悪役令嬢、テスト勉強する3
一法はポロシャツに綿のパンツという、休日らしいラフな格好だった。
静花を真ん中にして三人並んでソファに座ると、早速作戦会議が始まった。
だが一法はあらためてコーデリアの成績表を見ると、
「お前、これだけ勉強が苦手なくせに何で勝負なんか持ちかけたんだ?」
開口一番、呆れた声で言った。
「こう、見下されたり舐められていると感じると、ついかっとなってしまって。血が騒ぐんですよね」
「勝負ジャンキーか……?」
そこに、
「というか本性が気性の荒い人外ってだけでしょ」
と言いながら千絃が入ってきた。お盆に載せたティーセットとクッキーの詰まったバスケットをテーブルに置き、その場で紅茶をカップに注ぎ始める。最近どんどん給仕が板についてきたように見える。メイド服も以前のような「着せられている」感がない。本人に言ったら怒られるだろうが。
「岩水君、自分の勉強は大丈夫?」
テスト前なのは一法も同じなのだ。彼の方も岩水家の長男ということで、家族から並々ならぬプレッシャーをかけられているのではないかと静花は危ぶんでいた。
しかし一法は、
「あ、ああ。大体、目処はついている。だから心配するな。コーデリアだけじゃなくて井本もわからない問題とかあれば聞いてくれよ」
と人差し指で無駄に頬を掻いたりなどしながら言ってくれた。
実を言うと一法はコーデリアから勉強を教えてくれるよう頼まれたとき、静花も一緒に勉強会をすることを条件にした。一法とて少しでも多く静花と過ごす機会をつくりたいのだ。特に体育祭準備期間中は静花も生徒会の仕事で忙しそうで、普段より話す時間が減って少々焦っていた。
コーデリアは静花の相手として優人を推しているため、一法とは相反する立場だ。だが彼女も気の進まない勉強を一人でやるくらいなら静花にいてほしいと考え、一も二もなく了承したのだった。
「ありがとう!すごく助かる……っ」
事情を知らない静花は素直に喜んで、一法に感謝した。
その笑顔に一法の心が癒やされる。爆速で自分の勉強を終わらせ、千絃とコーデリアという厄介な女二人の面倒を見る苦労も報われるというものだ。
一法は頬が緩むのをこらえて、真面目な顔をつくった。
「まずは時間も限られていることだし、方針を決めるぞ。しかしどれもひどい点数……いや、英語はまだマシなのか?」
国語22点、数1A35点、数2B28点、世界史31点、生物32点……と軒並み低空飛行の中で、なぜか英語だけが49点と比較的高い点数になっているのだ。
一法はこの妙なパラメーターの偏り具合に首を傾げた。
だがこれは実はそれほど不思議なことではないのである。
説明しよう!コーデリアは言語についてだけはスキルSSなのだ。
読者諸君は疑問に思ったことはないだろうか。数ある異世界転生もので、一般日本人である主人公が明らかに西洋っぽい異世界に飛び込んでもすぐ、その世界の人間達とさも当然のように会話できていることを。
ジョージやらアリスやらという名前の連中が同じ日本語を話しているはずがない。それなのに会話が通じている。なぜか。
答えは一つ。
主人公は初めから異世界の言語スキルを持っているからだ。そうでなければ話が進まない。スキルなしだとか地味スキルだとか言いながら、彼らは初めから言語的チートなのである。
この法則はゲームの世界から飛び出してきたコーデリアにも適用される。彼女は初めから日本語を流暢に話していたし、英語も、必要ならそれ以外の全ての言語も同じように話せるのだ。
「いや、ちょっと待て!語学ができるというのはわかった。だがそれなら逆に英語の点数が低すぎないか!?」
一法が反駁する。49点というと他科目に比べて得意と言って良いように見えるが、これでも学年の平均点以下なのである。
その疑問に答えたのは千絃だった。
「ああ、この子、国語ができないから」
さらりと言って紅茶の入ったティーカップを一法の前に置く。
「なるほど国語……。確かに全ての科目は読解力がないとできない……国語はあらゆる学問の土台…………それじゃあ初めから詰んでるじゃねーか!?」
納得するも、すぐさま頭を抱える。
数学や歴史ならともかくも、世の学生の中に同級生に現代国語を教えられる奴がいるのか?全科目の中である意味で最も難解だぞ?得意科目だという人間でも定期的に「お前何言ってんの?」ってなるのが現国だぞ?だがまずそれを教えないことには他の科目も教えられない…………!
一法の苦悩をよそに、静花とコーデリアはアイスボックスクッキーに舌鼓を打っていた。
「このクッキー美味しいね」
「ええ。チヅルも腕を上げたものですわ。主人たる私の指導の成果です」
胸を張るコーデリアに、
「あんたがいつ指導したって言うのよ。焦がしすぎだの甘すぎるだの文句言ってただけじゃない……」
と千絃が呆れた顔をする。だがその顔をふと引き締めて静花の方を見た。
「ところで静花、ちょっと頼んでも良いかしら?」




