悪役令嬢、プールへ行く6
一方で女子三人はパニックに陥っているコーデリアを静花と小蝶の二人がかりで抑えに掛かっていた。
「そもそもプールが男女混浴だなんて聞いていませんわっ。男性の水浴び場と女性の水浴び場は分けて1キロメートルは距離を開けておかなければならないものでしょう!?」
「温泉みたいに言うな。それにあんたはいつの時代のどこの国の人間よ?何も知らずに「プールに行きたい」って言ってたわけ?」
コーデリアは18世紀ヴィクトリア朝時代のイギリス風世界観ファンタジー乙女ゲームの国出身だ。彼女の感覚は小蝶の理解の範囲を超えている。
「常識的に考えて、こんな破廉恥な場所が雑誌で推奨されていると思わないじゃないですか……」
「徹頭徹尾、常識なんか無い奴が「常識的に」とか言うんじゃないわよ……」
こめかみを揉む小蝶。処置無しといった態である。
平行線をたどる二人の間に、静花が「まあまあ二人とも」と割って入った。
「コーデリアもタオルの下にその水着を着てるんでしょ?私、コーデリアの水着姿見たいなぁ」
「シズカ……」
安心させるように微笑む静花に、コーデリアが心をぐらつかせる様子を見せた。
「で、でも。こればっかりはシズカの頼みでも聞けませんっ。こんな破廉恥な姿、シズカには見られたくない……!」
胸元のタオルをぎゅっと握って背を向ける。
「コーデリア……」
このかたくなな様子では説得は難しいだろう。さすがの静花も強要はできないと判断した。ただ一言だけ忠告する。
「でも今の格好は、それはそれで千絃さんとお揃いコーデみたいだよ……」
「屈辱!!」
コーデリアはプールサイドに頭をぶつけんばかりに突っ伏した。
「友晴、そっち行ったわよっ」
「任せろっ」
「井本、取れるか?大丈夫か!?」
「だいじょう……あ、あ~ごめん」
生徒会役員と一法はまずは造波プールでさんざん波に逆らって遊んだ後、流れるプールを浮き輪やらビニール製のアヒルさんに乗って5、6周した。そして今はウォータースライダーの膝元のメインプールで、男女混合のビーチバレーめいたことをやっている。小蝶・友晴対静花・一法というチーム分けだが、水の中でネットも無くやっているので、ちゃんとした勝負というわけでもない。
その様子をコーデリアはプールサイドで見ていた。相変わらずタオルをかぶったまま。三角座りで。人種的に言えばこの六人の中で一番大人びて見える彼女だったが、この姿はどうにも小学生めいて見えた。
「つまらなくないかい?」
その言葉と共にドリンクが差し出される。優人が人数分のドリンクとフライドポテトなどの軽食の入ったカゴを片手に隣に立っていた。
「いいえ。シズカが楽しそうなら、私は楽しいです」
カップを受け取りなら応えるコーデリア。言葉とは裏腹に、少々すねた顔つきだ。
「あなたもあちらに加わってはどうですか?私のことはお構いなく。何なら一法と代わらせましょう」
「いつも思うけど、君は本当にすごいね……」
優人が苦笑いする。今回のプール企画の最大の功労者は一法であるはずなのだが、それを押し退けて優人にビーチバレーに加わらせようと言うのだから、彼女にも困ったものだ。
「何ですか、嫌味ならはっきり言ってください」
「いや、本当に感心しているんだよ」
優人の物言いにますますコーデリアがふくれる。今の格好も相まって、てるてる坊主がふくらんでいるようで、優人にはそれがおかしくて仕方がない。笑いをこらえながら、
「それよりもともとプールに来たかったのはコーデリアなんだろ?こういう所だったら水着の貸し出しもやっている可能性があるし、聞いてみたら?」
と言ってみる。
一番プールに来たがっていた人間が皆と一緒に遊べないでいるのはさすがに哀れだ。優人としても、せっかく来たからには全員に楽しんでほしい。
だが意外にもコーデリアは「良いんです」と言って、ぷいっと顔を背けた。
「問題は水着のことだけではないので……」
ぼそぼそと続けるコーデリアを優人が不思議そうに見ていると、
「お、優人。戻ってきたか」
と言いながら友晴がプールから上がってくる。
「ありがとうございます、会長っ」
小蝶がご機嫌で頭を下げる。ビーチバレーで思う存分身体を動かした後で、いつもより朗らかだ。
「お疲れ様。どっちが勝ったの?」
優人がドリンクを配りながら尋ねると、
「見ればわかるだろ、基山と青井の方だよ」
と一法。
「私達の運動神経じゃ、あの二人に勝つのは無理だよね……」
「やたらと息も合ってるしな」
まだ息が上がっている静花が苦笑いし、一法もそれに頷く。
「あら、あんた達も技術が追いついてないだけで息は合ってたと思うけど」
さらりと言う小蝶に、静花がぱっと顔を輝かせる。小蝶は滅多に人を褒めないが、それだけに彼女の言葉に嘘が無いことを静花はわかっていた。
「息は合ってたって!小蝶さんに褒められたよ」
「お、おう。やったな」
大喜びで一法に報告する。一法は彼女の嬉しそうな顔を見られたことで、内心大喜びした。




