悪役令嬢、体育祭に参加する4
プログラム10番、玉入れは2組と4組が対になって行われた。
開始のピストルと共に、一斉に紅白の玉が宙を舞う。
「おいおいすごいぞあの二人」
「一人で何個入れてんだ……!?」
ギャラリーにどよめきが走る。
言わずもがな、2組のコーデリア、4組の小蝶である。
コーデリアは体格が良い。彼女はその左の大きな手のひらに5つも玉を抱え込み、右手で次々とカゴに向かって打ち出していく。
白い玉が乱れ飛ぶ様は荒々しい吹雪のよう。途中から静花を含む他の何人かの生徒らは、人間投石器と化した彼女に玉を拾って集めるようになった。
量で圧倒するコーデリアに対し、小蝶は質で勝負する。小蝶は玉を投げる速さと数ではコーデリアには及ばないものの、投げた玉は必ずカゴに入っている。まさに百発百中。正確無比な投擲はまるでスナイパーだ。
「3、2、1、はい、終了でーす」
アナウンスと共にカゴが倒され、中に入った玉が数えられる。
「32、33……両者とももうありませんか?はい、それでは同点でーす」
「同点か~」、「でもかなり頑張ったんじゃない?」などと笑いながら三々五々に捌けていく生徒らをよそに、コーデリアと小蝶はその場から動かなかった。
「コーデリア?」
立ち去りかけた静花が不審に思い、振り返る。
次の種目の準備のために体育祭委員が地面に散らばった玉を片付けようとする中、二人は相対した。
「競技終了ということは……!」
「ここからはルール無用ということで……!」
その言葉と共に双方から繰り出される赤い玉と白い玉。
投げつけられるのはカゴではなく本人に直接である!
まるで雪合戦の公式大会のような激しい攻防。額にクリティカルヒットしたコーデリアも、みぞおちに3発立て続けにくらった小蝶も全くひるむ様子がない。
「うわぁっ、場外乱闘だぞ!」
「押さえろ!押さえろ!」
慌ててコーデリアを引っ張って応援席に連れ戻そうとする静花と、土壇場で駆けつけ小蝶を羽交い締めにして引きずっていく友晴。
ここにきて2組の順位は総合2位であった。
「ただいまより1時間の昼休憩とさせていただきます」
体育祭実行委員による放送が流れ、生徒らは一時解放されたように動き出す。
昼食は意外にもクラスの応援席にこだわらず好きな場所で取って良いことになっている。そういうわけで生徒会役員は午前中までの反省も兼ねて、一緒に食事を取ることにしていた。
コーデリアと静花が連れだって歩いて行くと、友晴が本部テント近くの座席の並びに荷物を置いて場所取りしていた。
二人の姿を見つけてこっちだと手を振る。優人も小蝶もちょうど来たところのようだ。
生徒会の輪の中にいる優人を、他の女性陣が遠くから羨ましそうにちらちらと窺っている。
「二人ともお疲れ」
「会長もお疲れ様です」
優人が二人に座るよう促した。
彼の声にわずかに疲れが滲んでいるのを感じ、静花は心配する。彼女らが競技に参加するかたわら、ずっと本部や教師、体育祭実行委員会の間を行ったり来たりしているのは見えていたのだ。
「俺も労ってくれ、井本さん~~」
優人の隣にどっかり座った友晴がふざけて泣き真似をする。
「無視して良いわよ、静花さん」と、小蝶が冷たく言い添えた。
「あはは、基山君もお疲れ様です。パン食い競争、格好良かったですよ」
「え。、良い食べっぷりでした。まるで餌を落としてやったときの池の鯉のようでしたわ」
と、静花とコーデリア。
「うーん、労ってくれてはいるが褒められてはいないような……」
「でも一番だったんだろ?喜ばしいことじゃないか」
そう言って笑った優人だったが、ふとコーデリアの方を見て、
「コーデリア、お昼ご飯は?購買に行かなくてもいいのかい?」
と尋ねた。
静花がお弁当の包みを持っているのに対し、コーデリアは手ぶらだった。
「いいえ、必要ありません。もうすぐ来るはずです」
と、自信たっぷりで応えるコーデリアの後ろで、急にざわざわとして人混みが割れた。 そこから出てきたのは、
「何で俺が一緒に行かないとならないんだ?自分が卒業した学校ならどこに何があるかわかるだろ!?」
とがなり立てながら大股で歩く一法と、
「仕方ないでしょっ。とうの昔に卒業した人間に高校生は眩しすぎるのよっ。あの溢れんばかりの生命エネルギーと若さゆえの傲慢さを前にすると逃げ出したくなるのよっ」
彼の後ろにぴったりとくっついて歩く、いつものように負のオーラを漂わせた千絃だった。
「俺だってそんな格好したお前と関係者と思われたくないから、逃げ出してぇよ……っ」
一法が言うのも当然で、千絃はいつも通りメイド服の上に黒いローブという、コスプレか不審者かというファッションであった。周りの生徒らのざわめきも納得である。
「岩水くん、千絃さん、どうしたの……?」
静花が慌てて立ち上がる。
その隣で座ったままのコーデリアが、
「ようやく来たようですね」
と言った。
「コーデリアが呼んでたの?」
「ええ。昼食を温かいうちに届けるよう命じていたんです」
何でもないことのように答えるコーデリア。
見れば確かに千絃は腕に巨大なバスケットを持っていた。
確かに温かいものを食べようとするならば、登校時に自分で持ってくるのではなく、お昼休みに徒歩10分の自宅からメイドに持ってこさせるしかないだろう。




