悪役令嬢、テスト勉強する4
「わ……、私ですか?」
静花が目を丸くする。千絃が静花に対して頼み事をするなんて、今まで一度もなかったことだ。
「そう、あんたよ。静花、あんたのゲーム機とソフト、一週間くらい貸してくれない?」
「えっ、嫌です」
考えるより先に口がそう言っていた。
千絃はまさか断られるとは思っていなかったらしく、即答した静花に眉をしかめる。
「ちょっとくらい考えなさいよ」
「嫌です無理です死にます」
そう言いながら、静花は自分の顔から血の気が引いていくのを感じていた。ゲーム機の入ったカバンを胸元でぎゅっと抱きしめる。
他人に貸すなんてとんでもない。これはつらい日常を乗り越えるための心の支えなのだ。常に自分の目に届くところに置いておかないと安心できない。
千絃はなおも言いつのる。
「試験期間だっていうならちょうど良いでしょ。預かってあげるから勉強に集中しなさい」
「勘弁してください。私にとってこれは心臓のようなものなんですよ……っ」
「無理を言うものではありませんわ、チヅル」
二人のやりとりを見ていたコーデリアが間に割って入る。
「コーデリア……」
ほっとして静花は涙ぐんだ。
そんな彼女の両肩に手をやって、コーデリアは優しく微笑んだ。
「ちゃんと断ることができて偉いですよ、シズカ。嫌なものは嫌と言う。聞かない相手にはわからせるまで戦い抜く。それができるのが、大人なのですから」
「あんたの大人の定義、歪んでない……?別に私だって何も静花を虐めようとしているわけじゃないんだけど。というか元はといえばあんたのためよ」
千絃は一方的に悪者扱いされたように感じたらしく、侵害だと言わんばかりに腕を組む。
「私のため?どうしてそれがシズカのゲームを取り上げることにつながるんですか?」
「取り上げたいわけじゃない、調べたいだけよ」
「調べる?」
「ええ。そもそも私の目的はコーデリア、模造生命(暫定)であるあんたを造り出した魔術を解析することよ」
「……」
「……」
「ちょっと、忘れてるんじゃないでしょうね!?」
揃って黙り込むコーデリアと静花に、千絃は眉をつり上げた。
「そういえばそんなこと言ってましたわね……」
「最近メイド服が板につきすぎてたから……」
二人が顔を見合わせる。
ここのところの千絃はというと、文句を言いながらも毎朝コーデリアを起こし、食事を用意し、身支度を調え、午後にはおやつをつくってやったりというように、すっかりコーデリアの世話役になることを受け容れているかに見えていたのだ。まさかまだそんな野心を胸に秘めていたとは。
「とにかく!」
千絃がテーブルを両手で叩いて吠える。
「コーデリアはゲームの中の登場人物が転生してきた存在。つまり私達にとって架空のキャラクターが、この世界で人間の血肉と妖精の術式を備えて実体化した。それを可能にした魔術を探るためには、その元となったゲームを調べるのは当然でしょう!?」
「ゲ、ゲームなら家電量販店とかでソフトもハードも売っているはずなので、どうかそちらに……。『恋するフェアリーランド』というゲームです。そのタイトルで探してもらえればすぐ見つかるから……」
半泣きになって、自分の所有物ではない市販品を買うよう促す静花だったが、千絃はちっちっちと指を振った。
「わかってないわねー。私はあんたが持っている、そのゲームを調べたいの。売られている全部のソフトあるいはハードからゲームのキャラクターが飛び出してくるんだったら、さすがに魔術師連中の中で噂になるはずだわ。今のところ、そういう噂は私の耳には入ってない。ということはやっぱり、静花が持っているそのソフトかハードに何らかの魔術が施されて、それによってコーデリアという存在がこの世界に作出されたとしか考えられないのよ」
「話はわかりましたが……、それがどうして私のためになるんです?」
コーデリアが尋ねると、
「あんた、そもそも何で自分が私達の世界に来たのか知りたいと思わないの?というか自分の世界に戻りたいとか考えないの?」
千絃が神妙な顔をして彼女に尋ね返した。
「えっ」
静花は思わず声を出した。
今まであまり深く考えていなかったが、そういえばコーデリアは自分とは違う世界の人間なのだ。確かに自分の生まれた世界に帰りたいと考えてもおかしくはない。
静花は急激に上がった心拍数をごまかしながら、隣をうかがった。




