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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、テスト勉強する7

 静花もうっかりコーデリアが持ち出したライフスタイルマガジンの「この夏、仲間と過ごす思い出の場所」特集とやらに気を取られてしまっていた。真剣にコーデリアの成績について考えてくれている一法に対して申し訳なく、先程まで見ていた雑誌をそっと片付けようとする。

 だが静花が雑誌を取り上げる前にコーデリアはそれを広げて持ち上げると、嬉々として水着姿の女性陣がトロピカルなジュースを片手にポーズをとっているきらきらとした写真を指差し、

「私、この流れるプールとやらに行ってみたいですわ。これって海水浴場とは違うんですか?」

と尋ねてくる。無邪気な子供みたいで微笑ましいが、テストを控えた今、それどころではない。

 一法はそんな彼女に怒るでも無く、

「えっ、今から勝った後のことを考えているのか?そもそも現時点でのお前の成績じゃ間違いなく負けるよな?毎度毎度思うんだが、お前のその自信はどこから来ているんだ?」

とまともに困惑している。

「自信が無ければ勝負をしてはいけないわけではないでしょう?勝負すると決めれば、自ずから勝ちに行くことになります。自信など後からついてくるものですよ」

 意味も無く胸を張るコーデリアから一法は雑誌を奪って、ぱしりと彼女の頭をはたいた。さすがにそろそろ厳しくしないといけないと考えたらしい。

「なーんか良いこと言ってる風だが、それならまず勉強しろ。今日中に現国の試験範囲の問題を一巡するぞ。おら、ペンを持て。ドリルを開け」

「わ、わかった」

 罪悪感ゆえか、いそいそと勉強道具を広げ始める静花。対するコーデリアは「レディの頭をはたくなんて無礼ですわ」とむくれている。

「井本には言っていない……いや、井本も頑張らなくちゃならないのか。テストがあるのはみんな同じだもんな」

 一法が焦ってフォローを入れようとするが、すぐに静花の成績も決して安全地帯とは言えないことを思い出す。

 漂う気まずい空気に静花は自虐気味に笑った。

「うん。あんまり成績悪いと、今度こそゲーム機を取り上げられちゃう」

 良い加減勉強を始めなければならないのだが、静花のどうも落ち込んでいるらしい様子を見て一法は話題をそらすことにした。

「ゲームか……そういえば千絃が気にしてたけど、コーデリアが出てきたっていうのはどういう作品なんだ?」

 その言葉に静花の目がきらりと光った。

「コーデリアが登場するのは『恋するフェアリーランド』っていう作品でね。人間なのに親指サイズで生まれてきてしまった主人公マイアが、助けたツバメの背に乗って妖精の国へ行くことになるの。もともと人間のマイアは妖精のことがわからないから、妖精の学園に転入してそこで彼らのことを学んでいくんだ。その学園に通っている5人の男子……もとい5人の妖精と恋に落ちるっていうのがゲームの筋書きだよ。妖精の中でも特に5大元素を司る一族が大貴族ということになっていてね。地のノーム家、水のウンディーネ家、火のサラマンダー家、風のシルフ家、そして空のエアリエル家。コーデリアはこの中のウンディーネ家のお嬢様で、ヒロインと作中何度もぶつかり合うの」

 静花がぺらぺらと喋り出す。

 一法はいちいち「へぇ」だの「なるほど」だの律儀に相づちを打ちながら話を聞いた。

 一年以上の付き合いだが、彼女がこんなに楽しそうに、こんな文字数を話しているところを見たことが無い。一法は静花とたくさん話せて嬉しそうだが、何のことはない、ただオタクが自分の興味を持っていることに対してのみ早口で饒舌になっているだけである。

「世界観としてはアンデルセン童話の『おやゆび姫』を原案としているようなのね。ヒロインの名前もマイアだし。でもゲーム本編は物語の終わり、彼女が妖精の国に来てからのことが描かれている。言わば後世の作家による非公式の続編ね。ただし完全に原作の設定を踏襲しているわけじゃない。原作はおやゆび姫が妖精の王子と結婚するところで終わるのに対し、このゲームでは結婚相手は決まっていない。当然だよね、乙女ゲームという媒体だから相手を選ぶまでの過程が重要なんだもの。でも二次創作的だよね。そのあたりはシナリオ作家がもともと同人作家で……(中略)……そもそも原作ではおやゆび姫とツバメが良い雰囲気なんだよ。それが最後にぽっと出の王子と結婚しちゃうんだもん。それならツバメと結ばれる展開も見てみたい。そういうIF展開をやっちゃうのが厄介なオタクのエネルギーで……(中略)……世界観としては19世紀イギリスをモデルとしているようなんだけど、一方で妖精の五大貴族は五大元素という東洋の観念から持ってきている。このあたりの節操の無さが何でもありな日本のファンタジーの在り方をわかりやすく反映していて……」

 静花が怒濤の情報量を二人に浴びせている中、突然、何かが爆発したかのようなくぐもった音が響き、屋敷が揺れた。

「えっ、な、何!?」

 驚いてようやく話すのをやめた静花が周囲を窺う。

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