悪役令嬢、体育祭に参加する8
「みんな、力を貸してほしい」
優人の言葉に生徒会メンバーは沸き立った。
「よしきた!」
「もちろんですっ」
「何でも言ってください」
コーデリアは何も言わなかったが、満足そうに頷いた。
彼らの背後で女子生徒がきゃーっと歓声を上げたが、そこには優人は気がつかなかった。
「まずは栗本が障害物走でやるはずだった仕事の穴埋めを、友晴、頼める?」
友晴は途中からチームに入ってもすぐに他のメンバーと馴染めるタイプだ。今回のような状況でも柔軟に対応できるはずだ。
「オッケー。ゴールの門のセッティングと、美術部の障害物準備だな。ある程度は要項からわかるし、わからないところがあったら他の委員を捕まえて聞くよ」
案の定、彼は頼もしい返事をしてくれる。
「それと体育祭再開の放送を……、静花さんやってくれる?」
「は、はい……もちろんですっ」
驚いたような顔をするも、素直に頷く静花。
人前で発言するのは不得意な彼女だが、放送するべき文言は教師陣が既に用意しているはずだ。言うべきことが決まっていれば、彼女はきちんと役割をこなしてくれるだろう。
「そうだ、栗本の親御さんが一般の応援席にいたはずだ。きっと心配してる。河井さん、彼らに現状を知らせてくれるかな?気の重い仕事だと思うけど……」
「いえ、大丈夫ですっ」
蜜が応じる。
優人、蜜、栗本は同じクラスなので、こういった用事が頼みやすい。栗本の両親というのもアーティストで蛍光色の髪とパンクな衣装で遠目でも目立っていたので、すぐに見つけられるはずだ。
さらに栗本の傍で右往左往していた美術部の後輩に、
「救急隊員が来たら事故の経過を説明してくれるかな?」
と声をかける。
「わかりましたっ」
何をどうしたら良いかわからなかった彼女は、明確な指示に安心して元気よく返事した。
「それに救急車だ。グラウンドへ誘導してほしいんだけど、誰か……」
周囲を見回した優人に、
「日多木くん、私達に任せてっ」
「安全かつ速やかにここまで乗り入れさせてみせるよ」
「今こそ三人で地元サッカーチームの応援で鍛えた旗さばきを披露するときざますっ」
と杏子、志代、香蓮が揃って元気よく手を上げた。
「ありがとう、頼むよ」
優人が感謝の意を込めて微笑むと、三人娘はこれまた揃って心臓を打ち抜かれて倒れそうになった。どこまでも仲が良い。
「日多木君、私は何をやろうか?」
「俺、さっきの風で壊れている障害物が無いかチェックしてくるわ」
「選手が戻ってきたみたいだから、私は点呼を手伝うね」
その場にいる生徒が我も我もと手を挙げる。とんとん拍子に段取りが決まり、止まっていた運動場が再び動き出す。
「後は……」
ひとしきり指示を出し終えた優人は「あれ?」と首を傾げた。
「どうしました、会長?」
怪訝そうな顔をする小蝶に、優人は、
「気がついたら……、僕のやることがなくなっちゃったな?」
と頬を掻いた。
優人にしてみれば初めてのことだった。手持ち無沙汰な状況に少し不安を覚えるくらいだ。
「何言ってるんですか」
と呆れたようなコーデリアと、
「そうですよ、会長」
とおかしそうに笑う小蝶。
二人が声を揃える。
「「競技に参加するんです」」
いつになく息ぴったりな二人に、優人は目を瞬かせた。
「でももう出る人は決まっているんじゃないか?」
本音を言えばせっかくの体育祭なのだし、一種目くらい参加したい。だけど自分の我が儘で他の選手に代わってもらうというのも気が引ける。
そこに、
「日多木くん、これ……」
と声をかける者がいた。ボブカットの長身の少女。
巻田真美だった。
彼女は障害物競走用のゼッケンを両手で差し出していた。ばつが悪そうに、視線を地面に向けている。
「俺が頼んでいたんだ」
意外にも栗本がそこに口を挟んでくる。
「日多木に3組として競技に参加してほしくて、サプライズでな……」
痛みのため額に汗を浮かべながらも、優人に向かって笑いかける。
そういえば真美はこの種目の選手リスト作成を担当していた。同じクラスの栗本と上手く調整して、3組の参加者にねじ込んでくれていたのだろう。
「栗本……、巻田さん……」
こうなってくると優人も断る理由がない。二人の想いに応えなければならない。
「先頭に立って体育祭の準備に朝から晩まで走り回っているのを見てきたからな。何かプレゼントをしたかったんだ」
彼らを取り囲む女性陣はほう……と、感動の溜め息を吐いた。美しき友情、美しき青春である。
栗本が優人の手を両手でぎゅっと握る。
「お前が喜ぶ姿が見たかった……汗を流してレーンを走る姿……応援に照れた顔……風に吹かれて髪をかき上げる横顔……長い旅路の終着点にたどり着き、美しい華咲き乱れる楽園でこぼれる笑顔…………」
うん?風向きが変わってきたな?
女性陣は揃って首を傾げた。
「俺の詩神…………」
「はいはい、救急車が来ましたよーさっさと行きましょうねー」
生徒ら(主に女子)が栗本の手を優人の手から打ち払い、手際よく担架に乗せる。
「後で写真を送ってくれよなぁ~~~~…………」
サイレンと共に遠ざかる栗本の最期の声を、生徒一同、何とも言えない気持ちで聞きながら見送った。




