小蝶、告白する8
「初回だってのに、えらく盛り上がったなぁ」
だんだんと宵闇迫る窓の向こうを眺めながら、友晴がぼやいた。
第1回文化祭実行委員会議は無事に閉会し、生徒会役員は皆、生徒会室へと戻ってきていた。
「美術部が「新館のホールを使ってプロジェクションマッピングをやりたいから去年の1.5倍の予算を寄越せ」って言い出したあたりから、大論争になったからね……」
「栗本は相変わらずむちゃくちゃ言うよなぁ。皆怒るだろ。ただでさえ文化祭は毎年、文化部がごっそり予算を持っていくから、クラス側の委員からは恨まれてるのに。それにホールは他にも使いたい部があるから、文化部側からも怒号が上がってたし」
当初の予定では1時間もかからず終わるはずだった会議は2時間超に及んだ。そのため役員は皆、少々疲れ気味で帰りの準備をしていた。
「まだ皆いるか?」
そこに廊下からひょいと顔を覗かせたのは一法だった。
「岩水君?どうしたの」
「花火、やろうと思ってさ。まだ明るいけど、今から中庭来られるか?」
一法がスーパーの袋いっぱいに詰め込まれた手持ち花火の束を見せる。
「おっ、いいな」
と友晴が顔を輝かせる一方、
「花火……とは何ですか?」
とコーデリアは首を傾げた。どうやら彼女は花火を見たことが無いらしい。
「火を付けて火花がいろんな色に光るのを楽しむんだよ。日本の夏の風物詩だね」
と、静花が説明する。
「あら、面白そう」
友晴や静花、コーデリアがいそいそと鞄を持って立ち上がる中、
「僕は少し仕事が残ってるから、後から行くよ」
と書類をチェックしていた優人が「先に行ってて」と促す。
「はいっ」
静花とコーデリアが揃って部屋を出る。
「小蝶?」
その後に続こうとした友晴が、席に着いたままの小蝶を怪訝に思って声をかける。
「私もこのへん片付けたら行くわ」
「わかった」
小蝶の声の固さに引っかかるものを覚えながらも、友晴はそのまま廊下に出た。
「コーデリア。先に言っとくが、くれぐれも危ないまねをするんじゃないぞ」
「何ですか、藪から棒に。花火とやらはそんな危険なものなんですか」
一人の生徒が、ぞろぞろと廊下を行く静花ら4人とすれ違った。
学園指定の白いカッターシャツの上に、夏だというのにパーカーを着た男子だった。フードを目深にかぶって、顔はよく見えない。
「法的に許されているだけの火遊びだからなー。最悪、火事になる」
「やめろよ。校舎に火がついたりなんかしたら、今度こそ理事長に言い訳できなくなる」
「ちょっとあなた方、私に対して信用が無さ過ぎませんか!?」
「まあまあ、コーデリア。遊び方は私がちゃんと教えるから……」
静花らは話に夢中で、その生徒のことは気にも留めなかった。
彼らが通り過ぎた後で、フードをかぶった生徒はふと足を止めた。振り向いて彼らの背中をじっと見ると、小さく笑みを浮かべたのだった。
「僕はこれで片付いたけど、小蝶の方はどう?」
他の役員が出ていってから10分もしたところで、優人はチェックの終わった書類をレターケースにしまって立ち上がった。
「あっ……はい!今終わったところですっ」
小蝶は慌てて広げていた資料をまとめてトレイに放り込む。
今、終わったなんて嘘だ。本当はただ二人きりになるためだけに、中身がまったく頭に入ってこない資料を開けたり閉じたりしていただけだ。
「じゃあ鍵を締めるね」
そんな小蝶の思惑も知らず、優人は先に部屋を出るよう促す。
小蝶が鞄を肩にかけて廊下に出ると、優人はざっと室内に忘れ物や片付け損ねた者が無いか確認し、電気を消して外から施錠した。
優人が鍵を引き抜いた手元から顔を上げると、小蝶はまだその場にいた。所在なさげに窓の外を見ている。
「わぁ、やってるね」
優人が彼女の視線につられるようにして窓の外を見て、歓声を上げた。
ここの窓からは中庭を見下ろすことができる。芝生に覆われた中庭は中央に設えられた噴水の周りに石畳が敷かれて広場のようになっている。そこで生徒らがロウソクとバケツを用意して、花火に興じていた。
コーデリアが派手な火花にはしゃぎまくり、それを静花と一法がはらはらと見ている。他にも思ったよりたくさんの生徒が集まっている。おそらく先程の会議の参加者や部活でまだ残っていた生徒達だろう。皆、とても楽しそうだ。
「校内で花火なんかやって本当に良いのかしら」
「そこはきっと一法君が学校側に許可を取ってると思うよ。彼はそういうところ、しっか りしてるから」
さあ、僕らも早く行こう、と優人が歩き出したところで、
「会長」
と後ろから声がかかった。
「どうしたの?小蝶」
優人が振り返る。
黄昏時の薄暗い廊下。少し離れた所に、小蝶が俯きがちに立っている。彼女は肩にかけた鞄の持ち手をぎゅっと握りしめていた。
「あの……好きです」
優人は目を見開いた。




