静花、終わりにする2
こうして赤星は新学期から生徒会に復帰することになった。
復帰とは言っても、赤星に業務経験は無い。優人の生徒会の業務開始直前で休学することになったからだ。役職こそ優人が生徒会発足当初に指名していたために副会長だが、実質、新人なのである。
「だから僕のことは名前だけの副会長って思ってくれて良いよ。むしろ早く仕事を覚えられるように、ぺーぺーとしてこき使ってほしい」
とは本人の言である。
そうはいっても静花、小蝶、友晴は彼への接し方に悩んだ。というのも赤星は現在、他の役員と同学年だが、それは傷病で休学した結果、留年となったからだ。
年上の相手に指示を出したりするのは、なかなかやりづらい。コーデリア一人だけがまったく気にしていなかったが。
赤星の方はというとその怪しい風貌からは意外なほどに、彼らの戸惑いを敏感に読み取り、親しみやすい態度をとるよう心がけているようだった。
顔こそ見えないもののいつも機嫌良く振る舞い、冗談もよく言う。それに今朝も早くから生徒会室を掃除していたように、提出物を届けたり資料を整理したりといった雑用を率先してこなしていた。
赤星のそんな態度を見て、他役員も歩み寄ろうとしている。優人もここにきて新しい人材を入れることに不安を感じていたようだが、とりあえずは一安心といったところだ。
生徒会はぎこちないながらも、少しずつ新体制に馴染もうとしていた。
「それじゃ閉会式のピアノ演奏者の交渉に行ってきまーす」
と言って静花が生徒会室を出ていく。彼女は文化祭の閉会式の責任者で、演出のために協力者と話す必要があった。
付き添いの優人が、
「多分このまま生徒会室には戻らないと思うから、鍵を締めておいてくれ」
と残る役員に頼んだ。
「おう、わかった」
と友晴。
「コーデリアも交渉があるのよね?」
小蝶が、同じように生徒会室を出る準備をしているコーデリアに声をかける。
「ええ、私はマジック研究会と話しに行ってきますわ。お供にカイトを連れて行きます」
コーデリアの方は文化祭の開会式の責任者だ。赤星に仕事を教えるために連れて行くらしい。
生徒会活動も終盤だ。コーデリアは未だにはらはらさせるところがあるのだが、責任の大きな仕事を受け持たなければならない。
でも心配なものは心配で、
「変なことを言って、相手を怒らすんじゃないわよ」
と小蝶はついつい小言を言った。
「まあ、失礼ですね。カイト、私の背中をきっちり見ておくのですよ」
コーデリアの方はいつも通り、自信たっぷりだ。
「うん、しっかり学ばせてもらうよ」
「赤星さん、その女が妙な言動をとったら、すぐに抑えてね」
「あはは、任せて」
赤星は快く応じた。
静花の方の仕事はあっさりと終わった。
閉会式ではキャンドルセレモニーを行う予定で、その合唱の伴奏をピアニスト志望の三年生に頼みに行ったのだ。彼女が授業前に朝練している音楽室を訪ね、無事に了承を得ることができた。
「お疲れ様、静花さん。すごくわかりやすく丁寧に話していたと思うよ」
音楽室を辞して教室へ向かう最中、優人が静花をねぎらう。
「ありがとうございます。でも会長が一緒に来てくれたからですよ」
静花が照れながらも、謙遜する。
確かに伴奏の依頼自体は静花が中心となっていたし、相手も最初からまんざらでもない様子だったと思う。
だが決め手となったのは優人の「いつも生徒会室に向かう途中で音楽室から聞こえてくる演奏がとても上手だったので、ぜひ頼みたいと思ったんです」という言葉だったと静花は考えている。それで相手は俄然やる気を出したのだ。
優人はよく周囲の人間を見ていて、その人の背中を押すような言葉をかけることができる。
静花は優人のそういうところを尊敬していて、自分もそうなりたいと思っていた。
優人が「そんなことないよ、静花さん本人の力だよ」と優しく否定したところに、
「ああ、姉さん。やっと見つけた」
と第三者の声がした。
「春華ちゃん!?どうしてここに……」
静花が予想外の人物の登場に目を見開く。
春華は授業前に特に用事がないので、静花の後に家を出て、自分の教室に直行しているはずだった。なぜこんな所にいるのだろう。
静花の困惑をよそに、春華は優人の方を向いて、
「おはようございます、日多木会長。姉がお世話になっています」
と優雅に挨拶した。
「おはようございます、えっと静花さんの「妹」さんだったよね。こちらこそ静花さんには随分助けてもらってます」
優人の方は隣にいる静花の動揺を感じながらも、普通に挨拶を返す。静花と春華の関係性については静花が時々生徒会室でこぼしていたから、一応知ってはいた。
春華が静花の方に向き直り、
「生徒会室に行ったら音楽室にいるって聞いたの。忘れ物を届けに来たのよ。ほら、お弁当」
と弁当の入った包みを差し出した。
「お弁当?私、今日は要らないってお母さんに言ったんだけど……」
「言い忘れたんじゃない?姉さん、結構天然だし」
春華は当然のようにそう言うが、そんなわけがない。静花はコーデリアと学食に行くことをとても楽しみにしていた。だから「この日は弁当はいらない」と母に伝えることは、確実にしていたはずだった。




