悪役令嬢、体育祭に参加する2
その場にいた全女性陣が一斉に息を止めた。
「うん。今日はずっと本部に詰めていないといけなさそうでね。ぎりぎりになって予定していた演目に出られないって言うのも迷惑だろうから、初めから全部免除してもらうことにしたんだ」
「残念だね。1種目も出られないの?」
蜜が食い下がる。せっかく同じクラスなのに少しも一緒に競技に参加できないのは悔しいのだろう。
「進行に問題が無ければ、最後のフォークダンスくらい顔を出せるかなと思うけど……ああ、でもクラスの体育祭委員の子にはもう不参加って言っちゃってるからな。後から「やっぱり出ます」なんて言っても、逆に迷惑だろうしね。人数の関係もあるし」
フォークダンスは閉会式後のお楽しみのようなものだ。各クラスでそれぞれ輪を作って踊る。得点に加算される種目は全て終わっているので、生徒らは皆気を抜いて和気藹々とできる時間だ。
そして言わずもがな、フォークダンスとは合法的に男女が手をつなぐことのできるシチュエーションだ。
つまり!誰にも文句を言われることなく!優人と手をつなげるのである!
全女子がこの機会を狙っていないはずがない。
「3組として全種目に不参加ということは、今、ユウトはどこのクラスにも所属していないということですか?」
緊張感が漂う中、それとなくコーデリアが優人に尋ねる。
「そうなるかな」
「なら、どのクラスにも参加できるということでは?」
コーデリアの言葉に少女らが一斉にざわめく。
「そうだよ、3組の人数が足りているなら、他の足りていないクラスに参加すれば良いんじゃない?」
「フォークダンスはもともと参加必須じゃないもんね。毎年サボりや打ち上げの準備で参加しない人もいるし、日多木くんはどこのクラスにだって参加できるよ」
「ちょっと待ってよ!」
この空気はまずいとばかりに蜜が声を上げる。
「人数が足りない可能性があるのは3組だって同じでしょ。ならわざわざ他のクラスに参加することはない……」
「「「あんたは黙ってなっ」」」
3組以外の全クラス女子による総口撃。
蜜は気圧され思わず口を閉じた。
「そうだね。それなら閉会式後に様子を見て参加させてもらおうかな」
優人がそう応えたところで、
「おーい、優人。理事長がまだ来ないのかってこっち睨んでるぞ」
と、来賓にプログラムを配り終えて戻ってきたところの友晴が声をかけた。
「あっ、そうだった。ごめん、じゃあ僕はこれで」
「うん、お仕事頑張ってね」
慌ててその場を離れる優人に、蜜はにっこり笑って手を振った。だが彼が背を向けるや否や目を細め、
「……日多木君は3組の生徒よ。フォークダンスはうちのクラスで参加するに決まってるでしょ」
と低い声で牽制した。
彼女の背後で3組の女子が腕を組み、うんうんと頷く。
「こういう場合は人数が少ないクラスに入ってもらうべきでしょう。4組はもともと他のクラスより人数が少ないの。会長が入ってくれると助かるわ」
と言ったのは小蝶だ。一見、客観的な理由を語っているように聞こえるが、明らかに私情によるこじつけである。
「同じ理系クラスじゃ日多木君も授業で接する顔ぶれと変わらなくてつまらないんじゃないかしら。ここは私達、文系クラスの1組と交流する良い機会だと思うのよね」
と言ったのは杏子だ。
「うんうん」という1組女子の合唱に、「そうだ、言ってやれ杏子!」「その勢いで、はい論破ざますっ」という志代や香蓮の合いの手が入る。
最後に、4組に参加してもらうもっともらしい理由をひねり出せなかったコーデリアが、
「ええい、まどろっこしい!」
と吠えた。
「どこのクラスに参加したって同じでしょう。それなら我が2組でも問題はないはず。文句があるなら戦って勝てば良いだけですわ」
そうだそうだ、と4組女子も囃し立てる。
「コ、コーデリア……」
思わぬ展開に静花がおろおろする。先程からどんどん殺気立った空気の密度が濃くなっていくのを感じ、身を縮める。
普段ならこういう場合、周囲が「また何を言っているんだ、こいつは」とコーデリアを遠巻きにするところだ。
だが今日は違った。女性陣は爛々と目を光らせて、お互いを見ている。
「それもそうね……」
「奇しくも今日は体育祭だもの……」
「勝った者が正義。わかりやすくて良いじゃない……」
「つまり、この体育祭で優勝したクラスが……」
「フォークダンスの輪に日多木君を引き入れられる……っ」
ふふふ、ふふふ……と忍び笑いを漏らす少女達。
その中央でコーデリアは高らかに宣言した。
「ユウトのフォークダンス参加枠を賭けて、勝負です!!」
少女達はうおおおおおっっ、と鬨の声を上げ、拳を天に突き上げた。そして群れを成して自軍(自クラスの座席)に戻っていく。今から体育祭優勝に向けて作戦会議をするのだろう。
後にはコーデリア、静花、小蝶だけが残された。
彼女らが走り去る姿を見送って、「ところでシズカ」とコーデリアが声をかけた。
「フォークダンスとは何ですか?」
その言葉に静花はひっくり返りそうになった。




