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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、プールへ行く8

「仲が良い……そうか?」

 一法は首を傾げた。

 年齢も少し離れているし、一般人の一法と魔術師である千絃とでは見ている世界がかなり違う。昔から親戚付き合いの中でそれなりに会いはしたが、一緒に遊んだような記憶は無い。まあ、気心は知れているかもしれないが。

「それに割と似てますわ」

「ど、どこがだ!?」

 コーデリアの言葉に、一法はびっくり仰天する。

「挙動不審なところですかしら」

「俺はあれほどじゃねぇから!」

 一法が力強く否定する。

 そりゃあ自分もテンパったときにおかしな行動をしていることがあるのは否定できない。だが少なくとも夜な夜な黒いローブを着て怪しい薬の入った鍋をかき回しているような千絃と、同列にされたらたまったものではない。

 これには他の三人も一法に同情の目を向けた。

 優人が苦笑いをしながら、

「なんというか……コーデリアは一法君に対して遠慮が無いよね。千絃さんに対してもそうだったけど」

と言う。

 脇で小蝶が「コーデリアは誰に対しても遠慮が無いでしょう」とぼやく。

「前から不思議に思っていたんだけど、そもそもどうしてコーデリアは千絃さんの家に同居することになったの?」

 優人が何の気なしに尋ねる。

 コーデリアは無言で一法の方を見た。彼女の表情が「何ででしたっけ?」と語っている。

 まさかゲームの世界から転生してきた悪役令嬢が、身寄りの無い無戸籍者なので仕方が無く身分をでっち上げて、いとこの家に住まわせることにしました、なんてことを正直に話すわけにもいかない。対外的にそれらしい説明は用意していたものの、意外にも今まで聞かれなかったので、一法すらその内容をすっかり忘れていた。

「あー、コーデリアはうちの父親の友人の弟がイギリス留学していたときに現地で通っていた日本料理店の常連の娘でな。コーデリアの日本留学が決まったときに、面倒を見てほしいと頼まれたんだ。それでちょうど部屋の空いていた千絃の家に下宿が決まったってわけだ」

 一法はかつて考え出したコーデリアの出自を頭の中から呼び起こしながら話した。

 誰かに疑念を持たれてもごまかせるような設定を考えたつもりだったが、我ながらちょっと複雑すぎるかもしれない。まずコーデリア本人が覚えられないようなら駄目だろう。一法は当時の自分の配慮の無さを反省した。

 そのコーデリアはというと、

「私は下宿人で無く主人……」

というところにだけ不満を呟いている。自身の設定については彼女の右耳から左耳へと抜けていったようだ。

 一法は構わず続ける。

「千絃も気難しい性分で初めはしょっちゅう喧嘩していたみたいだが」

「喧嘩ではなく指導……」

「最近はかなり打ち解けてきたみたいでな」

「力の差をわからせてやったのですわ」

「うん!女同士楽しくやってるみたいだよ」

 いちいち訂正を入れてくるコーデリアを適当にいなしながら、一法は強引にまとめた。「もうこれ以上聞いてくれるな」と言わんばかりである。

 一法のその願いが通じたのか、優人もまた、

「なるほど。家族みたいなものなんだね」

と、良い感じの理解を示してくれた。

 コーデリアが神妙な顔をして、

「家族……」

と呟いた、その時。


 きゃぁ――――――――っっ


「シズカの声ですわっ」

「井本!?何だ?どこだ!?」

 コーデリアと一法が聞き覚えのある叫び声に、弾かれたように立ち上がり、周囲を見回す。

「見て!あっち!」

 小蝶が目を見開いて、指を差した。

 彼女が指し示したのは天高くそびえ立つウォータースライダー<リヴァイアサン>。

 その頂上に静花はいた。

 背後から見知らぬ人物に抱え込まれて。

 彼は黒いパーカーのフードを目深にかぶって、地上からはよく顔が見えない。「彼」といえるのは、静花より一回り大きな身長や体格からおそらく男性と見て取れるからだ。

 男の力は相当強いらしい。静花がどうにか振り払おうと身をよじらせるも、片腕一つで平然と彼女を捕まえたままぴくりともその場から動かない。

「静花さんっ」

 思わぬ光景に、優人が焦った顔で名前を呼ぶ。

「何だあいつ、岩水の知り合いか?」

 友晴はとりあえずこの施設の関係者である一法に状況を確認しようとする。

 彼は普通に遊んでいてこんな事件に遭遇するなんて想像もできず、ここのスタッフの手違いや勘違いによって引き起こされた状況ではないかと疑ったのだ。

 一法は、

「いや……、あんな奴は知らない」

と内心の混乱を抑えながら応える。

 一瞬言い淀んだのは、千絃の話を思い出したからだった。彼女の屋敷に侵入したという不審人物が、まさかこの場にも現れたのだろうか。ちらりとコーデリアの方を見やる。

 普段は猪突猛進なコーデリアだが、今はどう動いたものか決めかねているようだった。下手に動けば静花に危害を及ぼしかねないからだ。

 彼女の様子を横目に見つつ、一法もまた必死で考える。

 例の侵入者と同一人物なら、ほぼ間違いなく魔術師だ。魔術を使う相手に、使えない人間が対抗などできるわけもない。

 だがここにいるのはコーデリア以外一般人ばかりだ。魔術とは基本的に社会から隠されるべきもの。

 彼らの前で奴は果たして魔術を使うだろうか?


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