小蝶、告白する4
ランダムに縦長の穴が空いた樽。そこから首を出した、眼帯にバンダナをした黒ひげの人形。そして脇に積み上げられたカラフルなプラスチックの剣。
言わずと知れた国民的パーティーゲームである。
小蝶はこれを先程の廃棄予定の段ボールの中から引っ張り出してきたらしい。
「え……これを?」
「そ。ルールはわかっているわよね?」
小蝶の意図が読めず、静花は戸惑う。
会議が始まるまでの時間つぶしというわけでもあるまい。もしそうだったとしても、あまりにも小蝶の目が真剣すぎるのだ。
「ええと、剣を交互に差して飛び出させた方が負けなんだっけ?」
「最近は飛び出させた方が勝ちってルール変更しているようだけどね。でも「負け」にする方が私達の世代には馴染みがあるし、そっちでいきましょ」
「でも、どうして……」
「私はこれであんたに勝ったら、会長に告白するわ」
「……!?」
静花は息を呑む。
小蝶は固い声のまま続けた。
「あんたの方は何も考えず相手してくれれば良い。私が覚悟を決める理由が欲しいだけ。験担ぎのようなものよ。悪いけど付き合ってもらうわ」
「で!でもっ。そんなの嫌だよ。小蝶さんの大事な決断に、私が関わるなんて……」
小蝶が強引に話を進めるのに対し、静花が慌てて異議を唱える。
小蝶が優人に告白するかどうかを自分とのゲームの勝ち負けが左右するなんてとんでもない。あまりに荷が重すぎる。
「嫌なの?それじゃ仕方ないわね」
小蝶は小さく首を傾げて、その辺にあった付箋を手に取った。その一枚を剥がして、ボールペンで「コーデリア」と書き込むと、黒ひげの人形の額にぺたりと貼った。
「これをコーデリアだと思いなさい。コーデリアを吹っ飛ばさないように、真面目に取り組むのよ」
横暴!横暴である!
「そっ、そんなぁ~……」
未だ生徒会室には静花と小蝶の二人しかおらず、助けを求める相手もいない。眼帯で半笑いを浮かべる「コーデリア」……もとい黒ひげの目がこっちを向いていて、静花は半泣きになった。
事ここに至ってもはや小蝶のゲームから逃れる術はないのだった。
「最初はあんたからで良いわよ」
「うう……」
静花は呻きながら、一番手近なところにあった赤い剣を取って樽に差し込む。人形は動かない。
続けて小蝶も一本差し込んだが、動かなかった。まだ一巡目だから当然だろう。
静花は二本目に黄色い剣を選びながら、小蝶の方をちらりと見た。
彼女はおおよそパーティーゲームに向けるものとは思えないまっすぐな眼差しを、このおもちゃに対して向けていた。
熱くて、それでいて冷たい、悲しいけど嬉しい、苦しいけど幸せな、そんな不安定な瞳の色合い。恋をする人間のそれだった。
静花が小蝶と初めて会ったときから、彼女が優人のことを好きなのは明らかだった。小蝶が優人のことを慕い、彼の役に立てるよう熱心に活動に取り組む姿は静花にとって好ましくすらあった。小蝶は静花が同じ相手を好きだからといってつらくあたるようなことは無かったし、業務では惜しみなく自分の知識を分け与えてくれた。コーデリアとは別の意味で信頼していたし、そう……好きな、人間だった。
ここまで考えて静花はふと気がついた。
少しおかしい。自分は優人のことが好きなのに、今まで一度も小蝶をライバルとして捉えたことが無い。その上、小蝶が「優人に告白する」と言い出したのに対して怒りも焦りも起こらなかったのだ。
静花が混乱する中、気がつけばゲームはもう5巡目に達していた。
集中しなければ。でないと「コーデリア」を吹っ飛ばしてしまう。
静花は緑の剣を選んで、空いた穴に差す。無風。
次に小蝶が剣を差す。これもやはり無風。樽に空いた穴は残り少なくなってきていた。
だがなおも静花の頭の中はぐるぐると混乱していた。
おかしい。告白の是非を占っている小蝶があんなに真剣な顔をしているのだから、静花だってもっと真剣にならなければならないはずだ。それなのにこのゲームに熱心になりきれない自分がいる。
もし小蝶がこのゲームに勝って、優人に告白して、優人がその告白にOKしたなら、それが静花の恋の終わりになるのに。なのにどうしてこんなにも「普通」なのだろう。
私は、本当は、会長のことが好きでは、ないのでは――――…………?
機械的に選んだ青い剣。それを静花が目についた穴に差し込んだ、そのとき。
ぽ――――――――――――――――ん、と。
「コーデリア」が天井高く飛んだ。
「ああああああああああっっ」
我に返った静花が、飛びすぎて机を超えて床に転がった「コーデリア」にすがりつく。
「コーデリア――――――――――――!!」
「いや……、のめり込みすぎでしょ」
小蝶は「コーデリア」の付箋を貼った当の本人ながら、若干引いていた。
「まあ、いいわ。付き合ってくれてありがとう」
床に這いつくばる静花の肩をぽんと叩く。
「小蝶さ……」
静花が振り返ったところで、
「シズカ!戻りましたわよ――――っ」
コーデリアが勢い良く扉を開けて生徒会室に飛び込んできた。




