↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/100

小蝶、告白する5

「もうっ、先生ったら説教が長いですわっ。何で提出期限を守れなかったかですって?そんなの問題集に出てくる『こころ』の男二人のクズっぷりに嫌気が差したからですわ!勝手に女を取り合ったあげく、その女を幸せにすることも無く両方とも勝手に死んでいくなんて!あまりのどうしようもなさに問題集を放り出していたら、そのまま期限が過ぎていただけなのに……って、どうしました?二人とも」

 登場するや否や一人でぷんすこしていたコーデリアは、静花と小蝶が微妙な顔をしてこちらを見ているのに気がつき、首を傾げた。

「何でもない。この暑いのによくそんなに騒げるなって呆れてただけ」

 小蝶が素っ気なく言って、コーデリアが「顔を見るなり何なのですか!?」と怒りの矛先を教師から彼女へと変えた。

 慌てた静花がコーデリアの意識を逸らすべく、

「コーデリア、資料完成したよ」

と資料の束を差し出す。小蝶の口調がいつにも増してピリピリしているのは、コーデリアが登場するまでの経緯を考えれば仕方がない。

 静花の狙い通りコーデリアはすぐに関心を移した。

「ありがとうございます、シズカ。任せてしまってごめんなさい……ところで、これは?」

 受け取ったコーデリアが机の上のおもちゃを見て、不思議そうな顔をしている。

「ああ、それは「黒ひげ危機一発」って言って…………」

 さらにそこに、

「ごめん、思ったより遅くなった。会議の準備の方は問題ないかい?」

と、さすがにコーデリア一人で資料準備をしていることに不安を感じていたらしい優人と、

「生徒会室は涼しくて最高だな~。ここまで暑くて死にそうだったわ~」

と制服のシャツを汗でびっしょりにした友晴も到着する。

 小蝶は、

「会長、お疲れ様です。準備の方は問題ありません。友晴、あんたは遅すぎ。暑いのは夏のせいじゃなくて寝坊して走ってここまで来たからでしょ」

と完全無欠な挨拶をした上で、

「それでは私は先に会場のセッティングしに行ってますから」

と言って一人、生徒会室を出ていった。

 会議は2階の多目的室で行う予定だった。今日は参加人数が多いから、机と椅子を動かすのも大変だろう。

「あ、僕も行く……」

 優人が急いで鞄を置いて追いかけようとするのを、

「会長、資料は完成してるんですけど、念のため見てもらえませんか?ほら、第三者チェックということで!基山君も!」

と静花が強引に引き留めた。

 おそらく小蝶は今、一人になりたいのだろうと思ってのことだった。もっとも一人で全部の机を動かすのは厳しいから、ほどほどのところで追いかけなければならないが。

 優人と友晴は滅多に聞かない静花の大きな声に、驚いて「わ、わかった」と素直に彼女に従ったのだった。



* * *



 多目的室にはちらほらと会議の出席者が集まり始めていた。

「一法君。久しぶりだね」

「おう、プール以来だな」

 優人が嬉しそうに声をかける。

 生徒会役員は皆、黒板の前で集まって待ち時間を潰していたが、一法が入ってくるとわっと取り囲んだ。

「まさか岩水が文化祭委員になるとはなー」

「クラスで手を上げたとき、皆驚いてましたわ」

と友晴とコーデリアが口々に言うが、小蝶も同じ気持ちだった。

 今年の文化祭委員名簿で岩水一法の名前を見つけたときには、かなり意外に思ったものだ。

 一法は日本有数の企業グループであり、この学園を創立した岩光グループの創業者一族、岩水家の本家の長男だ。本人も学業も運動もそつなくこなすし、他の生徒と比べても存在感がある。

 つまりわざわざ表に出たり目立つことをやって、誰かに自分の価値を認めさせる必要がないのだ。

 そういう人間が2組の文化祭委員に立候補したのである。

 さんざん周囲からの奇異の視線を受けて、一法はやや面倒くさそうに、

「まあ、いろいろ思うところあってな。一度くらい挑戦してみてもいいかなって」

と言うだけだった。

「挑戦?それどころか完璧にこなしそうだけど」

「そう思ってくれると助かる」

 小蝶が思ったままに言うと、一法は顔を緩ませた。

「岩水君がうちのクラスの文化祭委員で良かったよ。これからよろしくね」

と静花が言う。

 その顔にさっと暗い影が横切ったのに小蝶は気がついた。理由はすぐ見当がついた。

 一法が「ああ、任せとけ」と弾んだ声で応える後ろを通った人物。長い髪をなびかせた垂れ目がちの美人の名前を、小蝶は既に名簿の中で見ていた。

 井本春華。

 静花の同い年の「妹」だった。

 彼女は1組の文化祭委員に選ばれていた。

 静花と春華の血のつながらない姉妹という関係性は、別に二人とも隠してはいなかった。それなりに物珍しいことだったから、生徒らの噂話に時折上がった。だが話題になるのは圧倒的に美人の妹の方で、地味な静花は「あの春華さんのお姉さん」という程度の扱いだった。

 静花が生徒会室でたまにこぼす言葉から、決して仲が良いわけではないのだろうということは推測していた。

 静花が生徒会役員で春華が文化祭委員である以上、今後一緒に活動することも出てくるだろう。小蝶は少し心配になったが、静花は隣にいたコーデリアに話しかけられてすぐにいつものように笑った。その様子を見て「意外と大丈夫かもしれない」と考え直す。今の静花なら、きっと。



 文化祭委員と生徒会の初顔合わせにあたる今日の会議は、午後4時から始まった。こんな中途半端な時間になったのは、部活動のある生徒に対する配慮によるものだ。

 8月も終わりに近づき、少し早くなった日没の日差しが差し込む多目的室で、優人の進行のもと参加者全員の短い自己紹介が行われる。

「文化祭で展示部門の責任者を務めます、青井小蝶です」

 小蝶が立ち上がって一礼する。

 文化祭は大きく分けて2部門から成る。校内にある劇場で劇や演奏などの発表をするステージ部門と、各クラスの教室で出店や作品の展示などを行う展示部門だ。小蝶は優人から後者の方に指名された。

 他の参加者も次々と立ち上がり、自身の役職を告げていく。優人はその一つ一つに頷いてメモを取っていた。

 その横顔を見ながら、小蝶の心は一年前へと飛んでいた。


* * *


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。