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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、プールへ行く9

「た、助けて……」

 静花が真っ青になって助けを求める。

「静花、そいつ何なの!?」

 小蝶がこの場の全員が思っている疑問を投げかけるが、静花は首を振るばかりだった。

「わ、わかんない……お店の前でソフトクリームをつくってもらうのを待っていたら、後ろから口を塞がれて、目の前が真っ暗になって。気がついたらここまで連れてこられてたの…………」

 なるほど、と一法は合点した。おそらく静花は何らかの方法で気絶させられ、その状態でウォータースライダーの頂上まで運ばれたのだろう。そして今になって意識を取り戻し、叫び声を上げた。道理でここまで彼女が騒ぐことも無く、連れ去られたことに誰も気づかなかったわけだ。

 パーカーの男はしばらく黙って地上の反応を見ていた。一法らがどう手出しをしたものかと迷っている様子を見て取ったらしい。フードの下から見えている口元をふっと歪めると、ポケットからナイフを取り出した。

「ひ……っ」

 至近距離で刃物のきらめきを目にした静花は、顔を引きつらせた。

 ここでコーデリアの我慢が頂点に達した。

「シズカ!今、助けますわっ」

「あっ、おいっ」

 一法の制止する声も届かず、彼女は飛び出した。巻きタオルを翻し、プールサイドを走り、そのままウォータースライダーの着水プールを――――、水面上を全力疾走する。

「えっ、あいつ水の上を歩いてない!?」

「そんな馬鹿なっ」

 小蝶と友晴が目を剥いた。

 コーデリアは水の妖精なので、水辺を渡るにもわざわざ泳ぐ必要など無い。水の方が彼女の足下で固体化し、その一歩を支えてくれるのだ。

 そんなことを知るよしも無い一般人に、

「コーデリアは右足が沈む前に左足を前に出している……それで水の上を走ることができているんだ!」

 一法が全力でごまかす。

「なるほど、コーデリアの運動神経ならできそうな気が……」

「いや、無理ですって!」

 うっかり納得しかけている様子の優人に、小蝶はたまらずツッコんだ。

 そうしているうちにもコーデリアが水しぶきを上げながらウォータースライダーの基部に到達する。

 その瞬間、一気に彼女の足下から上へ向かって水が噴き出した。

 水の勢いに乗って彼女は垂直に飛び上がる。まるでロケットの射出のように、スライダーの頂上にいる静花の元へとまっすぐ向かう。

「今回の改修で、スライダーの周囲に噴水を設置したんだ。コーデリアはその水圧で飛んでいるんだな!」

 もちろん彼女は自身の魔術で水を操っているわけだが、一法は今度も無理矢理ごまかす。

「人間一人吹き飛ばすほどの水圧の噴水なんか設置していて大丈夫か!?」

「コーデリアなら大丈夫でしょ」

「お前、いきなり手のひら返したな!?」

 友晴が驚愕するが、小蝶の方は打って変わって冷めた顔だ。

「いくらコーデリアが頑丈でも、さすがに人間が吹き飛ぶ噴水は危険だと思うよ……コーデリアのおかげで再開前に改善点が見つかって良かったね」

「お前もコーデリアに対して変な信頼があるな……」

 わけのわからない状況を受け容れ始めたらしい優人もそんなことを言っているので、友晴はげんなりした。

「シズカっ」

 ついにコーデリアがウォータースライダーの頂上へと降り立った。

 パーカーの男は静花を放り出して、コーデリアの眼前へと迫った。

「きゃあっ」

 勢い良く手放された静花はその場に尻餅をついた。

 一方で男はコーデリアに向かってナイフを突き出し、彼女は間一髪でそれを避けると拳を彼の鳩尾に叩き込もうとする。

 が、彼は左手でその拳を受け止めたかと思うと、そのままコーデリアの腕を引いた。

 バランスを崩したコーデリアだったが、空いている方の手で鋭く男のナイフを持っている手首を打ち払った。

 ナイフが飛んで遙か下のプールへと落ちる。

 彼女はそのまま地面に引き倒されて転がるも、受け身をとってすぐ立ち上がった。

 男は彼女が体勢を立て直す暇もなく再び拳を打ち出すが、彼女もどうにか応戦する。

 水の妖精と推定魔術師という魔術を使う者同士の戦いと思えぬ、肉弾戦となった。

「あわ、あわわ……」

 ウォータースライダーのスタート部は決して広くはない。三人もいればいっぱいの場所で間近で行われる激しい格闘に、静花はすっかり腰を抜かして隅っこで小さくなっていた。

「静花さん、降りてくるんだ!」

 地上から優人の声がした。殴り合いをしている二人のすぐ傍にいれば巻き込まれる恐れがある。パーカーの男が静花から意識を逸らしている間に逃げろというのだろう。

「そうだ、ウォータースライダーがあるだろ!?それで滑って降りてこい!」

 一法もまた静花に向かって怒鳴っている。彼の言うとおり、確かに目の前には円筒型のスライダーの入口があるのだが――――、

「え……っ、で、でも」

 静花はちらりと下を見る。着水プールにまで入ってきている優人と一法の姿がとても小さい。あまりの高さに彼女はくらっとした。

「む、無理……絶対無理っ。こんなの恐くて滑れない!!」

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