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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、プールへ行く4

 ドーム型の巨大な建物が夏の強い日差しを受けて、白い外壁を眩しいほどに輝かせている。周囲を取り囲むポールに掲げられた色鮮やかな旗が、来る者を歓迎しているかのように軽やかに翻る。

 ここが<ウォーター・キングダム>。郊外に立地する、プールを中心としたレクリエーション施設だ。中には大小さまざまな温水プールに加え、ジャグジー、フードコートも充実している。

 午前中、汗と埃にまみれ何とか資料整理を終わらせた生徒会役員の5人は、学校で昼ご飯を食べた後にバスに乗り30分。ようやくここにたどり着いた。

「よっしゃぁ、プールだぜ!」

「遊びますわよ~」

「コーデリア、カバン!カバン忘れてるよ」

 元気よく車外へと飛び出すコーデリアと友晴。先程まで暑さと筋肉痛でぐったりしていたのが嘘のような勢いだ。

 静花が慌てて自分のカバンだけでなく、コーデリアのカバンも引っかけて後を追う。

 遅れて優人と小蝶がバスを降りる。

 小蝶は前を行く3人の騒がしさに眉をしかめつつも、

「ここ、小学生のときに来たことがあります。日本で五本の指に入るウォータースライダーがあるんですよね」

と話す声が弾んでいる。あれだけコーデリアに対し怒っていた小蝶だったが、やはりこういうイベントでは浮き立つ心を抑えられないようだ。

「へぇ。名前は聞いたことがあったけど、人気のレジャースポットなんだね……でもそれにしては人がいないような」

 優人が物珍しそうに周囲を見回す。

 小蝶は他3人がはしゃいで先を争うように走っていってくれたおかげで、優人の隣を歩くことができて浮かれていた。だが彼の言葉に幾分か冷静さを取り戻す。

 確かに優人の言うように、他の客の姿が見えない。そういえばバス停で降りたのも自分達だけだった気がする。

 嫌な予感がして入場ゲートをよくよく見ると、ど真ん中に休館日の立て看板が置かれていた。とっさに幹事のコーデリアに「営業日の確認をしてなかったの!?」と怒鳴りそうになったが、そもそも門が開いているのが不思議だ。

 目の前を行く3人は「休館日」の表示も見えてないようで、するりと看板を避けてそのままゲートの奥へと入り込もうとしている。

 まずは止めるべきかと小蝶が口を開いたそのとき、

「おう、良く来たな」

と脇から声がした。

「え……っと、岩水君?」

 姿を見せたのは、同じ学年の岩水一法だった。彼はラフなTシャツ姿で、その辺に置かれたベンチに座って雑誌を読んでいた。

 小蝶にしてみれば岩光学園創業者一族の人間ということで顔こそ1年生の時から知っていたものの、初めてまともに話したのは体育祭で一緒に昼食を取ったときだ。今でもあまり馴染みが無い。

 一番付き合いの長い静花がぱっと顔を明るくして駆け寄った。

「岩水君、わざわざ外で待っててくれたの?暑いから中にいてくれて良かったのに」

「俺が外にいないと入りづらいだろ」

 一法がそう言いながら立ち上がり、他の役員にも「どうも」と挨拶した。

「紳士としての振る舞いが身についていて、結構なことです」

 静花の背後で腕を組み満足げに頷くコーデリアに、

「お前はもうちょっと俺に感謝しろ」

と一法が悪態をつく。

「えっと、岩水君、これは……」

 コーデリア、静花、一法の様子に、優人はとてつもなく嫌な予感に襲われる。

 優人の戸惑いに気づかず、一法はしれっと言った。

「井本とコーデリアに頼まれてな、午後いっぱいここを貸し切った」

「「貸し切ったぁっ!!??」」

 小蝶と友晴が異口同音に声を上げる。

(ああ、やっぱり……)

 優人は頭を抱えた。

 うかつだった。コーデリアに企画を任せれば、こういう一学生の想定を超えるぶっ飛んだことをやってもおかしくはないとわかっていたはずなのに。プールの貸し切りっていくらくらいするんだろう?一法の口ぶりからすると彼が負担する気のようだが、生徒会の打ち上げを、役員でも何でもない人間の好意に頼るのはいくら何でもどうなんだ?それも明らかにとんでもない金額だ。この恩を返すためにはどうすればいい?

 悶々としている優人の様子にいち早く気がついた静花が、慌てて経緯を説明する。

「その、コーデリアとプールに行きたいねって話してたら、岩水君が「ウォーター・キングダムならうちの系列会社が運営してるから」って言ってくれて」

 コーデリアも静花に加勢する。

「ニュースでプールの映像を見ましたが、涼を求めてやって来た人で随分と混雑して、まるで芋洗いのようでしたわ。せっかく体育祭の慰労のためのプールだというのに、そんな所で皆さんを楽しませることができるわけがありません。ですからカズノリの申し出を受けたのです」

 コーデリアは皆のために仕方なく一法の提案に乗ったという態度だが、徹頭徹尾、自分が混雑した庶民のプールでなど遊びたくはないという貴族仕草である。

 一法は「別にお前に申し出たんじゃなく井本に申し出たんだが……」という本音はこの場では飲み込み、

「ちょうど改修工事で明日まで休館だったんだ。工事自体は終わっているから、今はもう好きに遊べる」

と付け加えた。

 企画担当達の説明を聞いても優人は気が重くなるばかりだ。

 だが、

「俺、貸し切りのプールとか初めてだ……!」

「前に来たときはウォータースライダーが長蛇の列で、滑れなかったのよね……今日はいけるってことよね」

無邪気に喜ぶ友晴と、こういう場なら真っ先にコーデリアを叱りつけるであろう小蝶がそわそわしている様子を見て、何も言うまいと結論した。

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