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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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小蝶、告白する2

(本当に、あいつら、好き勝手言って……っ)

 小蝶はずかずかとすさまじい勢いで廊下を進んでいた。顔こそ真顔だが、心の中は嵐が吹き荒れている。

(あんな自分勝手な奴らに、私の何が、生徒会の何がわかるって言うのよ)

 小蝶はクラスメイトが嫌いだった。

 彼女は良く言えば真面目、悪く言えば頭の固いタイプの人間だ。誰もが気持ちよく過ごすために規則は守るべきだし、多少の我慢は必要だと考えている。だから先程の教室にいたような、享楽的で、自分達さえ良ければそれで良いという人間達が大嫌いだった。

 そんな連中が、生徒会を馬鹿にするのは我慢ならない。

 生徒会活動というと華やかなイメージがあるが、実際はほとんどが裏方の仕事だ。一般の生徒らが快適な学園生活を送ることができるよう設備や環境を整え、彼らに活躍の場を提供するために行事や式典を運営する。そのために膨大な量の書類作成、終わらない打ち合わせや会議、生徒や教師との粘り強い交渉といったことを一年中やっている。

 優人の生徒会が始動したばかりの頃は優人、友晴、小蝶のたった三人で。今は静花やコーデリアも一緒に。

 忙しいし、決して楽しいばかりではない。それでも学園のために……ここにいるたくさんの生徒のために真剣に取り組んできたつもりだった。

(こんなに真剣にやっているのに)

 生徒会室の前にきて、足を止める。

 白い引き戸には何年か前に卒業した役員が手作りした木製の「生徒会室」というプレートが付けられている。これまで毎日のようにくぐってきた扉だ。

(それでも周りには私が「日多木くん目当て」でやっている色ボケに見えるのか……)

 引き手に手をかけ、うなだれる。

 あの時、怒りが抑えられなかったのは生徒会活動が馬鹿にされたと感じたからだけじゃない。相手の言葉がまったくの見当違いというわけではなかったからだ。

 実際、小蝶は優人が好きだったから生徒会への誘いを受けた。優人に頼りにされて嬉しいから、生徒会活動を頑張ってきたのだ。

 自分が生徒会活動に真剣に取り組んできたという自負はある。

 だがそこに少なからぬ恋愛感情が絡んでいることが、自分の活動に対する純粋性を汚しているように思われて、彼女を憂鬱にさせる。

(会長のことが好きな私は、結局、教室にいたあの子らと変わらないのかもしれない)

 真面目に学園のために働いているような顔をして、優人に気に入られることを考えている。優人に好きになってもらうために、生徒会活動を利用している。

 否定できない下心。それがある限り、ずっと後ろめたいような気持ちが小蝶につきまとうのだ。

 教室になんか行かなければ良かった。まっすぐ生徒会室に行っておけばこんな嫌な思いをすることもなかったのに。

 いつまでもこうしているわけにもいかないので、深呼吸を一つして切り替え、扉を開ける。

「あっ、小蝶さん。こんにちはー」

 生徒会室の机には静花が一人座って、書類を広げていた。

「静花だけ?コーデリアは?」

 小蝶が室内を見回す。

 この後に予定している文化祭に向けた会議で配る予定の資料作成はコーデリアが担当していた。書類の最終チェックと印刷のために会議前に早めに生徒会室に来ているはずだったが、彼女の姿は見えない。今いるのは、手伝いとして一緒に登校したのであろう静花だけだ。

 ちなみに優人は家の用事で登校は少し遅くなるとあらかじめ連絡を受けている。小蝶の近所に住む友晴は彼女が通学中に家の前を通りがかった時点で、庭で水をまいていた彼のお母さんから「まだ寝てる」と聞いた。会議前ぎりぎりまで惰眠をむさぼるつもりだろう。だからこの時点で登校しているのは小蝶と静花、そしてコーデリアの三人であるはずだった。

 静花が困ったように笑って答える。

「コーデリアは職員室だよ。この間の登校日に提出しなきゃいけない課題を一つ忘れちゃったみたいで。それがよりにもよってうちのクラスの担任が教えている現国の課題だったんだよね」

 期限を延ばして今日までに持ってくると約束して一度は許されたものの、案の定、コーデリアはまた忘れた。そういうわけで生徒玄関で待ち構えていた教師によって職員室に連行され、夏休みだというのに急遽面談が設けられることになったのだという。

 小蝶は可哀想に思った。もちろん仕事を増やされた、コーデリアのクラスの担任に対して。

「何やってんのよ、あいつは……」

 小蝶がぼやきながら、いつも自分が座っている椅子に鞄を置き、静花の背後に回って彼女の手元をチェックする。

「コーデリアのことだからまだ資料ができてないんじゃないの?貸しなさい、手伝うから」

 コーデリアはこの手の書類仕事が苦手だ。どうせ当日になっても終わらず学校で静花の助けを借りて完成させようとしていたところで教師に捕まり、残った静花が作業を引き継いでいるのだろう。

 そう考えて机の原稿を手に取ったが、見る限り不足は無い。小蝶は目を白黒させた。

「それが資料自体はちゃんと完成してるの。あとは本当に誤字脱字のチェックくらい。でもそれもすぐ終わって、印刷できるよ」

と静花。なんだか嬉しそうだ。

「ふふ、意外でしょ?でもコーデリアはこっちのことで頭いっぱいになっちゃって、現国の課題の方は頭から飛んじゃってたみたい」

「生徒会活動も学業も両立とはいかないようだけど……成長はしてるのね」

 小蝶は素直に感心した。先程の自分のクラスでの女子達の言いようを思い出す。ほら見ろ。あんた達が男目当てと笑っていた問題児のコーデリアですら、一生懸命に取り組んでいて、今や一人で会議資料を完成させるまでになってるじゃないか。

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