魔皇、剣聖になる
「・・・なるほど。アルメンテの王とは何度か話したことがある。穏やかで優しいお方だったと記憶していたが、娘が攫われたとあれば、そうなるか」
事情を聞いたゼオンは、考え込む。
一国の王が、私情で勇者と呼ばれる彼らに国命という反抗不可の命令を出したのだ。簡単に収束する事態ではない。
「だが、娘が攫われたというのは何故わかった?攫った証拠は掴んでいるのか?」
ゼオンが勇者パーティーに確認する。確かに、ヴァンパイアに攫われたと断言するのは難しいはずだ。そもそも、ヴァンパイアに会って無事でいれる人間は少ない。冒険者の中でも、相当高いクラスの者でなければ討伐はもちろん、逃げることも出来ないだろう。
「はい。最初のヴァンパイアの討伐には、私と剣聖であるカシムが向かったのです。街から歩いていける洞窟が怪しいと記載があったので、そこに向かったんです。奥に開けた場所があって、そこでヴァンパイアが姫の首元を噛んでいたのです。」
「討伐は出来ませんでしたし、姫の救出も出来ませんでした。我々が攻撃する前に、姫と共に消えてしまったので。とりあえず、王にすぐに報告しました。信じてもらえるかどうかは不安だったのですが、部屋にいないことを確認させた後に、王は国中を探し回って、ついに見つからなかったみたいなんです」
「ほんで、そのヴァンパイアの討伐依頼を再度出して、理由に姫を攫われたことを記載したんか」
「はい、そしてその討伐に行こうとしたら、王から招集の命がありました。謁見すると、ヴァンパイアではなく、魔皇を倒せと言われたのです。」
「ふむ。唐突だな。そもそも、姫はいつからいなかったんだ?何日も誘拐されてたのなら、すぐに気づくものだろう」
そこはタナトスも疑問に思っていた。誘拐されたのがその日だとしたら、そもそもタイミングが良すぎる。彼らが討伐に向かった後に、すぐに攫ったということだ。それはさすがに難しいだろう。何日も前に攫ったとしても、気づくのが遅すぎる。
「いえ、王は遠征に出ていたようで、三日程城を留守にしていたようです。我々も何度か王に確認しました。流石にタイミングが良すぎるので。しかし、どの召使いも、執事も、姫は城にいたと言い張るのです」
「ふむ、おかしな話だな。王以外の者が、姫は城にいたと言うのだから、本当なのだろう。だが、そんなタイミング良く姫が攫われ、攫われた後の姫を君達が発見した。考えられるとすれば、何度か姫を誘拐し、食事時など姫の不在がバレるタイミングで、姫を城に戻したとしか考えられんな」
ヴァンパイアの食事時だけ姫を誘拐し、食事が終わった後に部屋に戻す、これをひたすら繰り返す。ただ、そこまでの労力を使う理由があるのだろうか。
「姫は他国からも絶世の美女と言われております。ヴァンパイアも、もしかするとその魅力に心を奪われたのかもしれません」
冗談みたいな話だが、そうとしか考えられないのだろう。皆の考えが固まりだした時、タナトスが口を開いた。
「ヴァンパイアは基本的に人間を餌としか見てへんし、何の罪もない人間を餌にするんは僕が禁止しとるから、そうそう姫なんかに手は出さへんはずやで。勿論、ヴァンパイアと人が一緒になったこともあるけど、ほんまに稀や。人にやって血の味は確かに変わるけど、それも微々たるもんや。何かしら理由があると思うわ」
タナトスの言葉で、全員が再度思考にふける。
この時、タナトスは一緒に連れて来ていた魔十狼の一人、サイに念話を飛ばしていた。
『サイ、こいつらの話、ほんまか?』
『はい、嘘は言っていないようです』
『お前の目やったら信用出来るわ。ゼオンの前であれは使いたないから。多分あんま好きなやり方ちゃうやろし。ありがとう』
念話を終えた後、タナトスが口を開く。
「とりあえず、僕が行ってくるわ。その方が早いやろ?姫も救出せなあかんし、気になることが多すぎるし」
タナトスの言葉を聞いて、全員の目がタナトスに移る。
「それは助かるが、お前の家族を侮辱する気はないが、嘘をつく可能性もあるのではないか?」
「それはないわ。僕には嘘は“つけへん”」
「・・・そうか。まぁそなたは皇だからな。様々な力があるだろうし、魔族のタナトスへの忠義は本物だ。お前に任せるよ」
「おう、任しといて!!姫も救出してくるさかい!この子らも苦労してるみたいやし、ちゃんと話もしてくれたからな。僕からはもう言うことはないわ」
勇者パーティーの一番の不安が、その一言で消えた。覇皇や国王からの処罰も、タナトスから下される罰の方が数倍恐ろしいの、剣聖を失ったことでわかっているからだ。
「そうだな。この件はタナトスが調べてくれるから、君達はもう帰ると良い。この国には転移魔法陣がある。様々な国に繋がっているし、私が許可を出した者達は自由に通れるから、大丈夫だ。気をつけて帰りなさい」
覇皇との面談が終わり、魔皇からの尋問も終わった。
勇者パーティーは一礼した後、部屋を後にした。
「なぁゼオン。相談があるんやけど」
先にサイを帰らせた後、二人きりになった執務室で
タナトスが真剣な顔をしてゼオンに話し掛ける。
「どうした?力になれることがあるなら、喜んで手伝うが」
「ほんまに?ほんまのほんま?」
「ほんまのほんまだ」
「僕が何言うても、聞いてくれる?」
「勿論だ。お前は俺の恩人だ。出来ることなら、何でも言ってくれ」
「ほな僕、明日から剣聖なるわ!!ありがとう!!」
「・・・はぁ!?」
剣聖としての旅が始まる
ついに剣聖になりました!(?)次回、本格的に旅に出る準備に入ります!




