悪役令嬢、プールへ行く2
「とにかく賭け事はいけない。資料整理は皆でやればいいだろう?その方が速い」
そう断じる優人に、小蝶が眉を吊り上げて反論する。
「会長、コーデリアを甘やかさないでください。本人が言い出したことである以上、落とし前は付けさせるべきです」
小蝶にしてみれば自分がコーデリアとの約束を守って一生懸命勉強し、賭けにも勝ったのに、何の甲斐もなくこの件がうやむやになるのは気に入らない。
それに資料整理をコーデリアに任せようとしたのは、実は優人のことを思ってのこともあった。体育祭を終えて一息ついたものの、テスト期間が終われば今度は文化祭の準備がやって来る。そうなれば優人は生徒会長としてまた忙しくなるだろう。その前に一つでも仕事を減らせればと思ってのことだった。
資料整理は大量の紙類を段ボールに詰めたり棚から棚へ運んだりする力仕事であり、どうしても力のある男子役員の手が必要になってくる。だが女子にしてはやたら気力・体力・腕力のあるコーデリアに任せてしまえば、優人が働く必要もなくなると考えたのだ。
一方のコーデリアも優人の言うことを聞く気は無いらしい。
「コチョウに同意するのは気に入りませんが、彼女の言うとおりです。私とて矜持があります。負けたのに彼女のお情けで責任を免除されるなんて、もってのほかです。資料の整理はきちんと私の手でやり遂げますわ」
と、強い口調で訴えてくる。
だが優人は小さく首を傾げただけだった。
「本当に?書庫は魔境だよ?場所も狭いし歴代の生徒会役員にはおおざっぱな人もいて、規則もおかまいなしに無理矢理書類を棚に詰め込んでいたりする。その中でリストに沿って今年廃棄予定の資料を探すんだ。ちなみに中は埃まみれで制服がすぐに真っ白になるし、くしゃみが止まらない。あと既に卒業した生徒会役員が残したお菓子の袋みたいなゴミから漫画やゲーム機みたいな処理に困る遺物まで、厄介な物がところどころ潜んでいる。それが君一人の手に負えると思う?静花さんの力も借りずに?」
「で……できますわっ」
コーデリアの声に先程と比べて張りがない。いろいろ想像してしまったようだ。
「小蝶はどう思う?ただでさえ細かい作業の苦手なコーデリアだよ?リストに従って資料を探したり、整理したりできると思う?日本語が読めるのに読まないところあるのに?」
「できるわけないですね……」
顔色悪くあっさり認める小蝶に、
「ちょっと!あなたが折れてどうするんですか!?」
コーデリアの鋭い叱責が飛ぶ。
だが小蝶にこれ以上考えを翻す様子は無かった。あらためてコーデリアに整理を任せることがいかに現実的ないかに思い当たったらしい。
「はい、全員でやりましょう。会長判断です」
ぱんぱんと手を叩いて優人が宣言する。
コーデリアと小蝶は仕方なく頷き、静花と友晴はこの成り行きにほっと胸をなで下ろした。
珍しく厳しい態度をとっていた優人だったが、すぐに目尻を下げてこう続けた。
「あと、これは僕の方の落ち度だ。みんなあんなに体育祭準備を頑張ってくれていたのに、打ち上げの一つも思いつかなかったなんて……」
「会長は誰よりも忙しかったんだから、そんなこと気にしなくて良いんですよ。コーデリアは遊びたいだけなんですから」
「遊びたいだけとは失礼ですね。私は生徒会役員の親睦(主にシズカとユウトの)に役立ちたいのですわ。ね、打ち上げは良いアイディアでしょう?」
落ち込む優人を慌てて慰めようとする小蝶と、なぜか胸を張るコーデリア。
いつもの優しい会長に戻った優人は、「二人ともありがとう」と笑う。そして人差し指をぴんと立てた。
「じゃあこうしよう。午前中はみんなで一気に資料整理をやる。それが終わって午後に打ち上げとして遊びに行くんだ。資料整理の指揮は小蝶がとって、打ち上げの企画はコーデリアだ。二人ともどうかな?」
「わかりました。そちらは任せてください」
と小蝶が頷く。
コーデリアの方も、
「ええ、私とシズカで最高の打ち上げを企画しますわっ」
と胸に手を当てて豪語した。
静花もまた「お、お任せくださいっ」と拳を握りしめた。別に彼女は優人から指名されていない。だが小蝶とコーデリアの賭けのことをすっかり忘れていた負い目もあって、喜んで企画を手伝うつもりだった。
静花がコーデリアの勢いに巻き込まれるのはいつものことなので、他の役員もあえてツッコミはしなかった。とはいえ当たり前のようにコーデリアが、
「では最高に楽しく過ごせるプールを探しておきますわねっ」
と続けたときには、さすがに全員がツッコミを入れざるを得なかった。
「え?プール?それはもう決まってるんだ?」
「水着とか家にあったっけ……?」
「ちょっとコーデリア!企画を任されたからって勝手に決めてるんじゃないわよっ」
再びコーデリアと小蝶の言い争いが始まり、優人と友晴がそれをなだめる中、静花は「そういえば勉強会のときに雑誌でプールのページを熱心に見てたもんね……」と呟いた。




