悪役令嬢、テスト勉強する10
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裏口の扉を開けた一法は、ハーブガーデンの真ん中で立ち尽くす従姉妹の背中を見た。雨が降り出すのも構わず、そこから動こうともしない。
「何があった、千絃」
一法の声に、千絃がようやく振り返る。駆け寄ってみると、彼女は黙ったまま一法の手のひらに何かを落とした。
「何だ、これ?」
「マッチの燃え殻よ」
マッチは頭薬から軸木まで完全に燃え尽きており、黒くしなびて見えた。
「そんなものが何でここに?」
「侵入者の魔術に使われたようね」
「……誰かがこの屋敷に侵入しているのか?」
「多分、もういないわ。最初に侵入に気づいたときから新しい糸は切られてない。さっきから屋敷中の蜘蛛を総動員して屋根裏から庭の隅まで調べさせているんだけど、痕跡も残っていない。とっくに逃げたと見るのが妥当ね」
言われて一法が周囲をよく見ると、庭のあちらこちらに蜘蛛が歩いている。この屋敷に一体どれだけの数が潜んでいるのか、と一法は一瞬考えて、やめた。よそう、知っても何も良いことは無い。
千絃が腕を組んで、苛立たしげに地面を踏み鳴らす。
「しばらく前から気になっていたのよ。屋敷の周辺にも蜘蛛を放っているんだけど、それが何匹か潰されていたり。でも実際に侵入されたのは今回が初めてだわ」
「何のために?この家には価値のあるものなんかないだろ」
一法の言葉に、「失礼ね」と千絃は眉をしかめた。
「魔術師にとっては価値のあるもので溢れているわよ。でもまあ、おそらく狙いはコーデリアでしょうね」
「あいつがお前の言う模造生命って奴だからか?」
「ええ。わざわざ他の魔術師の領地に侵入してくる理由なんて、それくらいしかないわよ」
「井本と二人で置いてきたんだが……」
途端に一法はそわそわと後ろを振り返る。
問題が起こっているのは千絃のいる場所だと考えて、こちらに来てしまった。万が一コーデリアに何かあれば、静花も巻き込まれる可能性が高い。
「ああ、今回は大丈夫。もう蜘蛛にあの二人の無事は確認させたから」
と言う千絃の言葉にほっとする。
「でも」と、彼女は続けた。
「敵がどこから、うちに模造生命らしきものがいるってことを聞き付けたのかわからない。もしかしたらコーデリアについて、こちらが持っていない情報を持っている相手なのかもしれない。こういう状況だから、私の方もコーデリアを造り上げた魔術をなるべく早く調べようとしてたのよ。だってのにコーデリア本人はやる気が無いし、静花もゲームを貸してくれないし」
ぼやく千絃に、一法は「なるほどな」と頷いて、肝心なことを聞く。
「じゃあ今日侵入したそいつは今後もまた現れると思うか?」
「ほぼ確実にね。魔術師は執念深いのよ」
「ちなみにコーデリアにこのことは?」
「言わない。あの子、自分を狙っている人間がいるとわかっていて普段通りに行動できるタイプじゃないから。相手がどういう魔術師かわからない以上、こちらも気づいていないふりをしながら少しずつ探っていくのが得策だわ」
「わかった。俺も学園では気をつけておく。井本にも折を見てゲームを借りられないか、もう一度頼んでみるよ」
今後の方向性を確かめ合い、二人は強まる雨を避けて屋内へと戻っていった。
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