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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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小蝶、告白する3

「よし、チェック完了!」

 静花が原稿の束を持ち上げて、コピー機へと向かう。

「1、2年4クラスに2部ずつ、16の部活向けに2部ずつで、全部で48部刷れば良いんだったよね?」

「惜しい。私達の分忘れてる。生徒会役員5人分」

「あっ、そうだった」

 静花が気にした風もなく笑ってタッチパネルを操作した。夏休み中で長く眠っていたコピー機が重たげな作動音を響かせて目を覚ます。

 静花が原稿をセットすると、刷り上がったページが次々に吐き出される。小蝶はそれを受け取るとページごとに机に一枚ずつ並べて重ねて、最後にまとめて冊子を作れるようにした。

 生徒会室のコピー機は随分と年季が入っており、自動送り装置が動かなくなっている。そのためいちいち原稿ガラスに原稿をセットしなければならない。おまけに印刷速度もゆっくりだ。次のページが刷り上がるまでに小蝶が書類を並べるのも追いついてしまった。

 少々手持ち無沙汰になって目を上げると、教室の隅に「廃棄予定」とマジックで書かれた段ボールが置いてあるのが目に入った。

「ああ、それ。この間の書庫整理のときに出てきたものだよ」

 同じように退屈していたらしい静花が小蝶の視線に気がつき、教えてくれる。先日、生徒会でプールへ遊びに行く前に、書庫という名の魔窟を掃除したところ出てきたガラクタが詰め込まれているらしい。

「へぇ……」

 小蝶は箱の中を覗き込んだ。

「うわ……、トランプにUNO、オセロ、黒ひげ危機一発にツイスターゲーム……全部遊び道具ね。これはこのままゴミ捨て場に出したら学園側から怒られるやつじゃない」

 岩光学園は比較的校則が緩いとはいえ、この手の遊び道具は校内への持ち込み禁止となっている。そんなものが堂々と学園内に捨てられていれば、問題になること間違い無しだ。既に卒業した生徒会役員らが隠したか、あるいは後輩達が遊べるようにと残したらしいが、小蝶らにとっては良い迷惑である。

「うん。だから会長も「何か他のゴミに紛らせて少しずつこっそり捨てるしかないね」って言ってた。欲しいものがあったら持っていっても良いって」

 そう言って静花はコピー機の本体トレイを覗き込んで、刷り上がったページを取り出した。

 新しい原稿をセットする彼女の後ろ姿を小蝶はぼんやりと見ながら、

(コーデリアも成長したけど……、この子も相当成長したのよね…………)

などと感慨にふけった。

 初めこそコーデリアの後ろにひっついてびくびくしているばかりで、正直なところ「使い物にならなさそう」というのが第一印象だった。ところが自分に自信がないからこそ人一倍努力するタイプのため、どんな仕事も嫌がらず取り組むし、できる限り良いものに仕上げようとする。今ではなくてはならない戦力となった。

 というか、静花が一番すごいのはコーデリアや小蝶のような気も癖も強い人間達と衝突せず上手く付き合えるところではないだろうか?

 そんなことを小蝶は最近考える。

 そして、彼女もまた。

「……ねぇ、あんたって会長のこと好きよね?」

 小蝶の問いかけに、静花はばっと顔を振り向かせた。

「えっ、え、え、え、ええっ!?な、なんで」

 顔が真っ赤だ。それどころがぶるぶる震えて泣きそうになっている。

 小蝶は少し反省した。静花とはそこそこ親しくなったつもりでいたが、それでもこんな無遠慮に聞くことではなかったかもしれない。

「そんなに怯えなくても良いでしょ。別に、確認してるだけよ」

 あくまでも雑談の一つであって他意はないと言い聞かせる。

 だが静花は随分と重く受け止めたらしい。考えてみれば小蝶がこんな話題を静花に振るのは初めてだったから、当然だろう。うろうろと視線を彷徨わせたあげく、両手をお腹の前でぎゅっと握りしめて、

「好き、なんだと、思います……多分」

と絞り出すように言った。

 そこではっと気づいたように、

「で、でも!それで生徒会活動をおろそかにするようなことはしませんからっ」

と続ける。

 小蝶がこんなことを聞くのは、静花が優人への恋心を優先してちゃんと業務をしなくなるのではないかと疑っているととったらしい……まるで先程、小蝶が教室でクラスメイトから言われたように。

「わかってる。あんたはそんな子じゃない」

と、小蝶は静花に頷いた。

 静花のことは信用している。本人の言うとおり、優人に対する恋愛感情を持ちながらも仕事に影響させることなく、きちんとやりきるだろう。それは今までの彼女の姿が示している。

 だが自分は?

 小蝶は第三者として見た静花のことは信用できても、主観である自分のことはわからない。

 本当に自分を客観視できる人間なんて存在しない。小蝶自身は私情を挟まずに仕事をしているつもりでも、周りから見ればそうじゃないかもしれない。例え今、この恋に振り回されていなくても、未来に振り回されて、他人に見苦しいところを見せるかもしれないのだ。

 微妙な空気の漂う中、全ての印刷が終わった。

 刷り上がったページをホッチキスで留めて人数分の資料を完成させると、今度こそ二人ともやることが無くなってしまった。

 会議まではあと一時間もある。コーデリアはまだ戻ってこないし、優人、友晴も登校してこない。

 静花は「私、なんか間違えたかな……」とぐるぐる悩みながら、いつもの席に座って所在なさげに資料をめくったりしていた。

 そこにずっと黙っていた小蝶が、

「ねぇ、静花」

と声をかけてきた。

「は、はいっ」

 静花は思わず背筋をはねさせる。

 小蝶が彼女の向かいの席に座り、

「一つ、ゲームをしてみない?」

と言って、ある物をゴトリと机の真ん中に置いた。

 静花は正面からまじまじと小蝶の緊張した顔を見た。

 そして二人の間に鎮座する――――「黒ひげ危機一発」を見た。

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