派手にテーブルに額をぶつけていた。
「聞いてください!この間、家にシズカが遊びに来たときのことなんですけど。彼女は今、メイドが主人公のゲームにハマっているらしくて、作品への理解を深めるためにとメイド服を着たんですよ!私の家はもともと岩水家のお屋敷で、昔は使用人もたくさん雇っていたらしく、そのときのお仕着せが残っているんです。それを着てくれたんですけど、もう本当にかわいくてかわいくて!!」
(やめてコーデリア!!私の黒歴史(直近)を会長にばらさないで――――――――っっ)
(落ち着け、井本!俺達がここにいるのがあいつらにばれる!というかちょっと待ってくれ、メイド服着たのか!?何で俺のいないときに限って!?)
静花がコーデリアの口を塞ぐべく、今にも隣のボックスに乱入しそうになっている。
一法が必死に止めるが、彼もまたそんな場面に居合わせなかった悔しさに歯ぎしりをした。コーデリアか千絃かどちらでも呼んでくれたら良かったのに。あいつら誰が大家だと思っているんだ。
コーデリアは仕切りの向こう側の阿鼻叫喚に気づくこともなく、うっとりとした表情で続ける。
「不思議ですよね……チヅルのメイド服には何も感じないのに。チヅルがメイド服を着ていてもただのモノクロの世界でしかないのに、シズカが着た途端に世界が色づくんです。エプロンの白は純白に、スカートの黒は夜の静寂の色に。いろいろポーズも取ってくれましたわ。ほら見てください、この写真!」
「へぇ、本格的だね」
コーデリアがスマートホンに保存した写真を何枚もスクロールして優人に見せている。
彼は一枚一枚丁寧に見て、「あ、この写真はキャラクターと同じポーズをとっているんだね」などと感想を言った。
(やめて――――!会長に見せないで――――!あんなに機械音痴だったのに、いつの間に写真撮れるようになってるの!?)
(ここは抑えろ、井本!いざとなれば千絃が記憶抹消薬を作ってくれるはずだから、今は耐えるんだっ)
本来なら機械音痴のコーデリアがスマホスキルを向上させたことに喜ぶ場面なのだが、静花は頭を抱え身もだえしていた。羞恥心で死にそうらしい。
一法は彼女をなだめながら、頭の中ではコーデリアとの取引の計算をしていた。この間あった数学の小テストでコーデリアは赤点を取っていたはずだ。その再テストの勉強に付き合ってやれば、何枚か写真をくれるかもしれない。一法は決心した。
嬉しそうに写真の解説をするコーデリアの言葉を、優人は目を細めて頷きながら聞いていた。
「君は本当に静花さんのことが好きだね」
優人は頭を撫でるような優しさで、言葉を紡いだ。
「もしかして彼女と喧嘩でもした?」
その瞬間、コーデリアの顔から表情が抜け落ちた。
隣のテーブルで今にも飛び出しそうになっていた静花と、それを抑えていた一法も、思わず動きを止めた。




