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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、体育祭に参加する7

 倒れていたのは美術部部長の栗本だった。

「さっきの突風のせいですか?」

「そのようだね」

 その場に跪いた優人が頷いて振り返る。

 彼の背後には巨大な花の門があった。

 障害物走に使用する4レーン分の幅と、2階建ての家屋くらいはありそうな高さ。その全体を亜熱帯の森のように赤い華がみっしりと覆っている。まるで蜷川実花のような世界観。美術部の大作である。

 彼ら美術部の意見で、今年の障害物走ではゴールにゴールテープではなくこの門を設置していた。冷静に考えて、体育祭の一種目だけのために用意するような代物ではない。気合いが入りすぎている。

 その門の前には梯子が倒れていた。

 事故に居合わせた他の美術部部員によると、門をゴール地点へと運び出す直前に、上の方の花が一輪、角度が曲がっていることに栗本が気がついたのだという。こだわりの強い彼はすぐさま梯子に登って直そうとした。そのときに運悪く突風が起こり、梯子もろとも倒れて地面に叩き付けられたのだ。

 全身を強く打ち付けている上に、あの痛がりようでは骨折もしている可能性が高い。

 優人はすぐに教師陣に報告し、救急車を呼んだ。

「みんな、落ち着いて。今、先生達が体育祭を中止するかこのまま続行するか相談しているところだから、各自、自クラスの座席に戻って待機していてください」

 現場を囲んで不安そうにざわめく生徒らに優人が指示する。

 思わぬ事故に立ちすくんでいた体育祭委員らが慌てて他の生徒を誘導し始めた。

「うう、すまない、日多木……俺のせいでこんな大事になって…………」

「運が悪かったんだよ。誰でも栗本のように怪我をする可能性はあった。救急車が10分以内には着くそうだから、それまでつらいだろうけど何とか頑張ってくれ」

 額に汗を滲ませ謝る栗本に、優人は安心させるように微笑んだ。

「ああ……、ありがとう……っ」

 栗本はほっとした表情をするもすぐまた痛みにうめいた。

 そこに教師らの言づてを預かった友晴が走ってきた。

「優人!今、理事長から体育祭続行のお達しがあった。強風は収まったようだし、栗本を病院に運んだらすぐに再開だと。お前もすぐに本部テントに戻ってこいだって」

「わかった」

 優人が頷く。

「とりあえずは良かったけど……、まずは事態の収拾が必要ですね」

「そうだね。これは……」

 小蝶の言葉に彼はしばし考えを巡らせる。

 まずは救急車を待って、救急隊員に状況を説明しなければならない。場合によっては病院へ付き添いも必要だろう。生徒とその保護者に向けて今後の進行について放送、障害物走に参加する生徒を呼び戻して……美術部には栗本の担当の穴埋めを頼んで、ああそうだ、栗本の保護者にも連絡を…………

「忙しくなりそうだな。お前、今年の体育祭は本当に参加種目ゼロになるんじゃないか?」

 友晴の言葉に優人は意識を引き戻された。その声に滲む気遣わしげな色に、そう言えば昼食の時に、もしかしたら午後の競技には参加できるかもなどと自分が言っていたことを思い出した。

「運動は別に得意じゃないから逆に良かったかも」

と言って笑う。

 この友人は普段から生徒会全体を気にかけて行動してくれているので、これ以上心配をかけたくはなかった。それに今、怪我で苦しんでいる栗本にも変に気負わせたくない。

「じゃあリズム感は?フォークダンスも不参加か?」

 友晴は優人の返答に少しはほっとしたらしく調子を取り戻して、からかうように言った。

「音楽で褒められたことはないね。残念だけど、フォークダンスも無理そうかな」

 そこに、

「本当に無理なのですか?」

と凜とした声が響いた。

「コーデリア?」

 優人が驚いて振り返る。

 コーデリアが野次馬の中から颯爽と姿を現した。彼女は腕を組み、こちらを値踏みするように見ている。

「どうしても不可能なのですか?」

「……」

 重ねて問われ、優人は黙り込んだ。

 やるべきことは山積みだ。優人にしかできないことがある。でも、優人でなくてもできることもある。

 周囲を見回すと、友晴も、小蝶も、静花も、優人のことを心配そうに見ていた。

 そしてコーデリアの目。

――あなたは私が先日言ったことを覚えていますか?

 そう、問いかけていた。

――あなたがまずすべきことは一人で全てを解決できるよう努力することではなく、人に助けを求めることです。

 あの日、コーデリアに言われたことはちゃんと覚えている。だけど、と優人は悩む。助けを求めるってどうやってすればいいんだ?

「日多木……」

 栗本が苦しそうに口を開いた。

「俺のことは大丈夫だ、何とかなる。だから、お前には体育祭を楽しんでほしい……俺のせいでお前が体育祭に参加できないなんて、そんなの絶対に嫌だ……!」

「栗本……」

 それが決定打になった。

 優人は腹を決め、顔を上げた。

「……みんな、力を貸してほしい」

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