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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、体育祭に参加する3

「コーデリア、フォークダンスを知らないの!?」

 静花はそう叫んだところで、はっと思い出した。

 毎年フォークダンスの練習は体育の授業ではなく、各クラスの体育祭委員が放課後にクラスメイトに稽古を付けている。そう言えばコーデリアはまた教室を一つ水浸しにしたとかで、教師から説教を受けていて不参加だったのだ。

「folk dance……庶民の踊りとはどういうものでしょうか?」

と、貴族で悪役令嬢のコーデリアは首を傾げた。

「何でそんな辞書で一番最後の項に書かれているような訳を引っ張ってくるのよ。普通に民族舞踊と訳しなさい」

「というか何かわかってないのに勝負を持ちかけたあたり、コーデリアらしいね……」

 静花が苦笑いし、小蝶が額を押さえる。

 ともかくも勝負の火蓋は切って落とされた。これからいよいよ競技が始まるということで、運動場のあちこちで各クラスの円陣が組まれている。そこから女性陣のやたら気合いの入った掛け声が聞こえてきた。

 その声の大きさに、

(日多木君に好きになってもらうためには、これだけたくさんの女の子達の中の一番にならないといけないんだ……)

と、あらためて優人の女子人気の高さを思い知らされた静花なのだった。



「行けーっ、岩水ーっ、井本ーっ、ウンディーネーっ」

「全員ぶち抜いていけーっ」

 プログラム3番、三人四脚。

 静花、コーデリア、一法の三人が出走位置に着いたところで、2組の応援席から声援が飛んできた。

「俺が応援されている!?クラスの女子から応援されるのなんて、は、初めてなんだが」

 一法がそわそわと周囲を見回す。

「私も初めてだよ」

「私もですわ」

と、静花とコーデリア。

 さて、岩光学園の体育祭は3学年それぞれのクラス対抗だ。各種目の順位によって点数が配分され、総合して獲得点数が一番多かったクラスが優勝となる。

 プログラム1番の100メートル走では、コーデリアが彼女の走者グループの中で堂々の1位だったが、他のクラスメイトが振るわず2組は全4クラス中3位の成績だった。現時点での総合得点も3位。そろそろ順位を上げていきたいところだ。

「大体さっきから何なんだこのクラスの雰囲気はっ。女子が妙に殺気立っているんだが」

「ああ、それはね……」

 静花にことのあらましを聞いた一法は、げんなりとした顔をした。

「なるほど、道理で……」

 あらためて応援席を見ると、死んだ目をした男子もちらほら見える。おそらく女子のこの異様な盛り上がりの理由を聞いたのだろう。

 一法は腹を立てるより、優人に少し同情した。本人の意志とはおかまいなしに、2年女子全体に衝突を引き起こしてしまっているのである。これでは本人も下手な言動がとれず、なかなか肩身の狭い思いをしているのではないか。

 そんな一法の物思いを不機嫌と取ったか、静花が慌てて付け加える。

「でも日多木君のことは別としても、このクラスで勝ちたいのは本当だよ。私、岩水君とコーデリアのいるこのクラスが好きだから、皆で一緒に優勝したいよ」

 その言葉に一法は頬を紅潮させ、コーデリアは感激のあまり口元を押さえた。

「……っ。任せろ!」

「そうですわね、シズカ。必ずこの三人で勝利を手に入れましょうっ」

「うんっ」

 とは言ったものの。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!」

「何人たりともあたしらの前を走らせねぇぇ~~~~~~~~!!」

「ざますざますざます~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


 静花ら三人が同じ走者グループとしてあたったのは、不運なことに1組の杏子、志代、香蓮の三人娘なのだった。

 腕を振る高さも脚を上げる速さも歩幅も呼吸も完全一致。血走った目も同じ。さらに日多木君とダンスするという夢さえも同じ。

 彼女らはまるで一個の機械のように、洗練された走りで競争相手を次々と追い抜いていく。

 それは日々生活を共にし、理想を共有する者達……いわゆる「親友」と呼ばれる人間達だけに許された動きであった。

「……あれにはさすがに勝てねぇよ」

「何だろう、悔しさより感動が勝っちゃうよね……」

 走りながら彼女らの後ろに立ちこめる土煙を半眼で見送る一法と、笑うしかない静花。コーデリアすら、

「敵ながら天晴れです。私、あの三人のことを初めて恐ろしいと思いましたわ」

とこぼす始末だ。

 2組の順位は現在、4位。



 プログラム7番、大玉転がし。

「行けーっ、コーデリア、頑張れーっ」

 静花が応援席からメガホン片手に声を飛ばす。

 コーデリアは先頭で巨大な赤い玉を華麗な手さばきで転がしながら、他の走者をどんどん引き離していく。静花の応援にウインクを飛ばすくらいの余裕ある走りぶりだ。

 一方で最後尾の大玉はのろのろ、よろよろと進んでいて、コーデリアとの差は大きくなるばかりだ。

 この大玉、不思議なことに転がす人間の姿が見えない。

 よくよく観察すると、んしょ、んしょ、と一生懸命大玉を押して進む少女が見えてくる。

 3組の河井蜜である。彼女の身長は140センチ。学年で最も背の低い彼女は、全身がすっぽり大玉の影に隠れてしまう。そのため傍目には大玉が一人で転がっているようにしか見えない。さらに目の前が大玉で覆われているため、全く前が見えていない。そのためあっちにふらふら、こっちにふらふら。危なっかしいことこの上ない。

「河井さん、レーンからはみ出ちゃってるっ。もっと左っ」

「みっちゃん、がんばっ。あ、でも転ばないようにねっ」

 3組の応援も応援というより、小さな子をはらはらと見守っている様子である。

 クラスメイトの声援を背に力いっぱい大玉を転がしている蜜の姿に、

「なんか……かわいいかも?」

と静花は小首を傾げた。

 その向こうでコーデリアは悠々とゴールテープを切っていた。

 2組、現在の順位は――――3位。


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